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厳冬期 塩の道を歩く

松本から糸魚川まで120kmにわたる「塩の道」のうち、根知駅から糸魚川の海岸までの10数キロを歩いて来ました。
中山峠という林道+山道を含んだ行程ですが、1月初旬ということで、雪が否応なしにつもる前でしたんで、それなりに歩けました。
天気も悪くなく、恵まれた街道ハイキングを振り返りたいと思います。

大糸線を降りて、根知からは1kmちょっとの舗装路です。
除雪されており快適。途中雪掻きをしている現地の人に聞くと、たぶん林道も除雪されているのでは?とのこと。ルンルン歩いていきます。

林道入り口に着くと、塩の道の案内図が。道中も、塩の道の立て札が無数にあり、とても助かります。
歩荷の絵が書いてあります。簑に藁靴姿はいかにも冬の旅装ですね。
ちなみに夏は、牛方という牛で荷を運ぶ人々が行き交ったようです。馬じゃないんですねえ。
塩の道は、古道の典型的な形に漏れず、基本的には地理的に安定した山の尾根を走る道です。ですが、同時に川沿いに刻まれてもいるので、斜面をトラバース(横切る)する道も多く、そういった道は冬の豪雪もあり、削り取られて歩きにくい箇所もあったことでしょう。
そういった道では、なんか粘りのありそうな牛のほうが重宝したのかなーなんて想像が膨らみます。

林道に入ると100mも行かないうちに除雪されていない道になりました。
カンジキを履いて進みますが、なかなかに新潟の雪は重く、膝上まで潜るところが続き、息が弾みます。少しきつい。
林道は車も走るため、 幅が広く木の影にならず、雪も深くなるのです。

暫く行くと、樹林に覆われた古道が姿を現します。
ここから雪は幾分ましになり、ほんわか気分です。

新雪に覆われているのに、人間の踪跡を感じられるというのはなんとも不思議なものです。
トトロで「木が避けてるー」ってシーンがありますが、そういう魔術的なものを人間の無数の足跡が醸し出しているようです。
度々杉の枝から落ちる雪に注意しながら、黙々と進みます。

えっさほっさと、山の斜面を上っていくと、尾根筋の道に出ます。植生も、杉林から落葉樹の森に変化してゆきます。視界が開けますが、同時に雪も深くなります。
でも、この頃には慣れてしまい、スキップ気分。

ウトウ(溝のように削られた道のこと?)の尾根道を進むと、中山峠です。
晴れていれば日本海を望めるようですが、今回はお預けです。
そんなこんな歩いているうちに、植生は杉林に戻り、道幅も広くなり、人間の生活圏が近付くのを感じさせます。

3km程度の充実した峠歩きは、林道に突き当たり、ぷつっと終わりを告げます。そこからは舗装路歩きです。

頸城大野駅に着くと、少し休みます。
舗装路歩きで5kmほど行けば日本海につけるので、菓子パンを頬張り、再び歩き出します。

真横には北アルプスの尻尾とおぼしき山々が見えました。全部見えないのはそれはそれで良いものです。

美山公園まで坂を登り、振り返ると今度は妙高の山でしょうか。

霰が降るなか糸魚川市街地にはいり、日本海を拝むことができました。

塩の道出発点。
この行程、実は太平洋から日本海に至る旅行の最後を飾るものでしたが、なかなかに味わい深く、心に残るものになりました。

高い山に夢中になったこともありました。
そこには、独り善がりな強さの証明があったかと思います。
しかし、先人のトレースを見いだし、それこそが自分をそこに存在せしめているんだな、というのを歩けば歩くほど実感し、その猛烈なパワーを感じると、自分の体力と苦労自慢なんかどうでも良くなってしまいます。
ただただ、そこを歩いた人の感覚を感じたい、一つでも多くの感覚を身体と記憶に残したい、そして、それをやり遂げる強さが欲しいと、そう思う訳です。

街道に限らず、道と名のつくものは道なき道でも道は道、誰かしらの足跡ありきだと思います。それに寄り添うように、歩き走れたら、どんなに素晴らしいのかなと、どす黒い日本海を見ながら思いました。

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