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アメリカの歌 ー アラン・トゥーサン Allen Toussaint による珠玉のカヴァー

「アメリカの歌」とはポール・サイモン(Paul Simon)がオリジナルの "American Tune" のこと。ピーター・バラカンによればアラン・トゥーサンはアラン・トゥーサントと表記する方が正確な発音により近くなるようなんだけど("t" で終わってるから「ト」ももちろん不正確だがアラン本人も自身の名前を語る時にきちっと "t" の音を発音していたらしい、ただ、いきなり括弧書きが長くなるけど、ピーター・バラカンのファンで以前の Simon & Garfunkel 来日公演の時に会場でバラカン夫妻を見つけた時にサインまでしてもらったことがある自分だけど、これについては英語圏でも例えばゴルフの青木を「エイオキ」と発音してたりして、何処でも外国人の名前の発音は母語における発音の仕方に引きずられるものだろうし、どちらかと言うと止むを得ない側面の方が強いのではと思っている)、ここでは「止むを得ず」便宜的に、日本で一般に使われている表記「アラン・トゥーサン」の方を使います。

いや、いいや、この際、ここから先はずっと、Allen Toussaint でいこう。しかし前段、括弧内が長かったな(笑)。

"American Tune", Mayflower, The Statue of Liberty

さて、"American Tune"(邦題「アメリカの歌」)は、本投稿の冒頭に書いた通り、Paul Simon が作詞作曲した歌で、オリジナルは彼の Simon & Garfunkel 解散後のソロ 2作目 "There Goes Rhymin' Simon"(1973年5月5日リリース)に収録されています。前回はこの歌の歌詞やメロディの元ネタなどについて投稿しており、本投稿の後段に、その前回投稿へのリンクを置きました。歌詞の中身の細かいところや背景、アメリカの歴史とのかかわり等に関心のある方、またこの歌のメロディのモチーフになった曲に関心のある方などは、そちらの方もご覧になっていただければ幸いです。

1941年10月13日ニュージャージー州ニューアーク生まれ、ニューヨーク州ニューヨーク育ちのユダヤ系アメリカ人ミュージシャンである Paul Simon が 1973年にリリースした「アメリカの歌」, "American Tune" ですが、これを、1938年1月14日にルイジアナ州ニューオーリンズで生まれ、2015年11月10日に公演先のスペイン、マドリッドで客死したアフリカ系アメリカ人のミュージシャン Allen Toussaint が、その死の翌年、2016年6月10日にリリースされた遺作アルバムの中でカヴァーしています。

というわけで、今日、2020年6月10日は、Allen Toussaint の遺作のリリースからちょうど 4周年に当たる日です。

アルバムのタイトルは "American Tunes" で、この曲 "American Tune" は同作の「ほぼ」タイトル・トラックとも言え、同曲は、自身のオリジナル曲で始まる遺作アルバムの最後を飾る曲として収録されています。Allen Toussaint がこの曲を生前のライヴで既に歌っていたことは知っていますが、彼がいつから同曲をカヴァーするようになったのか、私はいま情報を持っていません。

ところで、この歌の歌詞の中で、1620年にイングランドからアメリカに渡ったピューリタン(Puritan, 清教徒)たちを中心とするピルグリム・ファーザーズ(Pilgrim Fathers)の一団が乗った船の名、メイフラワー(Mayflower)が象徴的に使われています。

前回の投稿で言及した通り、作者の Paul Simon はハンガリー系ユダヤ人を両親に持つユダヤ系アメリカ人であって、彼らイングランドのピューリタンたちとは全く関係ないわけですが、Allen Toussaint となると、彼はアフリカ系アメリカ人。彼個人の先祖がいつの時代にどうアメリカに渡ってきたのかについては私は知識を持ち合わせていませんが、アフリカ系アメリカ人ということで言えば、先祖を辿っていくと、アフリカから奴隷船で運ばれてきた人たちとなるというふうに一般に言われる存在ではあります。宗教上の弾圧から逃れて「新天地」を目指したとはいえ、兎にも角にも自らの意思でアメリカに渡ったイングランドのピューリタンたちとは対照的、あるいは異質の歴史的背景を持つと言ってよいと思います。

また、この歌の歌詞の中では、自由の女神(The Statue of Liberty)もやはり象徴的な使われ方をしていますが、自由の女神の像はアメリカの建国(1776年, イギリスからの独立)100周年を記念して、独立運動を支援したフランスの人の募金によって贈呈されることになったもので、1884年にパリで仮組み完成、214個に分解されたうえでフランス海軍軍用輸送船によりアメリカに運ばれ、1886年に完成したというもの。

以降、「自由の女神」像はアメリカ(アメリカ合州国、普通は日本語では「合衆国」と表記されていますが私はいつも「合州国」と直訳的に書いています)の「自由と民主主義」の象徴のような扱いをされてきました。この像がフランスから贈られた当時はアメリカにおいて「制度」としての奴隷制が廃止されてまだ20年ほどしか経っていない時期だったわけですが、さて、それから更に130年ほど経過した今、アメリカの「自由と民主主義」はどうなっているのか。もっと言えば、アフリカ系アメリカ人にとって、アメリカの「自由と民主主義」は今どんな姿になっているでしょうか。

Allen Toussaint の「アメリカの歌」、その歌詞と拙訳

*一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)より「著作権を有する音楽著作物の著作権を侵害している」旨, 指摘を受けた為, 当初 私の誤認識によりここに掲載していた英語歌詞を削除しました。英語歌詞・原詞は公式サイト等に掲載されているものを確認してください(2022.9.2 加筆/削除/編集)。

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何度も何度も間違いを犯し
そして繰り返し混乱の中をやり過ごしてきました
そう、見捨てられたと感じることもよくありました
虐げられていると感じたことさえも
でも大丈夫、平気です
ただ疲れが骨の隋まで染み込んでるだけなんです
期待なんかしてませんよね
華やかなに生きて美食家になるだなんて
家からこんなにも遠く離れた場所で
そう、こんなにも遠く離れてしまったのです

打ちのめされたことがない人なんているでしょうか
穏やかな心持ちの友達なんかいないのです
打ち砕かれたことのない夢なんて知りません
崩れ落ちたことのない夢なんて
でも平気です、大丈夫です
私たちはうまくやって長いこと生きて来れたのです
それでもこの道のりを考えるとき、
つまり私たちが旅しているこの道のりを
いったい何が間違っていたんだろうって思うのです
思う他ないのです、どこで道を誤ったんだろうって

そうして私は自分が死にゆく夢を見ました
私の魂が不意に空高く舞い上がる夢を見たのです
魂は私を見下ろしていました
私を安心させようと微笑んでもいました
私は私が空を飛んでいる夢を見たのです
上空で私の目ははっきりと捉えたのです
自由の女神を
遠くの海へと去って行く自由の女神を
私は私が空を飛んでいる夢を見ていたのです

おお、私たちはメイフラワーと彼らが呼ぶ船に乗って
私たちは月にまで航行した船に乗って
この最も不確かな時代にやって来ました
そしてアメリカの歌のメロディーを口ずさむのです
でも大丈夫です
平気です、大丈夫ですよ
誰だって幸運であり続けるなんてことは出来ないでしょう
それでも明日はまたやるべき仕事があるのです
それで私は今ただ少し休もうとしてるってわけです
私はただ少し休もうとしているだけなのです

平気ですよ
大丈夫です、大丈夫なのです
誰だって幸運であり続けるなんてことは出来ません
それでも明日はまたやるべき仕事があるのです
それで私は今ただ少し休もうとしてるってわけです
私はただ少し休もうとしているだけなのです

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一味違う Allen Toussaint の 「アメリカの歌」、一口メモ

歌詞は、オリジナルの "Paul Simon" のヴァージョンとほぼ同じです。歌詞の背景などについては、昨日の「アメリカの歌 ー Paul Simon "American Tune" (拙訳)」と題した投稿の中に書いていますので、ご覧になっていただければ幸いです(本投稿の最後にリンクを貼ります)。

Allen Toussaint が歌うと、歌詞の中の多くの言葉が、Paul Simon が歌う場合とはまた別の意味合いや、あるいは異なる種類の輝きを帯びて聞こえてくる(こちらがそう「聴く」のだとも言えますが)ような気がします。

とりわけ、"Forsaken", "Misused", "I’m just weary to my bones", "So far away from HOME", "I don’t know a SOUL who’s not been battered", "I dreamed that my SOUL rose unexpectedly", "The Statue of LIBERTY sailing away to sea", "Oh, we come on the ship they call the MAYFLOWER", "We come in the age’s most uncertain hour", そしてもちろん "And sing an AMERICAN tune", "Still, tomorrow’s going to be another WORKING day", "I’m trying to get some REST" ... 挙げ出すと殆ど全てになりかねないか。

Allen Toussaint, Black Music 一口(二口?)メモ

以下の英文による3段落は、 https://en.wikipedia.org/wiki/American_Tunes からの転載です。

American Tunes is the final recording from New Orleans jazz and R&B pianist Allen Toussaint, released on Nonesuch Records on June 10, 2016. It was produced by Joe Henry and includes music from a 2013 solo session at the pianist's home studio in New Orleans and an October 2015 session featuring musicians Bill Frisell, Charles Lloyd, Greg Leisz, Jay Bellerose, and David Piltch, with special guest vocalist Rhiannon Giddens and pianist Van Dyke Parks, recorded in Los Angeles the month before Toussaint died.

The album title is taken from the 1973 Paul Simon song "American Tune," which Toussaint performs on the album. Also included are songs written or recorded by Toussaint, Professor Longhair, Duke Ellington, Bill Evans, and Fats Waller.

Allen Toussaint was due to play with Paul Simon in a New Orleans benefit concert to celebrate the 30th anniversary of New Orleans Artists Against Hunger and Homelessness, an organization Toussaint co-founded, on December 8, 2015; instead, Simon played the concert without Toussaint in tribute to the late musician. "Allen Toussaint brought New Orleans to the world," Simon has said, "and he left before he could bless us with the complete genius of his music."

ところで、今朝たまたま見たインスタグラム上の投稿の中に、Evolution of Music というタイトルのチャート図を載せたものがありました。私がフォローしている Instagram account の投稿なのですが、おそらくは White American のアカウントだと思います。

その図の上の方には左に White Culture, 右に Black Culture との記載があり、それぞれが 17世紀以降、枝分かれの進化をして色々なジャンルの音楽を生み出していく様子を対比させていて、もちろんそれは今あらためてアメリカ国内で、あるいは世界中で非難されている White から Black への人種差別に対する皮肉を込めたものなのですが、皮肉や風刺の対象としてのアメリカ社会でいま起きていることの現実は極めて深刻なものでありながら、その投稿のチャート図はあまりに痛烈で、かえってユーモアを感じさせるような面白さでした。

もちろん、いわゆるクラシック(Classical music)だけでなく、カントリー・ミュージックをはじめ白人が主流の大衆音楽も豊穣で素晴らしいものなのですが、Black Music と総称されるような様々なジャンルの音楽を包含する音楽がもしも世の中に無かったならと想像すると、この世界はそれはそれはもう、ぞっとするほどの寂しい世界になるなぁと感じ入るものがあります。

余談ですが、そして偶然ですが、本投稿の冒頭の方で、今日 2020年6月10日は、Allen Toussaint の遺作アルバムのリリースからちょうど 4周年に当たると書きましたが、6月10日は、2004年の今日亡くなった Black Music 界の巨人 Ray Charles の命日でもあります。

本投稿タイトル上の合成写真について

Allen Toussaint の素晴らしい "American Tune" カヴァーについて書いた後に、以下のような合成写真を載せるのはかなり気が引けます。

今は亡き偉大なソウル・ミュージシャン Allen Toussaint に対しても申し訳なく思うし、また、当然ながら、この合成写真(ある Instagram の投稿から取ったものです)に使われている今年5月25日の白人警官による野蛮な行為の犠牲となったアフリカ系アメリカ人 George Floyd さんに対しても、申し訳なく思います。

迷いましたが、載せることにしました。

今日の投稿のタイトル上に掲載した写真は、以下の合成写真の一部です。

画像1

Paul Simon の「アメリカの歌」、そして「アメリカ」(リンク)

最後に、昨日投稿した「アメリカの歌 ー Paul Simon "American Tune" (拙訳)」へのリンクと、本投稿のタイトル上部およびこの直ぐ上に先月5月25日の白人警官によるアフリカ系アメリカ人 George Floyd さん殺害事件を取り上げた写真を掲載したこともあり、その事件についても書いた前々回の「America ー Simon & Garfunkel "America" (拙訳)」と題する投稿へのリンクを、以下に貼っておきます。

「アメリカの歌」(ポール・サイモン) 〜 ピルグリムの船・メイフラワー, 植物のメイフラワー, そしてナサニエル・ホーソーン「緋文字」を巡る不思議(?)な展開

本章は, 2022年8月7日に加えたもの(以下リンク先は 2020年7月11日付 note 投稿)。


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