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“I See You” 〜チェックインから感じる存在〜

3月26日から実質リモートワークに入り、先週はフルに自宅で仕事だった。ここまで自宅で過ごす日々は初めてかもしれず、慣れない日々への戸惑いはあるが、その一方で家族の笑い声と社会につながる仕事が空間に同居するこの感触に新鮮さを覚える自分もいる。

リモートで働くにあたって、会社のメンバーが、毎日30分、集まれる人で、Zoomで「チェックイン」をするのを1週間試してみませんかと提案してくれた。

私が働くヒューマンバリューでは、このチェックインを殊の外大切にしている。議題を決めず、今感じていること、気になっていることを一人ひとりがその場に出す時間が、お互いの背景の共有や、意識レベルでのチューニングにつながる。クライアントとのワークショップやミーティングはもちろん、社内の会議でもほぼ必ずこのチェックインから会話をスタートしている。

Zoomでのチェックイン。これまでにも何度か体験はしていたが、この時期にインテンションを持って行うチェックインは、またこれまでとは違った時間の流れを感じる場でもあった。

四角い窓越しに見る一人ひとりの表情。普段、話している人の顔をまじまじと見つめることは恥ずかしくてできない自分ではあるが、こちらの存在を意識することなく、自然と話をしている人の顔の動きが目に入る。

背景に見える本棚や机、壁紙の色彩や時折映る家族の影。バーチャル背景を設定している人もいるけれど、それも含めて、少しだけその人の生活の肌触りや息遣いが伝わってくる。

家族の話、仕事の状況の変化、リモートワークでの気づき、これからに対する不安など、様々な言葉や感情が共有されたが、気がつくと、話の内容そのものよりもその人の存在やダイバーシティを知覚しようとしている自分がいたように思う。

ピーター・センゲらの“The Fifth Discipline Fieldbook”の序文で、南アフリカに住む部族の挨拶である“Sawu Bona”という言葉が紹介されていたが、これは直訳すると“I See You”という意味らしい。あなたが私を見るまでは、私は存在しない。あなたが私を見る時に、私は存在し始める。そこには「人間は、他の人々がいるおかげで人間になる」というスピリットが込められているという。

正直なところ、入社以来、何百回、何千回とチェックインを重ねる中で、気がつかないうちに自分の中でチェックインが儀式化していたり、先のことを考えてその場にいなかったり、場を活性化するための手段のように捉えがちになっていたところが少しあったかもしれない。この1週間のZoomでのチェックインは、そうした関係性の本質を思い返させてくれる時間でもあっただろうか。

ロバート・キーガンの著作“An Everyone Culture”の中に、チェックインに関してこんな記述がある。

“If people are to be treated as more than a means to an end, then check-ins present constantly threaded opportunities to bring that humanity. We all bring our whole selves to work every day. Practices like check-ins openly welcome the whole person into work every day”

訳書を会社に置いてきてしまったので、簡単に訳すと「もし人を手段ではなく目的として扱うなら、チェックインは、そうした人間性を運ぶ継続的に編み込まれた機会となるだろう。私たちは、毎日の仕事に全人格(Whole Selves)を持ち込む。チェックインのような実践は、毎日の仕事に全人格を持ち込むことを歓迎するだろう」といった感じか。

「今日は118人だったね」「1.8メートル離れた方がいいらしいよ」そんな数字が日常の会話に当たり前のように飛び交う異常な毎日。事実を的確に把握することの重要性を認識しつつも、知らず知らずのうちに、それが私たちの奥深いところにストレスを与え、攻撃的・自他分離的・我ーそれ的なアイデンティティを強化している側面もあるかもしれないと思う。

I See You。たとえ遠隔であったとしても、チェックインで他者の存在を見出すこと、そしてそこにいない人の存在にも思いを馳せることは、「人間は、他の人々がいるおかげで人間になる」という当たり前の認識を思い返し、多様性こそが危機に立ち向かう源であることを実感させてくれるフィールドとなる。

リモートワークの手を休め、久々に外の空気を吸いに出ると、今が1年のうちでも特に花や鳥たちのエネルギーに満ち溢れる季節であることを実感する。そうした季節に身を置けることに感謝の気持ちを抱きながら。