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映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見たほうがいい理由

口コミから全国に広まった、映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』

2012年の発足以降、「一強」政治を続けていた安倍政権が幕を閉じ、9月16日にその後を継ぐ形で菅義偉官房長官が第99代首相に就任しました。長期政権下では、閣僚や党幹部の不十分な意思疎通や官僚の忖度体質など、数々のひずみが生まれたと言われています。

そんな中、「ある野党議員」の17年間を追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が話題を集めています。

この作品は、単館系映画であるにも関わらず、6月に都内2館で封切ったのを皮切りに、口コミで広まり9月までに全国73館で上映され、3万人を超える動員数を記録しています。

「ある野党議員」こと、現職衆議院議員である小川淳也議員(当選5期。香川1区)の苦悩と苦闘の日々を追った本作。

私は、友人が「ぜひ見てみて欲しい」と言っていたのを聞き、軽い気持ちで映画を視聴しました。すると、なんだこれは……、と心が大きく揺さぶられ、「この作品はより多くの人に見られるべきだ」という気持ちが湧き上がりました。

半ば使命感にも似た思いを抱かせた『なぜ君は総理大臣になれないのか』に関して、より詳しく知りたいという思いから、webメディアの編集部に企画をあげ、監督である大島新さんと小川淳也議員に取材を行い、執筆しました。

映画のあらすじと小川議員に感じるもどかしさ

小川議員は東京大学法学部卒業後、1994年に自治省(現総務省)に入省しましたが、次第に「官僚では社会を変えられない」と感じるようになり、2003年、32歳で民主党公認候補として衆議院選挙に出馬。

最初の選挙は落選したものの、2005年の総選挙で比例復活で初当選。民主党政権が誕生した2009年には総務大臣政務官を務めるなど、順調にキャリアを積み上げていきました。

しかし、3年3ヶ月という短命で終わった民主党政権の下野以降 、活躍の機会は制限され、現在まで野党議員として苦渋の日々を送っています。

映画では、2003年に家族の猛反対を押し切って出馬を決意したところから、2017年の総選挙で「野党再編」の渦に巻き込まれ、苦悩しながらも「希望の党」公認候補として選挙戦を戦った姿までが描かれています。

この作品の大きな特徴は、密着されている小川議員がスーパーマン的な人物ではまったくないということです。

正直なところ、映画では相当もどかしさも感じるというか、「なんでもっとうまくやれないわけ?」といった感情も人によっては生まれると思います。(私は最初視聴した際にそう感じました)

それでも……。家族や支援者など、周囲にも苦労をかけてでも尚、成し遂げなければならないと信じてやまないことがある。小川議員はただただそのことにまっすぐなのです。

映画視聴時にはある種、議員に懐疑的な思いもあったのですが、取材を通じてご本人から話を伺ったら、私はこの人が好きだし、尊敬するし、応援し続けたい、という気持ちが自然とおこりました。

やろうともしなければ、死ぬときに悔いが残る

詳しくは記事をお読みいただきたいのですが、取材時にお話を伺った70分間、あまりの覚悟と信念の強さに、涙が出そうになった上、取材後の半日はまったく何も手につかなかったほどです。

2つの記事には書ききれなかった議員の思いを一部、ご紹介します。

「『とにかく経済成長すべきだ』『経済成長さえあればみんなハッピーだ』という概念から脱却して、将来に本当に責任持てるような持続可能な社会を作るのが、政策的には僕の一番の大命題なんですよ。

各省庁を本来指導すべき立場にある政治、あるいは政治家トップが、依然として地域への利益誘導や選挙区のお世話に目がいきがちで、国全体のことをきちんと預かる本務を全うしている政治家はあまり見当たりません。各省庁は各省庁で、官僚が自分達のことで精一杯です。

じゃあ一体、誰が、どこで、この国全体のことをきちんと考えているんだという疑問と憤りに立ち至ったときに、どう考えてもそれが見当たらなかったので、もう自分がそこに手をかけるしかないと思いました。

相当大きな話なので、やれるか、やれんかっていうと、やれないかもしれない。だけど、それをやろうともしなければ、本当に死ぬときに悔いが残るはずだと。ということで、家族を説得するところから始まるんです」

「政治とはなにか」に疑問を感じずにはいられない

大島監督は、この映画を目にしたベテランの自民党議員秘書経験者から、「あんな人いるんだね」と驚きの声を寄せられたそうです。30年以上議員秘書をされたその方は、「映画だからもしかしたら取り繕ってるのかも」と思い、事務所に行って小川議員本人と会って話してきたそう。

すると、本当にそのままでビックリしたとのこと。つまり、ずっと永田町にいた人間として、小川議員のような方は珍しいと。

こんなに国や社会を良くしようと本気で考え続け、活動をし続けている人でも、選挙には勝てない。国や社会に良かれと思って行動しても、罵倒されることもある。そして、その罵倒に対しても、ぐっとこらえて「ありがとうございます」と返す、などの姿が映画では描かれています。

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その様子に、「政治ってなんなんだろう……」と思わずにはいられなくなります。おそらくその思いは、いち視聴者である私だけに生じるものではなく、大島監督にも小川議員にも共通してあるものだと取材を通じて感じました。

政治を変えるには、政治家、政治家像、そして有権者が変わらなければならない」と主張する小川議員は、こうも語られていました。

「言葉」に対する責任と覚悟

「自分の吐いた言葉を、どのぐらい後々まで背負っているかは、人それぞれかもしれません。ですが、僕は社会や政治を変えられる可能性があるとしたら、それは『政治家の言葉』に対する有権者の信頼にかかっていると思うんですよ。

つまり、『その時々で都合のいいこと言うんだな』となった瞬間に、目の前の利害を預けてでも、長期的な得をみんなで取ろうとはならないでしょう。

だとすると、やっぱり過去に自分が吐いてきた言葉には、相当責任を感じなきゃいけないし、なかったことにはできないと思っています。

こいつは馬鹿かもしれないけど、不器用かもしれないけど、でも純粋に、どこに行っても同じことを言い、いつも同じ思いを持ち、どんなことがあってもそれを譲らない。

そういうこと以外に、目の前の利害を預けてでも、みんなで折り合いをつけて、新しい社会像、社会を築いていこうという原動力にならないと思うんですよ」

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「いい作品とは」がつまっている映画

当たり前ですが、議員ご本人も苦悩や絶望的な状況を好んでいるわけでは決してなくて、それでもどこまでもまっすぐなその裏には、強い理念と覚悟がある。この人は、思ったり言ったりしているだけの人じゃないんだな、と直接お話を伺った70分間で心底感じました。

「やるか、やらないか」の岐路に立たされたときに、「やる」を選び続けている人のあり方を、私は尊敬するし、自身もそうありたいです。

議員や監督が「このままでは死んでも死にきれん」と思って行動し続けているように、私自身も「これを伝えなければ死んでも死にきれん」と思うくらいに、強く心を揺れ動かされたし、今でもそれは続いています。

政治に無関心どころか、まったく何も知らなかった私は、この取材を記事化するために、ゼロから背景を学んだりと計60時間くらいの時間をかけました。

それでも知ったからにはやりたいし、やらなきゃならない、「当事者のひとり」なんだから。と今日に至るまで思い続けています。

大島監督は、「作品が、見た人の『入り口』になってくれたら嬉しい」と語られていました。「遠いどこかで起きている何か」ではなく、「私が属しているこの国で、今この瞬間も起きていること」。

この映画やこの記事を見て、そんな風に思ってくれる方がひとりでも増えたら、私自身もすごく嬉しいと思っています。

映画は本日9月26日20時から10月2日の24時まで、オンライン配信も行われます。

以前、耳にした「いい作品とは、見た人がどこかに自分を重ね、それぞれの感想を生む作品」という言葉通りの映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』。

やっても変えられないかもしれないけど、やらなければ絶対に変わらない。この映画を見たら、あなたもきっと何かをしたくなる。この機会にぜひ、目にしてみてください!


書けども書けども満足いく文章とは程遠く、凹みそうになりますが、お読みいただけたことが何よりも嬉しいです(;;)