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実践!地頭トレーニング#9 トマト (解答編)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

(私)「さて前回お題に出したトマトの課題はできましたか?」
(ま)「はい!前回のビニール傘である程度思考方法がわかったので、今回は悩む時間が減ったような気がします」
(私)「成長していますね。では今回は市場推定と販売施策を一気通貫で説明してもらいましょう。誰からいきますか?」
(修)「はい、それでは今回は僕から行きます」

トマトの市場規模の推定1 (季節変動に着目する)


(修)「僕は以下のロジックで考え、トマトの年間市場を約3800億円と推定しました」

トマト01

(修)「まず用途的にトマトとミニトマトは異なると考え分けました。加えて季節によってトマトの販売量や値段が異なると思い、以下の表を参考にしながら取引量の変動から旬とそれ以外の時期に分けて考えてみました」

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トマトの出荷量の季節変動 (引用元: 野菜ナビ)

(ま)「へー、トマトって通年の野菜かとおもったら、4月~8月が旬なのね」
(修)「確かに年間通じて手に入るけど、特に春先~夏場にかけて取引量が増えるみたいなんだ。味でいうと春先に加えて秋口が美味しいみたいなんだけど、秋はそれ以外の食材との競争が厳しくなるから結果的に消費量は4月~8月に集中する傾向にあるみたいなんだ」
(良)「旬の時期は出荷量が多いから価格も10%程度下がると想定したんだね。でもミニトマトはトマトに比べて旬以外の季節もあまり消費量が落ち込んでないな」
(修)「そうなんだ。ミニトマトはおそらく料理用としてトマトより使い勝手がよく、且つ近年は甘みが濃縮された品種とか出ているから、旬じゃない時期でも人気なんだと思うんだ」

(私)「ふむ、旬の時期とそうでない時期、トマトとミニトマトを分けて考えたんだね。この分析で気がついたことは何ですか?」
(修)「はい、月間の市場規模に着目して、売上増加のためには旬以外の時期の攻略が必須だということに気が付きました」
(私)「たしかに旬以外の時期は7カ月もあるけど、その時期の月間の売上は旬と比べて落ち込むね。単価アップするが数量減少を補いきれないんだろうね」
(修)「そうなんです。ミニトマトはまだ使い勝手が良いから落ち込み量が少ないけど、トマトの方が課題です」

(私)「ふむ、ということは旬以外の時期トマトの販売量を増やすためには農林水産大臣としてどのような施策を打てば良いか?ということになるね。修君のアイディアを聞く前に他の2人は何か思いつくかな?」
(良)「そうですね…そもそも旬以外の時期を考えると、秋は競合食材が多いこと、冬~春にかけてはトマトの味が落ちることが背景としてあるんですよね」
(ま)「加えてトマトはミニトマトに比べて大きいので、一度の料理で使い切れなかったり、飾り付けとしての使用も難しいわ」
(良)「うーん、価格を安くしてスーパーとかで特売セールをガンガンしてもらうとかはあるけど、金額的にインパクトあるかなぁ。売上金額2倍が目標だし…」
(ま)「そうね。或いはあらかじめトマトをカットして販売してもらい、お弁当やパスタに合わせやすくするとかあるけど、今度はミニトマトの方が数量減りそうだし」
(私)「ふむ、そうだね。良太君の施策はこれまであまりなじみのなかった新しい野菜を世に出す時は有効ですが、トマトは認知度が高いから難しそうだね。まひるちゃんの考えはカニバリゼーション(共食い)といって、新商品が自分のところの既存商品のシェアを共食いしてしまうことと同じだね」
(私)「加えて主語は農林水産大臣だから大臣の視点で考える必要がありますね。では修君本人に戻ろうか、どう考えたのかな?」

(修)「はい、確かに2人の言う通り、旬以外のトマトは味の点でも使い勝手の点でもハンディがあり、そこをどう解消するかを考えました。そこでヒントになったのは、世界のトマトの消費量の関する以下の統計です」


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国別トマトの摂取量 (引用元: カゴメ トマト大学)

(ま)「へー、面白いわ。世界で一番消費量が多い国はトルコやエジプトなのね。てっきりイタリアだと思ってたわ」
(良)「しかも日本の10倍も消費しているんだね。これはちょっと驚きだね。販売量2倍という目標が小さく見えるくらいだよ」
(修)「そうなんだ。僕もビックリしてトルコやエジプトでなぜトマト消費量が多いか調べたら、下記のウェブサイトで紹介されている通り、トルコの家庭料理はトマトを煮込んだ料理や調味料を使うことが多いことが分かったんだ。これ見てあっ使えるかもと閃いたんだ」


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トルコの調味料 サルチャ (引用元: 家庭のトルコ料理かんたんレシピ)

(ま)「あっなるほどね。これみて私もわかったわ。トマト煮込みならトマト自体の味が多少落ちても問題ないし、何よりも形に関係なく使い勝手を気にしなくて良いから旬以外の時期でもいけるわね」
(修)「うん、そうなんだ。日本の家庭ではそもそもトマトを生で食べることが多く、せいぜいミートソース・スパゲティー等でトマトペーストを少し使う程度だからトマトの消費量が少ないんだ。だからみんながもっとトマト煮込み料理やトマト煮込み調味料を多く使うようになれば販売量を増やせると思うんだけど…」
(良)「思うんだけど?」
(修)「うん、実際にトマト煮込みの食文化をどうやって作り出していくか?その点が難しくて、実はそこで思考がストップしたんだ…」

ビジネスにおける分析とは

ここで少し脱線して、分析とはについてお話ししようと思います。「分析って何か?」と聞かれた時、皆さんはなんて答えるでしょうか?

ビジネスにおける分析とは「分けて、比較し、違いを見つけることで、意味合いを抽出すること」です。

ビジネスにおける分析
1. 分けて考え
--- 全体から細部へ
2. 比較して考え --- 過去や他社や異業種と比較
3. 違いを発見し --- 偏り、パターン、変化を探す
4. 意味合いを考える --- Why so?So what?What does it all mean?

最初に課題の全体像を把握したら、先ず課題を分析できる要素まで細分化し、どこを更に深く分析するか?フォーカスエリアを定めます。上記の修君の例でいくと、以下のように「旬以外の時期のトマトの取引量の減少を抑える」と課題を絞り込んでいきました。

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次に比較を行うことで分析します。比較するのは「量」か「構成(割合)」か「変化」のいずれかで、比較する対象は「過去」か「他社」か「異業種」の3つを考えておけば大半のケースではOKです。定量化できる場合は以下のようなグラフで分析します。

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比較を行う最大のポイントは違いを発見することです。違いとは基本的には「偏り」か「パターン」か「変化」のいずれかで、これらが見つかると分析によって何らかの意味合いを抽出できます。

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修君のケースではトマトの消費量(←量比較)について、日本と他国(←比較対象)を比べることで、消費量の偏りを発見しましたね。

最後に違いを発見したら、その意味合いを考えます。何故そのような結果になるのか?その背後にはどういう背景があるのか?という「Why so?」違いや背景がわかったところで、それはどういう意味なのという「So what?」更には複数の分析結果を統合(シンセサイズ)する事で要するに一体全体何が言えるのか?という「What does it all mean?」を考えます。

修君のケースではWhy so?によってトマト煮込み料理・調味料が多く使われると言う背景を突き止め、他国ではトマトの消費量が多いと結論づけました。そこまで来れば分析の役目は終了です。後は発想勝負で、じゃあ日本においてどうやってトマト煮込み料理・調味料を普及させていくか?を農林水産大臣の視点から考えましょう。

トマト市場規模2倍の施策1 (日本版トマティーナ)

(良)「トマト煮込み料理っていうコンテンツはあるから後はそれをどうやって広めるか?マーケティングの施策だね」
(ま)「ねぇ、ビニール傘の課題で学んだカスタマー・ジャーニーを使って考えられないかな?」
(良)「まぁ確かにB2CというかG2Cマーケティングだけど、具体的には?」
(ま)「私あのあとカスタマー・ジャーニーについて勉強したの。ビニール傘の時は既存の顧客の動線を分析したけど、新商品を販売する時の動線(行動様式)にも応用できるの。既に世の中で知られているAIDAって言うフレーム・ワークなの。具体的には…」

AIDA(アイダ)
消費者がこれまでに知らなかった商品を知り、購入に至るまでの行動様式を以下の4ステップに分けて考え分析する。そうの上で各ステップにおいて次のステップに進めるように施策を打つ。
1. Attention (注目) : 顧客の注意を引く
2. Interest (関心) : 興味関心を持ってもらう
3. Desire (欲求) : 価値に共感してもらう
4. Action (行動) : 購入等の行動をしてもらう

(ま)「このフレーム・ワークに沿って打ち手を考えてみない?」
(私)「まひるちゃんGood!良い発想だと思います。農林水産大臣の視点で3人で考えてみてください」
(修)「なるほど、トマト煮込み料理のブームを作り、最終的には一般消費者がトマトを購入したり、トマト煮込み調味料を製造販売する企業を輩出することだよね。先ずはAttentionか…」
(良)「いきなりトルコのトマト煮込み料理紹介しても注目を集めないと思うから、まずはトマト自体の注目度を上げるところからスタートじゃないかな。例えば修が見せたグラフとか使って『国民の皆さん日本は世界の中でもトマトを食べない国です』みたいな内容をACやNHK使ってガンガン世の中に流すとか」
(ま)「いいわね。あと私の解答でも紹介するけど、トマトは抗酸化作用のリコピンを沢山含んでいるから健康やアンチエージングに良いの。医者いらずになる食材としてお医者さん自身が毎日食べてるらしいわ。それも流せば健康や美容ブームに乗っかって注目集めるわ」
(良)「いいね。トマトの注目が集まったら、次にその調理方法としてトマト煮込みの料理や調味料を紹介しInterestを醸成させていく。具体的にはNHKの番組や各JAのサービス広告にトマトがたくさん取れる料理の代表としてトルコ料理やエジプト料理を紹介していくとかね」
(ま)「うん、いいわね。次はDesireね。高まったトマト煮込み料理や調味料への関心を実際に試食して体験できれば自分でも料理してみようかなっていう欲求が沸くと思うけど…ここが肝ね。AttentionやInterestと違って体験ってハードルが高いわ」
(良)「たしかに。地方自治体と組んでトルコやエジプト料理フェアを開催する等の施策はあるけど、フランスやイタリア料理フェアと違ってたくさんの人が集まらなさそうだな」
(ま)「そうね…ああっ、あと一歩なのに。もし本当にトマト煮込み料理が美味しいのであれば、多くの人が実際に試食体験さえできれば口コミ効果等で広まり最後のActionに繋がるんだけど…」

(修)「……そうだトマティーナはどう?旬以外の季節に政府公認で日本版トマティーナを大々的に開催するの!」
(良)「トマティーナってスペインの有名なお祭りのやつ?期間中トマトを投げまくってみんなトマトまみれになって騒ぎまくるって言う」

参考サイト:  スペイン・ブニョール、街が真っ赤に染まる『トマト祭り(トマティーナ)』

(修)「そう!農林水産省とどこかの地方都市が連携して日本版トマティーナを開催するんだ。見た目インパクトがあるからお祭りの期間中はたくさん人が集まると思うんだ。その人達にトルコやエジプト料理を無料で提供して試食してもらうんだ。費用やトマトの片付け(肥料や家畜の餌として再利用)は全部農林水産省で負担みたいな…どうかな?」
(ま)「おっ面白いわ!!!私早く参加したいわ」
(良)(まひる、、、参加している自分を妄想してるなこりゃ)
(良)「すげ〜アイディアだな、なんかいけそうな気がするよ。欲求を高めることができたら最後のActionのところでもう一押し施策を打てばいいね…例えばトルコやエジプト料理のレシピや作り方を公共電波を通じて流したり、実際に料理する実演会をJAとかスーパーとかで実施するよう農林水産省が補助金出して促すとか」

(私)「うん、3人とも素晴らしい議論だよ。あひるちゃんがAIDAのフレーム・ワークを出して、良太君がそれに沿って施策をまとめ、日本版トマティーナと言う目玉施策を修君が閃く。まさに3人の知恵が結集された議論だったね。聞いてる私もエキサイトしました。みんなVery Good!」
(3人)(やったね!)

(私)「本来ならばこの施策によって本当にトマトの売上が2倍になるかシミュレーションします。ただ今回はここまで考えることができれば十分なので、修君の案は以上としましょう。さて次は誰かな?」
(ま)「はい、では次は私がいきま〜す」 

さて今回は以上とします。この日本版トマティーナというアイディアは実際の勉強会で出た施策です。普通の民間企業や地方の自治体だと実現は難しそうですが、農林水産大臣が直々に音頭をとるとなると可能性はありそうですね。

次回も引き続きトマトの解答編2をお話しします。それでは、また次回!

(表紙写真: イタリア ミラノ)


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