地獄

神様がふとしたいたずら心から、世界の塊を縦に振り、その勢いで天国と地獄が逆になった。
天国へ行くことを望んでいた地獄の鬼たちは狂喜し、天国の平和で豊かな暮らしを享受しようとした。しかし、鬼たちにとって、刺激のない天国は退屈なものでしかなく、結局彼らは地獄に戻ることにした。
天国から地獄に落とされた聖人や天使たちは、針の山や業火にやられ、いつまでも続く苦しみに耐えられずに絶望した。さらにそこに鬼がやって来て、元・天国の住人達を蹂躙した。
天国から地獄に落ちることはできるが、地獄から天国に上ることはできない。蜘蛛の糸をたらす者ももはや天国にはいない。こうして天国は平和で静かだが、誰もいない虚しい世界になった。世界から消え去った。
しかし、世界の中間に暮らし、神様のいたずらもただの大地震で片づけてしまった人間たちは、相変わらず天国とそこに暮らす神々を信じ、苦しかったり、時には幸せだったりしながらぶらぶら暮らしていた。
その頃、地獄では天使たちが上顎と下顎を鬼に引っ掴まれ、顔を引きちぎられたり、柱に縛られて生きたまま内臓を引き抜かれたりして苦悶していた。
それでも人間は天国を信じていた。別にそこに信じる者がいなくとも、信じる気持ちがあるだけで、人間はそれにすがり生きていけるのである。
だが、その頃地獄では聖人たちが生きたまま手足をもがれ、毒蝮と毒ウツボのみじん切りとマンドラゴラと混ぜられて地獄サラダにされ、ケルベロスの餌にされて悲鳴を上げていた。

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