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【エッセイ231】贅沢な時間の使い方

山に登るのもある程度慣れて、少し欲が出て来る。
ただ登るだけではなく、山頂で何かしてみたい。

今年の夏に富士山に登るという目標があるので、体力つくりのために月に一度は塔ノ岳に登ろうかと考えている。でも、同じ山に何度も登るのなら、ただ登るだけじゃなく山頂で何か楽しみが欲しい。

今まで山頂で色々な人を見てきた。

山頂で美味しそうな食事をつくっていた人もいるし、わざわざ鍋料理をしている人も見たことがある。本格的な器具を広げてコーヒーを淹れていた人もいる。バズーカみたいなレンズをつけたカメラで富士山を撮影している人もいた。

あえて山頂で何かをするというのは、とても贅沢な時間の使い方に思える。

さて、いったい何をしたら楽しいだろうか。

カメラは持っているものの良いレンズを買うようなお金はない。料理はそもそも普段からしない。ひとり暮らししていた頃は毎日、もやしをめんつゆで炒めた料理(?)をしていたけれど。

コーヒーも好きだけど、山頂で飲むならお湯に溶かして飲むインスタントで満足。一度、弘法山の山頂で双眼鏡を覗いた時は楽しかった。でも双眼鏡はそれなりに重い。(私の買ったものは1,2キロもある)塔ノ岳は体力をつかうので、できる限り荷物は減らしたい。

色々考えたけれど浮かばない。まあ、何もしなくても山を登って体力を使い果たして、景色を眺めてヘトヘトになって帰るだけで十分過ぎるほど楽しい。だから山に登っているのだし。


結局は何も特別な用意をせず、普段通りの持ち物(水、食べ物、ガスバーナー、カメラ、財布と手帳)を持って、二回目の塔ノ岳へ行った。

今回は大倉尾根ではなく、小丸尾根ルートを選んだ。途中までは、鍋割山との分岐に行きつくまでは舗装されたほとんど平坦な道が続く。ちょっと坂道があるくらいで、大倉尾根の石がごろごろの足場に比べたら歩きやすいったらない。途中までは、鍋割山との分岐に行きつくまでは。

いざ小丸尾根に登るルートの入り口に着くと、いきなり目に飛び込んできたのは「遭難多発、道迷い注意」の看板。小心者なので不安になる。大倉尾根と違って道は狭く、ずっと林の合間を縫うようにして進む。大倉尾根はところどころ景色のキレイな場所もあったけど小丸尾根は延々と林。土曜日でたくさんの登山客がいるはずなのに誰ひとりともすれ違わない。よほど道迷いが多いのか、ところどころに登山道以外の道を封鎖するように木々の合間に紙テープが渡されていた。

一時間くらい登って、ちょっと疲れたし開けた場所に出たら休憩しよう、なんて思っても開けた場所に出ない。延々と林の合間の狭い場所を登る。

大倉尾根はキツかったけど、休める場所がいくつもあった。途中に山小屋もベンチもある。小丸尾根はまったく休める場所がない。幸い誰ともすれ違わないから、狭い林の道で立ち止まって小休止くらいはできた。あまりにも誰ともすれ違わないから道に迷ったのではないかとまた不安になる頃に、山頂まで〇〇キロといったカンバンを見付ける。

とにかく登り続けて体力が尽き果てる頃ようやく、鍋割山と塔ノ岳を結ぶ小丸尾根に到着した。

小丸尾根からは富士山と神奈川の景色が一望できて、まだ30分ほど登りが残っているのにもうゴールしたような気になった。そこから塔ノ岳山頂に続く階段を登る頃には体力も気力も底を尽きて「とにかくすすめ」と心の中で念じながら階段を一歩一歩進んだ。

大倉尾根ルートとほぼ同じ、3時間40分程度で山頂に到着。

山頂でゆっくり休みながら景色を眺めていると、じわりと満足感が広がる。ああ、登ったなーという気持ちでいっぱい。それ以上は特に何をしようという気にもならなくなる。とはいえ疲れ切ったのでご飯(いつもチキンラーメン)を食べて回復。天気にも恵まれたので、富士山が雲に隠されないうちに写真を撮ろうとカメラを出した。そこでひとつ、思い付く。

この景色を写真だけでなく、絵で残せたら楽しいのでは?

カメラを持ち歩き、スマートフォンでも写真を撮っているのに、あえて山頂に腰を据えて手書きで風景を描く。

写真で撮れば一瞬だけど、きちんと自分の目で見ているものを、自分の足で立つ場所から見える景色を、自分の手で描写する。

あえて手間と時間を掛けて、やらなくても良いことをする。体験を文章に書き記すのと同じだ。とても贅沢な時間の使い方。上手に描く必要なんてない。大事なのは風景をしっかり観察し、残すこと。見返した時に何を見ていたのか思い出せたら、それで十分。


そこで描かれた絵が、こちら。

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発想は良かったのだけど、問題は私には絵心のカケラもなかった。


大人しく、その日も写真を撮って帰りました。

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また新しい山に登ります。

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すっかり山男見習い。山のことや旅のこと、自分で撮った1枚の写真を載せて、様々なエッセイを書いています。2019年4月21日から開始。

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コメント (4)
ダイセンブさん
さすがです。

(⌐■-■)🙏印象派爆発♥
山頂の食事はなぜあんなに美味しいんでしょうね。
特に、温かいラーメンやレトルトを食べている人をみると
すごく羨ましくなります。
>鳥裸族さん
ありがとうございます( ´ ▽ ` )
やはり芸術は難しい…(笑)
>tagoさん
やっぱり疲れたあとに山頂で食べる食事は最高ですね。私はいつもおにぎりかパンなので、こだわりの料理を山頂でつくっている人が羨ましいです(笑)
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