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実践!地頭トレーニング#12 ノーベル賞 (問題編)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私)
:地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

トマトの市場規模2倍の施策のまとめ

(私)「それでは3人の回答が出そろったところで、トマトの課題のまとめに入りましょう。まず市場規模はおおよそ2800~3800億円で皆さん同じくらいの規模と推定しましたね。また基本的には家庭用で消費される素材用のトマトが一番大きいセグメントだという視点でも一致していたと思います」

(私)「上記の市場規模を踏まえた上での売上施策ですが、3人とも視点が異なり且つ各施策とも2倍に増やせる可能性が感じられ、聞いてとても興味深かったです。皆さんの施策をまとめると以下のようになりますね」

修君:トマト煮込み料理・調味料の普及による消費量の拡大
まひるちゃん:リコピン・サプリの消費を拡大
良太君: 単価を下げて消費量を拡大/規格外トマトを畜産農家へ販売する

(私)「上記の施策を眺めていると、ある一つのフレームワークが頭に浮かんできます」
(ま)「前回の売上アップのフレームワークですか?」
(私)「それも良いですが、今日はもう一つの違うフレームワークを紹介しましょう」

アンゾフの成長マトリクス

(私)「以下の図に示した(製品vs市場or顧客)x(既存vs新規)のマトリックスはアンゾフの成長マトリックスと呼ばれる有名なフレームワークです。3Cやアマゾフの成長マトリックスは使う頻度が非常に高いので、使いこなせるようになると役に立つフレームワークです」

トマトまとめ01

(引用元: ビジネス+IT)

(良)「そのフレームワーク知っています。各象限において以下のような事業拡大施策を考えるのですよね」

(既存)製品x(既存)市場 : 現在の市場で競合からシェアを奪うことで成長
(既存)製品x(新規)市場 : 今ある製品を違う市場へ用途展開することで成長
(新規)製品x(既存)市場 : 既存の市場/顧客に新しい製品を投入することで成長
(新規)製品x(新規)市場 : 新規顧客に新製品を販売する多角化を通じた成長

(私)「はい、さすが良太君良く知っているね。この考え方は応用範囲が広いから使いこなせるように練習をすると良いです。例えば、今回のトマトの課題で3人の考えた施策は全てこの中に当てはまります。少しやってみましょうか。まず既存の製品というと、今回は素材用のトマトであったりケチャップやトマト・ジュースですね。新規製品でいうと、まひるちゃんが発想したリコピン・サプリですね。実際リコピン・サプリは既に販売されているけど知名度の点ではまだまだ新製品として考えて良いでしょう。同様に市場・顧客の視点で分類できますか?」
(ま)「既存の市場・顧客は家庭とかレストラン消費のことですか?」
(私)「そうですね。もっと端的に言えば既存の消費者…つまりヒトということになりますね。それでは新規の消費者は誰になりますか?」
(修)「そうか、良太君のところで出た家畜…つまり動物ということですね」
(私)「その通り、良いですね。ではアマゾフの成長マトリックスを使って皆さんの施策がどの象限に入るかまとめてみましょう」

トマト11


(良)「おおっ!アマゾフのマトリックスのことは知っていましたが、実践ではこうやって使うのですね。確かにこのフレームワークを使えば、もっと簡単に家畜向けに規格外トマトを販売するアイディアを思いついていたかもしれません」
(私)「ふふふ、知っていることと使えるレベルになっていることは全く違う次元です。だからこそトレーニングが必要なのです」
(ま)(なるほど、あらためて納得したわ…)「ところで、右上の象限のところが『?』になっているのですが、どういう意味ですか?」
(私)「気が付きましたね。あえて『?』を付けました。ここからがアマゾフの成長マトリックスの真骨頂です。皆さんの施策をまとめると、唯一(新規)製品x(新規)市場の象限の施策がありませんよね。この部分の施策をこのフレームワークから発想してみましょう」
(ま)「この象限は多角化の話になるから全く異なる分野の施策かと思っていました」
(私)「全く異なるわけではないですよ、あくまで既存の顧客・商品の延長線上にある新規分野です。英語ではadjacent market(お隣の市場)と呼んだりします」

(良)「うーん、このマトリックスから発想するとなると、新規製品は『サプリ』で新規顧客は『動物』だから、、、それらを組み合わせると、動物サプリ?」
(修)「……んっ!ペット市場とかどうかな?犬と猫とかにリコピン・サプリを販売するとか」
(良)「あっ!なるほど。確かに今や日本人にとってはペットは家族の一員以上の存在で、ペットにかけるお金は下手したら人間より多いからね」
(修)「まひるちゃんの施策にあったようにリコピン・サプリ1粒に使用するトマトの量は多いから、ペットも安心して食べられるリコピン・サプリを開発し、農林水産省のお墨付きみたいな形で認定すればトマトの消費量が更に増えるかもしれないね」
(私)「うん、いい議論ですね。そうすると上記のマトリックスは以下のように進化しますね」

トマト12


(ま)「すごいわ!こうやってアマゾフの成長マトリックスを使って発想を広げるのですね」
(私)「その通り、フレームワークを使う利点はこのように漏れている考えを明らかにし、発想を広げることが可能になる点です。ブレーン・ストーミング等を行う時はある程度のアイディアがでたら、フレームワークにそってまとめてみると更に議論が深まりますので試してみてくださいね」
(ま)「はい!覚えておきます」

(修)
「ただ、ペット用のリコピン・サプリの課題はおそらく値段が高くなることだと思います。その点はまた農林水産省の補助金を付けることで解決できるのでしょうか?」
(私)「良い目の付け所だね。おそらくペット用サプリに対して政府の補助金を出すのは難しいでしょうね。というのも日本でペットを飼っている人口って大体20百万人なので、国民全体で見ると不公平感が生まれるからです」
(ま)「そっか~だとするとペット向けのリコピン・サプリのコストダウンも考えないといけないのですね」
(私)「ふふふ、必ずしもそうでないですよ。何故ならペット・サプリはWilling to payを高くできる商品だからです」
(ま)「Willing to pay?」

Willing to pay

ビジネスにおいてプライシング(値決め)は企業経営方針そのものを決めると言っても過言ではないくらい、とても重要な意味を持つ要素です。同時に非常に高度な判断を要するアートのような要素でもあります。商品やサービスの価格は基本的に「コスト+利益」というボトムアップの考え方で決める場合と、顧客がその製品・サービスに対して「どれくらいの対価を喜んで支払うか?(= Willing to pay)」というトップダウンで考えて決める場合があります。実際のところは先ずボトルアップで目標利益率を定めた上で、トップダウンでWilling to payをどこまで引き上げられるのか?を様々な側面から検討し、最終的な価格を決めます。

このWilling to payを見極めるのが非常に難しいため、プライシングはアートの要素を含んでいるとも言われます。商品の魅力はもちろんのこと、顧客との力関係はどうか?どれだけその商品を切望しているのか?どこまでの価格なら懐を開くのか?競合商品や代替商品はあるのか?販売量はどれだけ大きくなる見込みか?将来的に起こりうる値下げをどれだけ考量すべきか?等々の様々な側面から検討し、高すぎず安すぎないピンポイントのWilling to payを見極めていきます。

上記のペット向けのリコピン・サプリにおいては、ペットに対する愛情の高まりやヒト向けのサプリの値段を考慮しながらwilling to payを探ります。私だったらある程度強気の高い価格を先ず設定します。というのは、このペットサプリの分野は市場として形成されていない初期の段階であるため、最初にエントリーした値段がそのままマーケットとしての「価格感」につながるからです。一般的に日本の消費者は安くて良いものを求める傾向にあるので、最終的にはより安い価格に向かうと思います。だからこそ、最初から低価格ではじめると将来的に利益確保が難しくなり、継続した投資をする余裕がなくなり、結果として政府も企業もそして消費者自身も損することになるからです。

(良)「確かに価格は単純に安ければよいというわけではないですね。今の仕事においても、単に価格を下げることで商談をまとめようとする営業は能力がないとみなされますし」
(私)「その通りです。プライシングは顧客や競合そして世の中の流れ等も加味して決める非常に高度な判断です。良太君も日頃の営業活動を通じてその難しさを味わいつつ、プライシングのセンスを磨いていってくださいね」
(私)「さて、トマトの課題は以上としましょう。続けて3つ目の課題にいきましょう」

お題3「ノーベル賞」

(お題)「もしあなたが文部科学大臣だったら、日本人のノーベル賞の受賞者を増やすためにどのような施策を行うか?」

(私)「今回は数値算定は行いません。ノーベル賞を増やすための施策を考えてみてください。ポイントはできる限りロジカルに発想することです。そのためにロジックツリーを学びながら3人で一緒に考えていきましょう」
(ま)「今回も主語は大臣なのですね。それにしても、難しい印象だわ」
(修)「いつもの僕なら思いつきでアイデアを発想してしまうため、今回は意識的にロジカルシンキングしたいと思います」
(良)「そもそもノーベル賞の基礎的な知識がないから、先ずはしっかり調べることから始めようと思います」

(私)「うん、良太君の言う通り、いきなり施策を考える前に、そもそもノーベル賞にはどんな分野があって過去どのような人が何人受賞しているか等の基本データーを集めてみてください。あえてどのくらい増やすかの目標数字も掲げていません。その点についても皆さんで考えてもらいたいからです。今回は難易度が少し高めなので、各人で答えを出すのはなく3人で一つの解答を作っていきましょう」
(修)「はい、トマトの課題の時みたいに知恵を出し合って考えることができればと思います」
(ま)「そうね、クロス・ファータリゼーションを使って攻略しましょう!」
(良)(まひるが言うとゲームみたいだな…)

今回は以上です。ビジネスではない課題にも時々取り組むと地頭トレーニングに役に立ちます。ノーベル賞の他にも「オリンピックのメダルを増やす」とか「少子化問題にどう取り組むべき」等々ありますね。フェルミ推定のような定量議論とは違い、定性議論中心で考えを深めていく必要があるので、ある意味もっと脳の汗をかくかもしれませんね。余裕があれば皆さんも是非トライしてみてください。それでは、また次回!

(表紙写真: マカオ)

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