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新幹線の連結事故にまきこまれる

 会社の出張で宮城県の古川まで向かうことになった。朝9時に現地に着くために、7時16分東京発の新幹線に乗る。
 朝早いのは大変だが、出張で行く朝の新幹線というのはいいものである。これから戦いに行く感もありつつ、ゆったりとシートに座ってちょっと余裕もある感じがして、意味もなくパソコン出したりしまったりしてしまう。

 と、ふと窓の外を見ると新幹線が線路の途中で止まっている。
 どうしたんだろうと思っていると、放送が入り
 「前の列車が車両点検を行なっております。しばらくお待ちください」
 という。
 すぐに出発するだろうと思っていたが、これが思いのほか長い。
 だいたい車両点検ってなんなんだと思って、なんとなくネットニュースを見るとこんな記事の見出しが飛び込んできた。
 「東北新幹線で走行中に列車の連結外れ、全線で運行中止」
 えっ。連結外れるってどういうことだ。あの緑のと赤い列車が外れちゃったんだろうか。ていうか、それは車両点検とかいうレベルではなくずっと線路に停まっちゃっているということではないのか。じゃあもう進めないじゃんか。

 あとでわかったのだが、これはそこそこなニュースになった東北新幹線の事故で、本当に赤いのと緑の間の連結が走行中に急に外れてしまったのだという。
 だが、この時は車内放送ではひたすらに「車両点検をしている」としかいわないので、地理的には一番近くにいながら、全くもって正確な状況がわからない。
 というより、もう完全に仕事の待ち合わせ時間に間に合わなくなってきてしまった。動くのか動かないのか、それだけでもはっきりしてほしい。

 この時間の新幹線はほとんどビジネスマンなので、にわかに車内もざわざわと殺気立ってきた。次々と人がデッキに電話をしに行く。

 列車は、少しすると動き出した。これは何かしらの要因で進めるのかと思ったら、白石蔵王という仙台の1つ手前の駅でまた停まってしまった。
 どうも前の列車の事故現場は仙台とその次の古川の間であるらしい。
 次にやってくる仙台行きの別の新幹線はとりあえず先に仙台まで行くので、仙台までの人は乗り換えてほしいとアナウンスがあった。
 大挙してみんなでその新幹線に乗り換える。ぎゅうぎゅうの車内でとりあえず仙台に辿り着く。もうくたくたである。この時点で時間は午前10時。もともと古川に着く予定だった時刻からすでに1時間以上経過している。

 さて目的地の古川は仙台から新幹線で1駅10分少々の距離だが、なにしろ事故現場がその古川と仙台の間だし、そもそも新幹線は全くこの時間でもぴくりとも動いていないので、これはもうどうしようもない。
 仙台駅ではすごい数の人が新幹線乗り場の前で呆然としていた。それはそうであろう。かわいそうにおばあちゃんが自分の荷物の上で悲しそうな顔で座っているのが見える。自分などまだ目的地の近くまでは来れたのだからましなほうだ。

 さて、新幹線以外で仙台から古川に行く方法を調べると、こまったことに直通する在来線というのは存在しないらしく、かなり海の方を遠回りして1時間くらいかけないとつかないらしい。それ以外では高速バスという選択肢があるが、これも1時間かかるしどうもちょうど行ってしまったばっかりでしばらく来ない様子だった。
 結局、30分待ってその大回りの1時間かかる在来線で向かうことにする。まいったなぁと思いつつ、えきでずんだシェイクを飲んで気分を落ち着かせる。おいしい。これは東京でも飲みたい。

 在来線東北本線仙台駅の発車ベルはフォルテシモであることを知る。これもこんなことでもなければ知ることもなかったであろう。
 電車は仙台からゆっくり海沿いを進む。松島を通る。午前11時ごろのよく晴れた松島。なぜおれはここにいるのか、なんだか夢見てるみたいである。
 電車は小牛田駅で乗り換え、「ワンマン」表示のあるタイプの列車に乗り換える。地元の高校生が大群で乗っている中、ひとりおじさんが混じって申し訳なく思う。

 そして朝6時ごろ地元の駅を出発してから約6時間後の昼12時、ついに目的地古川駅に到着。予定の3時間遅れだが、まだ新幹線は動いていないようだったので、結果的にはおそらくこの在来線が一番早いルートだったのだと思う。
 しかし、前にも書いたが自分は結局到達できたしまだいい方で、これが青森や盛岡に行く用事だったら絶望である。それにたぶんだが1時間予定が遅かったらそもそも出発できていない。結局、この日到達するにはこの時間に出発して在来線に乗り換える以外方法はなかったんじゃないかと思う。

 仕事も無事終わって、遅れはしたもののこれも結果的にたどりつけてよかった。なんだか妙な達成感である。
 ところが帰りもなかなか大変だった。
 午後には新幹線は復旧したというので、とりあえず駅に行ってみるが、やっぱり通常通りとはならず、列車はかなり遅れてしまっており、予約した列車は30分遅れで到着する。
 ようやく乗り込んだが、やっぱりとにかく朝からの影響で新幹線の線路が渋滞してしまっているようだ。あちこちで停車を繰り返し、結局1時間以上遅れて東京に到着した。
 結局家に着いたのは夜の10時ごろである。
 この日は朝5時台から活動していたのでこの日はすでに17時間くらい経過しているが、そのうちの10時間くらいは電車の中で過ごしていたことになる。

 なかなかない1日だが、まぁ楽しかったような気がする。

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