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実践!地頭トレーニング#5 ビニール傘 (解答編続き)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す


ビニール傘解答例2 (チャネル分類型)

(私)「それでは引き続き良太君の解答を説明してもらえるかな
(良)「はい、私はビニール傘の販売を増加させるための施策を意識しながらロジックを考えました。具体的には、ビニール傘の販売本数を精緻化するよりも販売チャネルあるいは販売単価に着目したロジックをベースに考えることにしました。詳細は以下の通りです…」

ビニール傘2

(良)「左側にある前提の通り、まず日本で一年間に販売されている全ての傘(一般傘や折り畳み傘含む)の数を1.5億本と推定しました。」
(良)「その上で、その1.5億本が販売されているチャネルを主に100円ショップ、コンビニ・スーパー、ファッション系のお店の3つと考え、それぞれのチャネル毎にビニール傘の販売量と金額を推定しました」

(ま)「そもそも、前提にある1.5億本という買い替え需要をもっと精緻に推定するのが目的じゃないの?一人当たり年間平均1.5本を買い替えるって荒っぽ過ぎない」
(良)「うん、本来まひるみたいに地域分けしたり年代分けしたりして、そこの部分の精緻化は最終的には必要だと思うけど…」
(ま)「そうよ、だからセグメンテーションを勉強したんじゃないの、全国一律で年間1.5億本なんて意味ないじゃん」
(良)「でも、そもそもセグメンテーションはビニール傘の販売量の増加を念頭に置いて考えるんだよね。そしたら最初に考えるべきは地域や年代じゃなくて実際に販売するチャネルじゃないかな」
(ま)「どっどういう意味よ!」
(良)「例えばまひるみたいにジメジメ・普通・カラカラ地域にセグメント分けしたところで、どうやって販売量増やすの?」
(修)「てるてる坊主を大量にばらまいて、ジメジメからカラカラ地域に変えてしまうとか(笑)」
(良)「ははは、それは一案だね。まひるのセグメンテーションをみてジメジメ地域の攻略が必要かなとは思ったんだけど、具体的にどうするか考えてみると難しいと思うんだ」
(ま)(…くやしいけど、言い返せないわ)

(良)「それよりも販売チャネルの切り口からセグメントすると、どの販売チャネルをどう改善したらよいか?具体的になってくると思うんだ」
(私)「ふむ、だから販売チャネルでセグメントするだけなく、一般傘や折り畳み傘も含めた傘全体としての市場を定義して、そこからビニール傘を選択する人の割合を考えたんだね」
(良)「はい、専門的にはコンバージョン・レートというみたいです。更にチャネル毎に販売単価が異なるので、その点も今後売上を伸ばすレバーの一つになると思っています」

シンセサイズ

同じビニール傘の市場の推定にもかかわらず、まひるちゃんと良太君の切り口が全く異なるのはとても興味深いです。まひるちゃんは「地域」の視点から、良太君は「チャネル」の視点からセグメンテーションしています。

「販売量の増加」という最終目的を鑑みると、直接的に打ち手が検討できる販売チャネル視点とは異なり、地域視点は扱いが難しいのでは、と良太君は主張しました。

この主張は7割がた正しいといえます。最終的な打ち手を見据えてセグメンテーションを考えることは極めて重要だからです。フェルミ推定の試験ならどんな切り分けでもOKですが、実践で使うためには推定を通じて行った分析をベースに問題解決する必要があります。単純に精度よく分類できればよいという話ではありません。

しかし、満点の解答にするためには「地域分けは意味ない」と決めつけてはいけません。ではどうするかというと、チャネル視点と地域視点の考えをミックスし、よりよい考えに昇華させるのです。(英語ではシンセサイズ: Synthesizeといいます)

例えば、まひるちゃんの分析によるとジメジメ地域においてはビニール傘の販売量を増やせる余地があるとわかりました。一方で良太君の分析によるとファッション系のお店のチャネル攻略がカギとなることがわかりました。(100円ショップやコンビニ・スーパーではコンバージョン率が高く伸びしろが小さいため)

これら二つの考えをシンセサイズすると「ジメジメ地域において、ファッション系のお店のチャネルを攻略する」ことでビニール傘の販売量増加の可能性が高まるという仮説が構築できます。(下記の図を参照)「全国のファッション系のお店のチャネルを攻略する」となると労力が非常に大きく大変ですが「ジメジメ地域に限定する」ことで、経営資源を集中でき、成功の可能性が高くなるからです。このことを戦略的フォーカスといいます。今後トレーニングの中で何度も出てくるコンセプトなので、またあらためて説明します。

ビニール傘03

(私)「良太君の素晴らしい所はしっかりと自分なりの考えを打ち出せる点だね。ただ自分の考えにあまりにも捉われすぎると柔軟性がなくなるので、他の視点も取り入れながら考えを膨らませることを意識するともっと良くなると思います」

(良)「確かに自分はある考えを閃くとその考えに固執してしまい、守りに入るところがあります。MECE感を持って全体像を描けるよう、意識して考えを広げたいと思います」
(良)「まひる、一連の議論で気分を害していたらごめんね。今後は気をつけるから」
(ま)「ううん、私もちょっと意地になっていたかも。ごめんなさい」

(私)「お互いにわだかまりが溶けたところで、最後は修君の番だね」
(修)「はい、僕は2人とはまた異なる視点でセグメンテーションしました。具体的には…」

さて今回はここまでとしましょう。
次回も続けてビニール傘の市場規模算定について、3つ目の解答例を紹介します。このように一つの課題をじっくり取り組むだけでも、色々な視点を得ることができ、考えの引き出しが増えていくことを実感できると思います。試行錯誤した経験が地頭力となりますので、次回もビニール傘に課題にお付き合いください。

それではまた次回お会いしましょう!

(表紙写真: 英国 ケンジントン宮殿)

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