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コミチは「100年愛されるマンガづくり」に貢献したい

いよいよ「マンガ」にも、大変革の時代がやってきました。

その変化をいちばん感じたのは、「日経トレンディ スタートアップ大賞 2021」での受賞です。未来をつくる企業35社の1社として取材いただきました。

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起業して、はや3年。こうした「賞」をいただいたのは初めてのことです。

2022年は「縦スクロール(縦読み)マンガ」元年

2021年は、マンガ業界にとって重要な転換点だったと思います。

きっかけは「ピッコマ」です。アプリの累計ダウンロード数は3000万を超えました。売上は20年に前年比の約2.8倍を達成し、21年にも勢いは加速しています。

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これまでもマンガアプリはずっと存在していました。「LINEマンガ」や「comico」がスタートしたのは2013年です。今になって、なぜ「ピッコマ」がブレイクしたのでしょうか?

その要因になったといわれるのが、モバイルに特化したマンガ「WEBTOON(ウェブトゥーン)」です。

国内のマンガ雑誌から生まれた作品は、紙のフォーマットに合わせて「横読み」で「白黒」です。しかし、ウェブトゥーンは「縦読み(縦スクロール)」で「オールカラー」が基本です。

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「ピッコマ」のウェブトゥーン作品数は横読みマンガよりも少ないにもかかわらず、売上全体の4割超をウェブトゥーンが占めるといわれます。

実は、マンガ単行本の売上が大きい出版社にとって、「縦読み」で「オールカラー」のウェブトゥーンはとても扱いづらい存在です。

たとえば、「ピッコマ」で大ヒットした『俺だけレベルアップな件』の単行本(紙版)は、1冊1000円です。コストがかかるのだと思いますが、従来のマンガ単行本と比べると高額です。

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ここには、これまでの「マンガ雑誌」「単行本(紙)」というビジネスモデルを変えづらい、出版社の「イノベーションのジレンマ」が存在します。

そこにビジネスチャンスを見出した企業・スタートアップが、続々とウェブトゥーンへの参入を始めました。

KADOKAWAは、新レーベル「タテスクコミック」を立ち上げました。

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アカツキは、2022年春に「縦読みマンガ(Webtoon)」事業開始を宣言しています。クオンソラジマLOCKER ROOMといったスタートアップ各社が、ウェブトゥーンスタジオとして制作に乗り出しています。

2022年は「縦スクロール(縦読み)マンガ」元年になると言えるのかもしれません。

グローバル市場に向かう”Manga”

グローバル市場を牽引するのは、国内では「LINEマンガ(日本)」を提供するネイバー、「ピッコマ」のカカオエンターテインメントの2社です。

ネイバーの「WEBTOON worldwide service」の月間利用者数(MAU)は世界で7200万人に上るそうです。

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驚いたのは、その漫画家さんが稼ぐ金額です。

LINEマンガの広報部によると、韓国の「NAVER WEBTOON」で連載を持っている作家の全体平均年収は約3000万円(日本円換算)、そのうちトップ20の作家の平均年収は約1億7000万円に上るという。その待遇の良さは世界の作家を惹きつけている。

もちろん、国内マンガ雑誌で連載を持つ漫画家さんたちの年収も負けず劣らず高いとは思いますが、それに引けを取らないレベルだと感じました。

紙の単行本は「版権」があるため、国境を超えるのに時間がかかりますが、デジタルの縦スクロールだと一瞬です。しかも、無料ではなく「課金」がうまくいっている。

マンガ読者の人口を考えれば、デジタルネイティブの「ウェブトゥーン」を翻訳するコストを考えても、世界に読者がいるほうが有利なのは間違いありません。

一方で、バラエティ豊かなマンガ雑誌とマンガ単行本があふれる環境で育ってきた私からすれば、日本のマンガがウェブトゥーンに負けるわけがないと思っています。

あまり良い例ではありませんが、漫画の海賊版サイト上位10サイトへの月間のアクセス数の合計は、2021年11月には3億9800万と前年の6倍以上になったそうです。

マンガ原作を中心としたアニメの輸出金額も、右肩上がりで伸びてきました。日本発の「Manga」は、世界で大きな市場を創れるはずです。

「作品が良ければ、読んでくれるはず」は通用しない

ただし、良質なマンガを創り続ける出版社にも、課題が一つあります。

グローバル市場で存在感が大きいネイバーとカカオの2社は、いわゆる「プラットフォーム」です。図にすると、次のようになります。

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「でも、今までもAmazonというプラットフォームがいたはず」と思われる人もいるかもしれませんが、意外にもAmazonと出版社はこれまで共存共栄の関係が続いてきました。

なぜなら、Amazonが重要視していたのは「セルフパブリッシング」と呼ばれる”著者が自ら出版する仕組み”だけであり、プライベート・レーベルには力を入れてこなかったからです。理由はいろいろとあると思いますが、Amazonが自社制作に力を入れているのは、今のところ映像作品です。

しかし、ネイバーとカカオの2社は、オリジナルの「ウェブトゥーン」を自社制作しています。そこがAmazonとの大きな違いです。

なぜ、これが課題なのか?

どのマンガ作品をユーザーに対してオススメ(レコメンド)するかは、プラットフォーム次第になります。つまり、あえて強い言葉で表現するならば「生殺与奪を握られる」ということです。

実際に、マンガアプリを使ってみるとポップアップで勧められる作品の多くは自社制作のオリジナル「ウェブトゥーン」です。そうでなければ、作品数が少ないウェブトゥーンの売上がこんなにも高くならないのではないでしょうか。

自社制作のウェブトゥーンは、出版社(パブリッシャー)の取り分がありませんので、おそらく利益率は高いのだと思います。

「作品が良ければ、読んでくれるはず」という考えは、プラットフォームには通用しません。デジタル上のいちばん良い棚には、自主制作のウェブトゥーンが並びます。

これは流通業であれば、一般的な話です。セブン&アイ・ホールディングスが「セブンプレミアム」のような共同開発のプライベートブランド(PB)を目立つ場所に置くのと同じです。

利益率が高い商品を売りたいのは、どんなビジネスでも当たり前の話です。

出版社がD2Cを始めるべき、3つの理由

もしかしたら、この仕組みがいずれ「マンガ出版社(パブリッシャー)を苦しめることになるのではないか?」と私は考えました。今はプラットフォームでの売上が好調でも、いつか主導権を握られたときには「時すでに遅し」です。

コミチの解決策は、マンガ出版社(パブリッシャー)や漫画家による「D2C(Direct to Consumer)」です。つまり、パブリッシャー自身が、読者と直接つながる仕組みを提供することです。図にすると、次のようになります。

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ポイントは、スマホ「アプリ」ではなく、「WEB+SNS」を中心として設計することです。これには3つの理由があります。

①マンガとSNSの相性はとても良い

もともとコミチは「マンガSNS」から始まりました。漫画家さんが作品を投稿し、TwitterなどのSNSで拡散するためのWebサイトです。実は、そこから大々的にバズったWEBマンガがたくさん生まれました。

マンガとSNSの相性がとてもいいことを、私はアクセス数という”数字”として知っていました。

マンガアプリは、好みに応じて機械がレコメンドしてくれる精度は高いのかもしれませんが、「ファン(読者)が作品や漫画家を推す」という人間がオススメする仕組みが弱いと感じます。

だからこそ、マンガアプリと並行して、出版社による「WEB+SNS」のD2Cがあったほうが「ファンがマンガを広めてくれる」と私は思いました。

②「WEB+SNS」はコスパと収益性が高い

アプリの売上の30%は、AppleやGoogleなどのプラットフォームが手にします。さらに、マンガアプリのプラットフォームからの手数料を引いたら、出版社・漫画家にいくらの金額が残るでしょうか?

米Epic Games「Fortnite(フォートナイト)」をめぐるAppleとの訴訟は、世界中のディベロッパー・パブリッシャーにとって”プラットフォーム手数料とは何か?”を考えるきっかけとなりました。

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クリエーターエコノミーとして注目されているゲームプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」は、すべての手数料を差し引くとクリエーター(開発者)が手にするのは売上の約1/4だと言われており、一部のクリエーターから批判されています。

こうした時代の趨勢もあり、アプリだけではなく「WEB+SNS」のD2Cが必要だと感じました。エンジニアならば直感的にわかると思いますが、アプリよりもWEBのほうが運用コストがそもそも低いです。

また、コミチは「プラットフォーム」ではなく「SaaS(Software as a Service)」なので、基本的には「手数料」ではなくソフトウェアの「月額の利用料」という考え方です。出版社・漫画家などのクリエーターにとって、コスパがとても良いと思います。

③読者と直接つながるメリットは大きい

マンガアプリ上で得られる読者の情報やデータはどれぐらいあるでしょうか? 「WEB+SNS」の仕組みの良さは、第一に「読者情報やデータの豊富さ」にあります。

会員登録したときの読者属性はもちろん、作品をレコメンドしたときのビュー数やクリック率、さらにはSNS上での反応や、どういう検索キーワードで訪れたかなど、マンガ作品と読者に紐づく様々な情報やデータを得ることができます。

もともとマンガ雑誌には「新人発掘」の機能がありました。このような「読者がどう反応したか」の様々なデータは、新たな作品にとって大切なフィードバックであり、またSNSでの「面白かった」といったダイレクトな読者の感想は、漫画家にとっての大きなモチベーションになるはずです。

第二に、マンガ雑誌の世界観や、漫画家や作品に対する熱量をダイレクトに伝えられることが理由に挙げられます。コミチがサポートする講談社「ヤンマガWeb」では、マンガだけではなく、グラビアや記事を提供しています。

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すでにMAU(月間アクティブユーザー)がユニークユーザーベースで200万目前に達しました。記事は、ニュースアプリやSNSを通じても届けることができるため、新たな読者を連れてくる仕組みです。これがオープンWEBのメリットです。

「マンガSaaS」で多様性をつくりたい

もともと、コミチを創業した私は、マンガが大好きな普通のエンジニアでした。過去にやってきた仕事は、プロ野球選手の分析システムや、高校生向け通信講座のデジタル化です。そこでデータを可視化し、分析することの大切さを実感してきました。

2015年に、クリエイターエージェンシーの株式会社コルクと出会い、CTO(最高技術責任者)を務めました。そして、「エンジニアリングの力で、マンガを支えたい」との思いで、2018年に「コミチ」を創業しました。

大事にしているのは、”エンジニアリング”という考え方です。次の言葉に尽きます。

多様性を信じ、短いサイクルで、最適なプロダクトを作る。そして、カイゼンを繰り返す。

実は「日本発のマンガSaaSで世界に勝ちたい」などの、大それた野望はありません。今、自分が日々向き合っているマンガ業界が大きな変革期に入ったことを感じ、それに対して「エンジニアとして自分がやるべきことは何か?」を探した結果が「コミチ」でした。

これまでも、紙への掲載を前提につくられたマンガ作品を、簡単に「縦スクロール化」できる仕組みなどを開発してきました。それがマンガに携わるクリエーターにとって「最適なプロダクト」だと思ったからです。

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同じように、「WEB+SNS」でクリエーターと読者が直接につながるD2Cが今だからこそ必要だと考えて「マンガSaaS」を開発しました。

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マンガアプリというプラットフォームだけではなく、出版社や漫画家がダイレクトに読者とつながるD2Cが並行してあることで、マンガに多様性が生まれるはずだと信じているからです。

マンガには、データではじき出された売上を最大化する作品もあれば、クリエーターやファンの”思い”が乗った作品もあります。クリエーターやファンの”思い”を、マンガを愛するエンジニアの一人として支えていきたい、というのが私の本音です。

2022年は、「縦スクロール(縦読み)マンガ」元年。

コミチは「100年愛されるマンガづくり」に貢献します。

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