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消費減税はむしろインフレを産む

何かの政策を「主張」したいのであれば、きちんとした論理的な組み立てが必要だ。そしてその組み立てを立証するエビデンスも不可欠である。この点で、参議院選挙で複数の野党が主張している「消費税減税」は話にならないと思っている。

自説の正当性を述べるには論理性が必要

まず、ある政策を採用すべき、というためには政策ディベートの基本である以下の4要素が最低限必要だ。

①問題の根本原因は何か(Causality)
②提案する解決策が問題をどの程度解決できるか(確率×インパクト) (Extent of being solved)
③解決策は実行可能か (Feasibility)
④解決策で生じるデメリットよりメリットが量的に上回る(確率×インパクト) (Advantage vs Disadvantage)

減税論者の論拠は?

Twitter上で「期限付き消費減税」を主張している人の論点は以下の通り。本人曰く国民民主党の支持者らしい。

①消費税10%が受給ギャップ(=景気低迷)の原因
②消費減税をして同時に今より積極財政にすれば①は解決
③可能(と思っているようだが立証はなし。歳入に占める減税後の公債率にも触れず)
④メリットだけ(と思っているのか、デメリットには触れず)

この時点で、立証が不十分であり、全く政策として成り立たない。

減税論に反論してみた

というわけでそもそも減税を是とする根拠が極めて乏しいので反論する気も失せるのだが、とりあえず反論をまとめてみる。

日本の経済低迷は(特に生産年齢の)人口減と生産性低迷が主因。一人当たり輸出額の少なさもある。(立証1)欧州各国は日本より高消費税率で日本より成長。(立証2)GDPは国内総生産でその大半は個人消費。生産年齢人口が減れば個人消費は減る。また生産性は先進国でも下位にあり、それが日本人の平均給与が伸びない理由。GDPは人の頭数と一人当たり生産の掛け算だから、掛け算の変数の片方が減少、もう一方が低迷すればGDPは伸び悩んであたりまえ。
②上記①により消費減税は効果がない。原因が違うので、解決できない。減少を続ける人口、低迷する生産性は消費税が減っても解決しない。
③平成4年度予算でも歳入に占める公債は34%、このうえ消費税20%が減って歳出を維持(あるいは積極財政により増加)すれば、歳入の50%以上を公債で賄うこととなり、日本国債が投機的格付になるリスクがある。このような予算は承認されない。(あなたの知人が給料と同額以上を毎月借入れて全部それを使っていたとしたら?
④(副作用) 仮に公債発行で減税を賄うとすれば公債依存比率は50%を超え、信用格付けは投機的格付けに下落、長期金利上昇により景気は悪化。円安も急激に進行し、スタグフレーションに陥る可能性がある。長期国債を多く保有する日銀は売却損を避けるためにテーパリング(正常化)がさらに遅れ、金融引き締めによる物価上昇の抑制はいよいよ不可能になる。

消費減税はむしろ暮らしを壊すおそれ

消費税減税論者は「10%の減税があれば生活は楽になる」と考えがちだが、日本が積み上げてきた財政赤字、歳入に占める現在の公債の割合(34%)を考慮に入れると、減税を決定し発表した時点で金融市場にネガティブなメッセージを送ることとなり、長期金利の上昇という、特に住宅消費及び借入金のある企業にとってマイナスな結果をもたらすことになる。

日銀自身のBSに抱えた大量の長期国債が評価損に見舞われることを防ぐため、依然として金融引き締めを行うことはできまい。政策金利は低位にとどまり、円安は加速度的に進行することとなろう。10%の減税幅は相殺され、それ以上の輸入インフレとなる可能性がある(現に、過去半年で20%以上の円安となっている)。

なお、仮に①②について減税派の言い分が正しく、需給ギャップが消費減税で解消するのであれば、現在ロシアのウクライナ進攻等で、エネルギー価格や小麦などのコストプッシュインフレがすでにあるところに、デマンドプルインフレが加わるため、欧米並みの物価上昇(8-10%)もあり得る。この場合も、消費税減税で国債には売り圧力がかかるので、日銀のテーパリングは遅れ、金融引き締めによる物価上昇の抑制は期待できない。つまり減税論者はインフレを自ら呼び込もうとしているわけだ。インフレのリスクがある時に、自ら需給ギャップを埋めに行くのは愚の骨頂である。

この点については筆者だけでなく、内外のエコノミストも同様の情報発信をしているので、参照されたい。今回の選挙においては、国民の人気取りを主眼に実現性の乏しい主張を展開する野党が多いが、冷静に判断したいものだ。(終わり)

(参考)




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