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実践!地頭トレーニング#11 トマト (解答編続き)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

トマト解答例3 (市場規模推定)

(良)「それでは説明します。自分は家庭消費にフォーカスして考えました。下記の通り世帯毎にセグメンテーションすることで、トマトの年間の消費市場規模を3600億円と推定しました」

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(良)「基本的なロジックはまひると同じで(世帯数) x (一月あたりの世帯消費量) x (単価) で考えました」
(私)「ふむ、世帯は人数というよりも特性の切り口からセグメンテーションしたんだね」
(良)「はい、その通りです。一人暮らし、夫婦、子供有りの核家族、1人親、そして2世帯以上の大家族、それぞれ購買特性が異なると思い、1ヶ月のトマト消費量にその特性の違いを反映さえて考えました。全国の世帯数を55百万として、各世帯の比率は以下の国勢調査のグラフを参考にしました」

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(引用元: 総務省統計局) 

(ま)「良太だからどんなすごいロジック考えるのかと思ったけど、意外とオーソドックスなんだね」
(私)「まひるちゃん、ロジックにオーソドックス云々はありません。あるのは目的を達成するために一番良いロジックを考えることだけです。今回のトマトの消費量を考えた時、家庭消費が一番インパクトが大きいセグメントだから、その部分を世帯特性の切り口から深掘りして考えるのはむしろ自然な流れだと思います」
(ま)「そうですね……すみません(えーん、叱られちゃった😥)」

トマト市場規模2倍の施策3 (プライシング)

(私)「良太君のロジックや市場規模感は間違えて無さそうだね。この分析から何か気づきはありますか?」
(良)「はい、やはりポイントは世帯毎の消費量だと思います。以下の通り、各世帯の大まかな特性を考えてみました」

[単身世帯] 主に学生や独身の社会人が多く、時間もお金も自由がきくので自宅で料理よりは外食したりお弁当・惣菜を買うケースが多い
[夫婦世帯] 子供なしか既に子供が独立した世帯で、時間もお金も比較的自由がきく。外食することも多いが家では料理するケースが多い
[夫婦+子供世帯] 子育てが中心で時間が不自由な世帯。家庭内で料理する機会がほとんどで外食は少なめ
[1人親の世帯] 時間もお金も不自由な世帯。家庭内で料理することが多く、お昼もお弁当を準備することが多い
[2世帯以上] 時間やお金はある程度自由がきくが、大家族ゆえ外食よりも家庭で食事することが多い

(良)「最初は分析を見て単身世帯が数も多いし、世帯当たりのトマト消費量も少ないから、そのセグメント向けの施策を考えようとしました。しかし、上記の世帯毎の特性をよくよく考えると、そもそも時間かお金に不自由がある世帯しかあまり家庭で料理しないため、やはりターゲットは夫婦+子供世帯と1人親世帯になると考えました」
(ま)「確かに我々単身組は疲れた時とか外食やお弁当で済ますけど、子供がいると家庭料理が中心になるわ。問題は具体的な施策ね。基本的には消費の量を増やすか、或いは単価を増やすかになるけど単価アップは難しいからやはり消費量を増やすしかなさそうね」
(良)「うん、そうなるね。需要を喚起する上で、新しいコンテンツ(トルコ料理)を考えた修の施策は面白いと思ったよ」
(修)「いえいえ、何度も言う通り2人と議論したおかげだよ。良太君も何か他のコンテンツを考えたの?」
(良)「いや、自分の場合はコンテンツではなくプライシングから攻めようと考えたんだ」
(ま)「プライシング?値決めってこと?」
(良)「うん、調べたところトマトの値段って大体100円〜130円ぐらいで変動しているんだ。ミニトマトになると280円〜330円」
(ま)「突出して高い野菜ではないけど、かと言って気軽にたくさん買える値段でもないわね。特にミニトマト」
(良)「うん、特に消費量が多い夫婦+子供世帯や価格に敏感な一人親世帯にとっては価格に対して敏感と思うんだ」
(ま)「確かにトマトが80円以下、ミニトマトが250円以下で販売されていたら、健康の観点からもっと気軽に手を出して買うと思うわ」
(良)「うん、本当はその辺りの価格の敏感度を調べたかったけど、どこにもないから、仮に値段を25%下げて(110円→82円)、各世帯の消費量が以下のように変化すると仮定したんだ。そうすると、市場規模が約5600億円まで大きくなりそうなんだ」

トマト05

(私)「うん、良いね。良太君が考えた仮定は実際のビジネスではプライス・エラスティシティ分析(価格の弾力性分析)と言う手法で検証します」

プライス・エラスティシティ分析

価格の弾力性分析とも言われ、商品の価格を下げた(or 上げた)時に需要がどのくらい増える(or 減る)かについて小集団サンプルで分析することです。その結果に基づき最終的な商品の値下げ幅(or 値上げ幅)を決めます。

通常以下のようなグラフを書き、商品価格の変動に対して需要がどれだけ敏感か?を調べます。

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(引用元 : 日経新聞 今日のことば)

トマト市場規模2倍の施策4 (飼料への用途展開)

(良)「なるほど、実際のビジネスではそのようにして分析するのですね。自分も上記のような消費量アップの仮定をおいたのですが、正直少し強気の設定で自信がなかったので…」
(私)「あくまでもトレーニングですから、おおよそ正しそうな仮定ならOKですよ。それよりも強気の設定とのことでしたが、市場規模2倍アップには少し届きませんでしたね。もう一声トマトの市場規模をアップさせる施策はありませんか?」
(良)「そうなんです。ただ今のロジックではこれが限界だと思うので、ユニバースを広げて考える必要があると思っているのですが…」
(私)「ふむ、そうですね。ユニバースを考える前にもう一つ考えておくべきことがあります。価格を下げると言うことですが、どうやって下げますか?JAにお願いして流通マージン幅を下げますか?それとも農家の生産コストを下げますか?」
(良)「マージン幅は一定を考えていますので、流通業者も農家も一律で25%コストダウンになると想定しています」
(私)「ふむ、そうすると現在農家でトマト1個の生産原価が仮に60円だとすると、25%コストダウンになると45円で生産してもらわないといけないね。生産量がいくらと増えるとはいえ、流通業者と異なる農家にとっては実現可能なことかな?」
(良)「確かに…農家の実態を調べていた時に一つ気になったのは野菜を作る際に100%作った野菜を販売できるのではなく、ある一定の割合で規格外野菜が出るそうです。以下のサイトによるとその割合はなんと40%にもなり、その処分費用がかかるそうです。そのコストは変動費になるので、生産量が増えれば単純に生産コスト全体が大きく下がるわけでは無さそうです」

規格外野菜って何?

(ま)「40%も規格外野菜ができるのね!知らなかったわ」
(私)「ふむ、そうすると農家としては販売量が増えても、それに比例してコストが下がるわけではないから、その点を何とかしないとコストダウンには応じないでしょうね」
(ま)「あっ、そしたら私の回答で出た加工品製造会社のように、農林水産省が買い取り保証をするのはどう?全量買い取りだと最大で10円ぐらいまで生産コストが下がるから、全量とはいかなくても、少なくとも消費量が増えた分の規格外野菜は買い取ることにするとか?」
(良)「なるほど、確かにそうすれば農家もコストダウンを受け入れ易いかもしれないな。でもその場合、買い取った規格外トマトをどうしよう?消費増加分とはいえ結構な量になるよね」
(ま)「そうね…加工品だと規格外トマトでも上手く使い切れる工夫ができそうだけど、食品用だとはけ先が無さそうね。やっぱり難しいかな」

(修)「はけ先か…大量のトマトがあっても食べきれないよね。毎日トマティーナを開催するわけにもいかないし…或いは動物園にいる動物にでも食べてもらうとか(笑)」
(良)「動物……んっ!?そうか修、もしかしたら、それはユニバースを広げて考えることにつながるぞ。動物ってトマト食べるのか?」
(ま)「実家の田舎ではよくタヌキや鳥が畑のトマトを荒らしていたわ。トマトは高い栄養素がたくさん含まれているから動物にとっても健康食品かもね。それがどうしたの?動物園にでも販売する(笑)」
(良)「そうだよ、買い取った規格外トマトを動物のエサとして販売するんだよ。ただ動物園じゃないよ、農林水産省の視点で考え、全国の畜産農家に販売するんだよ」
(ま)「あっ!なるほどね〜。畜産農家なら農林水産省でコントロールし易いし、何よりも量がはけるわ。良いところに目をつけたわね」
(良)「みんなのおかげだよ。これならばトマトの消費量を増やせるし、農家もコストダウンできるし、何よりも規格外トマトを畜産農家に販売することで更なる収益源を得られるからトータルで2倍の市場規模達成も可能になるかも」
(ま)「加えて畜産農家も低コストで栄養価の高いトマトが手に入る可能性があるから、まさにみんなWin-Winの関係になれるね」
(私)「ふむ、またまた3人とも素晴らしい議論でしたね。Very Good!トマトの課題においては、全ての回答において3人がクロス・ファータリゼーションを見事に発揮しましたねその結果、素晴らしい施策の発想につながったのだと思います」
(3人)「クロス・ファータリゼーション?」

クロス・ファータリゼーション

クロス・ファータリゼーションとは「cross fertilization*」の英語のことで直訳すると「お互いに肥料を掛け合う」という意味です。私がこの言葉を初めて聞いたのは10年以上も前に大前研一学長のBBTのイノベーション講座を受講した時です(下記参照)。
* ビジネス英語ではあまり聞かない用語なので、おそらく大前さんが独自に生み出した言葉だと思います

大前研一イノベーション講座 (ビジネス・ブレークスルー)

少し脱線しますが、大前さんは日本のコンサルティング業界の開祖みたいな方で、当時事業サイドにいた私はこの講座を通じて大前さんの圧倒的な知恵と発想力に感銘を受けました。そのことがきっかけとなりその後、外資系戦略コンサルティングファームの門を叩くことになるのですが、、、それはまた「はりぼーの独り言」にて書こうと思います。

さて、このクロス・ファータリゼーションですが、意味としては複数人の仲間達がお互いに情報や知恵を出し合い、他人の情報や知恵によって自身の脳が刺激されることで新しい発想を生み出したり、今あるアイディアをより進化させたりすることです。お互い肥料を掛け合うことで発想を成長させていくイメージですね。

今回のトマトの課題において市場規模2倍の施策を発想する際、3人の回答いずれにおいてもクロス・ファータリゼーションが発揮されました。思い返してみると:

修君の回答: まひるちゃんのアイディア(AIDA)に良太君が肉付けし、それによって修君が日本版トマティーナを発想した
まひるちゃんの回答: まひるちゃんのリコピン・サプリのアイディアに対して、良太君が価格の課題を提示し、政府の補助金支給を修君が発想することで実現可能なアイディアに進化させた
良太君の回答: 規格外トマトの問題に対して、まひるちゃんが買い取りアイディアを出し、修君が動物のエサというユニバースを広げる示唆を行うことで、最終的に良太君が畜産農家への用途展開を発想した

ビジネスにおいて、全員がクロス・ファータリゼーションの意識を持って議論に臨めば、素晴らしい発想や問題解決策が生まれるはずです。私自身もBBTの講座期間中に多くの仲間達と議論しながらクロス・ファータリゼーションの威力を肌で実感しました。皆さんも是非クロス・ファータリゼーションを意識して議論してみることをお勧めします。

それでは、今回はここまでとしましょう。次回はトマト課題の施策についての総まとめを行った上で、3つめの課題の問題編に移りたいと思います。それでは、また次回!

(表紙写真: スペイン フリヒリアーナ)

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