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新しい空気感と、その足音

 先週の土曜日、住み慣れた千葉のとある町から引っ越した。おかげでここ3日間くらいは本当にてんてこ舞いだった。本当にみずから進んで頭を使うことも忘れるくらい。

 ひたすら体を酷使し、荷物を段ボール箱に詰め、そして引っ越し先についたら詰めた段ボール箱を自分の住居へと運んでいく。どこに何を入れたかを忘れ、ご飯を食べようにも炊飯器の場所がわからない。仕方ないので引っ掻き回す。気が付けば時間がたっている。

 ちなみにてんてこ舞いってもともとどういう意味なのかと思ったら、祭りで踊る人の舞を指しているのか。あんまり優雅な踊り方ではない気がするのだが、果たしてどうだろう。

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 住み慣れた場所を離れて、新しい場所へと居を移す。当然ながら、未開の土地なので新しい情報があふれかえっている。目で追っても、足で歩いても、音を聞いても、匂いをかいでもすべてが新鮮だ。まるで海外の見知らぬ土地に来たかのようだった。確かに、私は生きている気がした。

 ただ一つ難点なのは、以前の場所よりも田舎であること。これすなわち、たくさんの自然に囲まれていることと同義である。それはまた、大量の花粉と共存しなければならないということである。おかげさまで、昨日からくしゃみと鼻水が止まらない。会社からは、花粉症の人はできるだけ出社することを控えるようにしてください、と通達が来た。なにかわからないけれど、世の中どこか間違っている気がする。

 とりあえず今、私の部屋にはふたを開かれた段ボール箱が部屋の中に所せましと並んでいる。開いた瞬間、私の知らない何かが飛び出してきそうな気がする。新手のびっくり箱。

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  新しい住居先のまわりをぶらぶらとしていると、新しくできたと思われるパン屋さんがあった。中を覗き見てみると、それなりに賑わっているようだった。この状況に負けるな、とつぶやき、せっかくだからその店の看板メニュー(にしようとしている)カレーパンを購入した。

 帰り際、一口食べてみた。ルーの甘みとジワリとした辛さが癖になる。近くにあった反射板を何気なくのぞいてみると、揚げパンの油で口のまわりがてかてかになっている。

 こうやって、きっといろんなものに慣れていく。時間が経つとともに。今回引っ越してきた街は、この先私の人生においてしばらく身を置くことになりそうな気配である。

 なんだか新しいことが、この先もずっと続いていくような気がした。そう、この場所で一から少しずつまた築き上げていくのだ。




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