4.長過ぎるヒンプン
沖縄の伝統的な屋敷には入り口の突き当たりに【ヒンプン】と呼ばれる衝立を設置します。
多くの文献では「目隠し」として紹介されることが多いのですが、ルーツは【屏風門(ピンフォンメン)】と呼ばれる魔除けだと言われています。
今でも玄関に屏風を置いたりするのは、目隠しの意味ではなく、魔除けの意味があったのかもしれません。
沖縄の昔の民家ではできるだけ多くの風を取り込むために、壁の少ない構造になっていて、玄関らしい玄関はありません。
その代わりに【屋敷囲い】という台風の防風対策が行われていて、入り口が玄関がわりになっていると考えると分かりやすいと思います。
科学が発達していなかった時代には、家の中で悪いことが起こると、外から何か悪いものが入ってきて悪さをしたに違いないと考えられていた地域は多く、
日本の妖怪も元々は同様の考え方といえます。
家の中に悪いもの、沖縄では【マジムン】と呼ばれていますが、マジムンが家の中に入らないようにするための魔除けがヒンプンだと言われています。
ヒンプンは衝立になれば、その役割を十分に果たすため、さまざまな素材が用いられており、名護市にある名護ひんぷんガジュマルは国指定天然記念物に指定されていて、家ではなく集落全体を守っています。
目と魔は相性が良いので、
目隠しとしても問題はないとは思いますが、
基本的に集落の人たちは親族であったり、
特に百姓の1日のルーティンを考えると、
明るいうちは田んぼ、畑で野良仕事をして、
暗くなると屋敷の裏側にある【ウラザ】と呼ばれる部屋で寝ることが日常生活で、
一番座、二番座と呼ばれるヒンプン側はハレの日の盆正月などの祭祀用と考えると、
琉球王国の時代にはあまり目隠しの意味合いはなかったのではないかと考えています。
目隠しでもあり、内と外の区切りでもあり、魔除けでもあり…というのがヒンプンの考え方かなと思っています。
また、台風が強い勢力のまま接近する沖縄県では、台風対策のために屋敷をぐるりと石垣や生垣で囲むので、入り口部分だけ何の対策もないのは不思議な話なので、
魔除けとして利用されていたヒンプンが風除けとしても使われ始めたんじゃないだろうがと思われます。
それにしても中村家住宅のヒンプンは長すぎる。
目隠しにしても、魔除けにしても、風除けにしても無駄に長くないですか?
というのが中村家住宅のヒンプンです。