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月刊こしら Vol.87 (2022年8月号) 「寄席に出る意味」

「寄席に出る意味」 文・立川こしら


エンターテイメントが少ない土地に行くと、驚く程歓迎される事があります。
唯一のライブがお祭り。そんな地域は日本中沢山あるのです。
祭りは、地域の歴史と強く結びついています。必然、エンターテイメントと歴史はセットになっているのです。
そこに落語家が来るのですから、歓迎されるのは当然です。こちらから聞かなくても土地の歴史を教えてくれます。
そして最後に「これ落語になりますよね?」と目を輝かせて、こちらを覗き込んでくるのです。
どちらかというと講談の方が向いてるとは思いますが、聞いた話を落語にして披露すると、もちろん大喜びされるのです。
こういった場合、落語にするのは意外と難しいのです。まずは、その物語をどれだけ地元の人が認識してるのか確認が必要です。
一部の人しか知らないという現場に度々出くわしてしまいます。
そういう場合は大抵うまく行きません。
古典落語は何人もの演者によって、結果的に推敲を重ねた作品だけが残っています。
だから、万人に伝わる筋立てになっているのです。それこそ初めて触れる人にもわかりやすい物語なんです。
新作落語はそうは行きません。今誕生した物語はこなれていないのです。初めて落語に触れる場合に、あまり適していません。
そこを補うのが、みんなが知ってるストーリーになるのですが、その土地の歴史が、会場に来ているお客さんの共通認識になっていない場合は、古典落語より適していないコンテンツになってしまいます。
せっかく土地の物語を題材にして、喜んでもらおうと頑張っても、裏目に出る事も多いのです。

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