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美術教育を取り巻く現状【後編】

こんにちは。

前編に続き、後編ではアートとビジネスの融合を進める動きや美大生の意識からその背景についても触れていきたいと思います。

前編はこちらからどうそ。

では早速、探っていきたいと思います。

美大生の意識調査

東京藝術大学(2015)「学習と学生生活アンケート概要報告書」によると、美術の中でも学部・修士ともに「油絵」を専攻する学生が多いようですが、将来の進路先は一般職の傾向のようです。

続けて、「あなたが今、抱えてる不安や悩みは何ですか?」という問いに対して、「将来の進路・生き方」が約80%を占めていました

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これらの結果から、美大生は『好きなことをやるために入学したはいいが、将来や生き方が不安』といった、未来ビジョンが描きずらい領域であるとことが分かります。

しかし、その背景には、前編でも述べたように「美術に対し関心が薄い国」であるがゆえに、産業界側の理解が追いついていないといったことも考えられます。

ただ、今回は1校のみを調査対象としているため、その他の美大生を含めれば別の結果となる可能性もあることから、不安内容を特定してしまうのは尚早なのかもしれません。

『デザイン経営』の動き

昨今、「VUCA(※1)」という言葉に代表されるように、先行きが見えない中で成長が求められるという状況において、感性を重んじて新たなビジネスモデルや製品を創出できる人材が必要という考えが産業界だけでなく、美術系の高等教育機関においても広がりをみせています。

欧米ではイリノイ工科大学やアアルト大学、パーソンズ美術大学など、デザインとビジネスの垣根を超えた人材を育成する高等教育機関の重要性が必要とされています。

一方で、日本国内ではビジネスとデザインを掛け合わせた課題の発見や解決ができる人材を育成する高等教育は遅れており、2018年の経済産業省と特許庁による「デザイン経営宣言において、事業課題を創造的に解決できる「高度デザイン人材」を育成すべきとの政策提言を行うなどして「デザイン経営」の社会実装が急務となっているようです。

それらを背景として、デザインとビジネスの領域を架橋できるハイブリッド人材の育成を目的に、

●武蔵野美術大学では2018年に「クリエイティブイノベーション学科」

●多摩美術大学ではビジネスパーソン向けに「TCL-多摩美術大学クリエイティブリーダーシップ プログラム」を開講しています。

他方で、小中学校の初等教育においては、欧米やアジア等で複数の理科系の教科を融合した教育課程、すなわちSTEM教育(※2)も普及を見せています。

STEM教育は、子どものうちからロボットやIT技術に触れて「自分で学ぶ力」を養う新しい時代の教育方法といわれ、日本においても2020年度の小学校でのプログラミング必修化を皮切りに、公教育にも広がりをみせています。

一方で、テクノロジーを使いこなすだけでなく、クリエイティビティを発揮するほうがより現代に求められるという視点から、最近ではSTEMにA(Art(芸術))を加えたSTEAM教育を導入する学校も存在するようです。

※1 VUCAとは:Volatility[激動]Uncertainty[不確実性]Complexity[複雑性]Ambiguity[不透明性]の頭文字を取ったもので、ビジネスの文脈では社会の変容が加速し、複雑で混沌とした現代の環境を指す。

※2 STEMとはS:Science、T:Technology、E:Engineering、M:Mathematicsそれぞれの頭文字を取った言葉で、科学・技術・工学・数学の教育分野を総称した言葉。

まとめ

美大生の不安要素は『将来的な不安』が最も高い傾向にあり、これはVUCAといった予測不可能な社会動向による影響ともいえるかもしれません。

一方で、大学側はアーティストとしてのイメージが強い美大の有用性を活かして、産業界側とも連携し『デザインと経営のハイブリット人材』の育成へと移っているようです。

他方で、現在の国内株式の約3割が外国法人となっており、世界における日本の立場はますます弱くなっていることから、国内のビジネスあるいは地方創生において「クリエイティビティ」と「イノベーション」は欠かせない機能となっています。

そのため、アート(芸術・美術)とビジネスの融合にである『デザイン経営』のプレゼンスは今後さらに高まっていくことが予想されます。そもそも、美術・芸術は0から1を生み出す職種であり、クリエイティブ人材のそれであります。

今は、コロナウイルスによる影響によって一時的に就職活動が困難な状況になっていますが、収束すれば一気に人手不足が加速することが予想されます。

そうなった時に、日本の産業振興のカギを握るのは、美術のクリエイティブ要素とビジネス感覚を持ち合わせた『ハイブリット人材』なのかもしれません。

最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
Twitterもやっています。@tsubuman8

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