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Bill Evans / Sunday at The Village Vanguard

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Sunday at The Village Vanguard / 1961

2004年8月20日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。==================================

ビル・エヴァンスは誤解されている。そしてその誤解で得をしているようにも思える。

白人でインテリっぽいルックス、そしてスリムな姿に落ち着いた雰囲気。それはまるで優良外資系企業の上級管理職のようだ。確かにエヴァンスは1950年にサウスイースタン・ルイジアナ大学を卒業しているのだから、ジャズ界ではインテリかもしれない。

そんな訳で、ビル・エヴァンスはなんとなくソフトで知的なミュージュシャンだと思われているようだ。だから女性層の支持率も高い。

だがビル・エヴァンスの実像はそんなものではない。1950年に大学を卒業後、アメリカ陸軍での兵役を強いられ、そこで麻薬常用が始まり、それは1980年、51歳で亡くなるまで続くことになる。

薬物乱用が原因でマイルス・デイヴィスのクインテットを解雇されたり、麻薬がエヴァンスにもたらした悪影響は大きい。また金銭的に困った状況に陥ったことが度々あったせいか、稼ぐためにエヴァンスは?マークが付くような多くのアルバムにも平然と参加し、演奏している。

そんな訳で数あるエヴァンスのアルバムは玉石混交状態。そこから数枚選ぶとなると、ある程度の選択基準を設けなければならない。

その基準の一つとして、”上級管理職的”なエヴァンスに対して堂々と自己主張ができる”中間管理職的”なミュージシャンが参加していること。目を離せば麻薬に手を出すエヴァンスを音楽に繋ぎ止めておけるだけの技量と音楽センスを持つミュージシャンが参加しているアルバムこそ、聴くべきエヴァンスのアルバムだと思う。

その条件を満たしているのが、リバーサイドからリリースされた以下の4作だ。

『Portrait in Jazz』(1959年)
『Explorations』(1961年)
『Sunday at the Village Vanguard』(1961年)※Village Vanguardでのライブ
『Waltz for Debby』(1961年)※Village Vanguardでのライブ

いずれのアルバムもスコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラム)、そしてビル・エヴァンス(ピアノ)のトリオ編成で収録されている。

この4枚の中から、あえて『Sunday at the Village Vanguard』を選んだのはスコット・ラファロのベースが堪能出来る《Gloria's Step / グロリアズ・ステップ》が収録されているから。グロリアは当時ラファロが一緒に住んでいた恋人で、ダンサーのグロリア・ガブリエルのことらしい。グロリアがアパートの階段を上がって帰ってくる時、彼女の足音が聞こえるとラファロはとても幸せだったらしい。軽やかで、ロマンティック、そして浮遊感が漂う名曲だ。

”物言う中間管理職”的なスコット・ラファロのベースとエヴァンスのピアノがぶつかり合うプレイからはダイヤモンドの破片のように硬質で輝くサウンドが辺り一面に飛び散る。表面的にはソフトに聴こえるサウンドの裏側ではエヴァンスとラファロのバトルが繰り広げられている。”上級管理職エヴァンス”は一見優しそうだが、本当はドライでタフな切れ者、そんな上司に対しても自分の主張をとことん貫く”中間管理職”ラファロ。二人の白熱議論的プレイが素晴らし。

しかし才能溢れるスコット・ラファロは残念ながら1961年7月に交通事故で他界する。享年25歳。

もう一つの選択基準として、純粋にエヴァンスを一人のピアニストとして聴くなら、一人の”匠のピアノ奏者”として聴く聴くなら、『You Must Believe in Spring』を選びたい。

亡くなった妻と兄に捧げられた、美しくも哀しいレクイエムのような作品はエヴァンス晩年の傑作。「You Must Believe in Spring / 春を信じなければなりません」。人生の晩秋に達した者だからこそ、春の存在と到来を信じ、望んだのだろうか。

And More...

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Portrait in Jazz
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Explorations
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Waltz For Debby
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At The Montreux Jazz Festival
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You Must Believe In Spring

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