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大学の卒業式は、赤い着物がいい

無事成人式を済ませた私を待っていたのは
実習、個人研究、そして就活という現実だった。

  
大学二年生までに単位をとれるだけとった私は
大学三年生になると一気に講義数が減った。

その代わりに、私は初めてゼミに所属し
個人研究が始まった。
大学二年生時は、前期は実験内容が決まっていたし、実験は数十人で行った。
後期は六人のグループ研究であった。

だから、三年生の個人研究になると個人にかかる負担や難易度はグッと上がり
研究計画書を書いても書いてもボツをくらった。
私だけではなく、周りの友達も苦戦していた。

 
 
大学は遊ぶ場所。
大学生は気楽。

そんな声が上がるが、私はそんなことは感じなかった。
大学一年生の頃は月~土曜日まで講義は入っていたし
大学二年生の頃は専門科目が一気に増え、レポート提出だらけで寝不足の日々だった。

 
大学三年生時はようやく講義数が減ったのに
実験やら個人研究と並行して 
初めての二週間実習も加わる。

肉体的にハードだったのは、間違いなく二年生だったが
精神的にハードだったのは、間違いなく三年生である。

 
前期に実習が終わり、後期に無事論文提出ができた大学三年生の冬
私を待っているのは就活だった。
当時は大学院も視野に入れていたので
大学三年生から始めた院試勉強に加えて、就活が始まったようなものだ。

人生とは乗り越えても乗り越えてもハードルがある。

 
大学四年生になると、講義はほとんどなくなったが
私は院試勉強をしてもなかなか学力は上がらず
また内定がもらえず
将来が見えない時期だった。  

二十歳は一応大人になった証だが
私にとっては社会人=大人のように感じたので、先が見えない状況に焦りを感じた。

 
成人式か終わっても
お酒を飲める立場になっても
卒論以外、卒業単位はとれていても
私はまだ大人になれていない。


周りは着々と内定を手にしていて
私より先にいた。
大学卒業後に結婚という、永久就職を決めた友達さえいた。

院試に向けて学力が足りず
内定ももらえず
年齢=彼氏いない歴の私は
完全に置いてきぼりの気分だった。

 
卒業研究もなかなかに苦戦していたが
就活で心身疲労していた大学四年生の頃
とりあえず内定を二箇所からいただけた。
行きたい企業ではなく
手放しで喜べる気分ではなかったが
それでもとりあえず
卒業後の道が決まってホッとした。

内定後は研修や内定先バイトが始まり
またも日々飛び越えるハードルが先にいくつもあった。

 
 
そんな中、大学校内には着物屋さんの出張店が来ていた。
毎年卒業式に合わせて、大学の一角ではレンタル衣装サービスの受付をしていた。

成人式の際は両親と地元の着物屋をいくつか見に行ったし
レンタルの予定だったが、気に入った晴れ着はレンタルをしておらず、購入した。

だが
卒業式は、大学校内に来ているお店からレンタルすると決めていた。
持ち込みは面倒くさいし、預けるにしても保管料がかかる。
着付け等も、そのお店で一括レンタルなら安いが
持ち込みだと別途料金が派生となる。

 
就職先が決まり、あとは卒論を着々と仕上げればよかった大学四年生の秋
私は友達と共に、その出張店に行った。

 
 
大学の卒業式というと
黒いローブをつけ、黒い帽子を皆で一斉に空に投げるイメージが強かった。

明らかに映画の影響だし
明らかにそれは外国の文化である。

 
私は大学に入学し、先輩や出張店の様子を見ることで
大学の卒業式では女性は着物と袴とブーツというスタイルで参列することを知った。

 
はいからさんが通るの世界だな…

 
ヲタクの私は、卒業式の時に紅子になる自分を想像した。
大正ロマンな格好をしたことは
今までに一度もなかった。

 
 
着物はたくさんあったが、私は赤い着物と初めから決めていて、着物はアッサリ決まった。
白い花があしらってある。

二十歳の成人式で赤い晴れ着を着たのに
私は二十二歳の大学卒業式にまで、迷うことなく赤い着物をチョイスした。

 
赤い着物がどれだけ好きというのか。

 
自分でも思ったし
周りからも他の色にしたらと言われもしたが
私は赤以外は全く考えていなかった。

私が個人的に赤が好きというのもあるが
当時、成人式や卒業式の時に赤い着物は一番人気だった。
だから赤の色合いや柄も豊富であり、充実もしていた。

 
着物が決まった為、お店の人が薦めるままに
袴とブーツ、髪飾りを決めた。
さすがプロはセンスがあり、コーディネートはバッチリだった。

「その組み合わせいいですね!それでお願いします!」

私はお店の人に伝えた。
もともとメインは着物であり、袴やブーツは色のバリエーションがあまりない。
着物さえ決まれば話は早かった。

 
即決した私は支払いの話になった。
親から上限額の話はなかったので、金額だけ確認すればよかった。
後は金額を親に伝えて、私が期日までに支払うだけだ。
話がサクサク決まる私の横で

「う~ん…………。」

と、友達は悩んでいた。
悩みに悩んでいた。
友達は私は真逆で、特に着たい色や柄のイメージはなかった。

 
「今日中に決めなきゃいけないわけじゃないし、また一緒に来て決めようよ。」

私は友達に伝えた。

 
 
だから私達はその後も何度かお店に足を運んだ。
友達はじっくり悩み、選び
私は相変わらず赤の着物ばかり見てはニヤニヤしていた。
まるで赤い着物に取りつかれたような執着が
当時の私にはあった。

友達は赤い着物を選ばなかった。

何に魅力を感じるかは人によって異なる。

 
 
 
卒業式の着物を決めた後、年を越した。
あと三ヶ月で大学を卒業である。

私は卒論の仕上げに入った段階で予想外に初彼ができ
卒論を仕上げた後は初々しいデートをしつつ
専門学校のパンフレットを取り寄せ、学校説明会に行く日々が続いた。
就職先に疑問を感じた私は、卒論提出後に専門学校試験を受け、受かり
内定を蹴った。

卒業式まであと一週間、というところだった。
怒濤の展開が続いた。

私は大学四年生冬に初彼ができ、就職しないで学校に新たに入学すると決めたのだから。

 
 
今度こそ本当の本当に進路が確定し、ホッとしたところで
大学の卒業式の日を迎えた。

卒業式の日はよく晴れていた。

 
私は着付けの為、大学の指定された教室に行った。
成人式の時と同じように、女子が狭い場所にたくさんいた。

メイクに自信がある人は自前でメイクをしていた。
成人式で濃いメイクや好みじゃないメイクをされてひどいめにあった、と。

 
確かに私も成人式の時のメイクは好みではなかったが
自分でキレイにメイクができる自信は全くなく
今回もプロにメイクはお任せした。

 
成人式の時は前撮りだったが
卒業式の日は着付け終わり次第、近くの部屋で撮影が待っていた。
手に卒業証書を持っているが
確かこれは自分のではなく
撮影用小道具だったと思う(多分)。

 
 
髪型もプロにお任せした。
成人式の時はアップだったが、今回は卒業式のため、髪をおろし
毛先を軽く巻いてもらった。

 
 
撮影後、友達と体育館に向かい、卒業式に参列した。
入学式は東京国際フォーラムだったし、両親が参列している家族だらけだったが
卒業式は大学内部だから小規模だし
来ない家族も多かった。

私は両親に来なくていいと伝えたし
他の友達の親も来ない人が多かった。

 
小学校~高校までとは、入学式や卒業式のスタイルが大きく異なり
これぞ大学という感じがした。
学長が外国人で、挨拶の「コングラチュレーション!」の発音がやけに良すぎたのが印象的だった。
泣いている場合ではない。
私はコングラチュレーションがツボに入りすぎて
笑いを堪えるのに必死だった。

 
 
袴スタイルは成人式より歩きやすかった。
大正ロマン風な自分に酔ってもいた。
私は色々な服を着ることが好きなので
大正ロマンスタイルな服を着られて嬉しかった。

 
大学時代の親友は休学していて
一緒に卒業は叶わなかったが
高いスーツを着て駆けつけてくれた。 

サークルの後輩からは寄せ書きや記念品をいただいた。
私は人生で後輩から寄せ書きや記念品をもらうのは初めてだった。

 
親友やサークルのみんなの思いが嬉しかった。
涙はほとんど出なかった。
私は泣き虫で喜怒哀楽様々な時に泣くが
何故かいつも卒業式はほとんど泣けなかった。

 
 
都会の大学では卒業式後、ドレスアップして謝恩会とやらに参加するらしいし
私の大学でもやってはいたが
一部リア充な学生のみが行っていて
私のゼミやサークルではやらなかった。

 
だから私は友達やサークルのみんなと過ごし
卒業式は幕を閉じた。

 
 
 
 
大学卒業後に通った専門学校は、制服があった。

高校のようなブレザーやセーラー服ではなく
スーツにスカーフ、ハイヒールという
どこぞの百貨店の受付のような制服である。

 
大学という、制服がなくなった世界に四年間身を投じた後
再び制服を二年間着るのだから面白い(毎日着用ではなかったが)。

  
専門学校の卒業式は制服で参列し
卒業式後は近くのホテルに行き、謝恩会があった。
大学時代に体験しなかった謝恩会に
まさか24歳で参加するとは思わなかった。

私はドレスアップしたし
周りもドレスアップしていた。

 
学校が異なれば、ルールや服装が異なるのまた面白い。

 
 
成人式、卒業式で赤い着物を満喫した私は
その後、浴衣や甚平を購入したが
もう赤い着物は欲さなかった。
満足したのだろう。

成人式で買った赤い着物は姉と親戚の結婚式で着用したが
その後は家の隅でひっそりと眠っている。

 
 
社会人になると、なかなか着物を着る機会はない。

もしも次に着物を着る機会があるのなら
それはどんな機会なのだろうか。
そして私は何色を選ぶのだろう。

毎日着物は肩が凝りそうだけど
久々にキレイな色合いの着物を着たい自分がここにいる。 














 


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