2019ルヴァンカップ決勝観戦記 ~冷静と情熱の間~

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2019年10月26日、土曜日。川崎フロンターレにとって5度目のルヴァンカップ決勝である。現地観戦は2017年に続いて二度目。2017年のセレッソとの決勝では、初タイトルの瞬間を観ようと多くのフロサポがチケット争奪戦を繰り広げ、私も知人の好意でやっとメインアッパーの上の方をゲットした経験から、今回は早めにメインロウアーの指定をゲット。Twitterで知りあったフロサポさんと観戦した。

試合経過やスコアについては既知のことなので省略する。後半ロスタイムにコンサの福森が蹴ったコーナーキックを深井がゴールに叩き込み同点ゴールを決めた時、テレビ観戦している大阪の友人から「痺れる試合や」とメッセージが入った。そう、サッカーファンから見たらこんな面白い試合はなかったと思う。

試合を面白くしたのは、なんといってもコンサとフロンターレという組合せ、そして札幌の若い力が堂々とフロンターレに挑んだその姿勢だった。前半早々に先制したコンサは、その後も守りに入ることはなく、ピッチの横幅を存分に使った崩しで何度もフロンターレゴールに迫った。そのおかげでフロンターレにもチャンスが回り、前半終了間際の阿倍浩之の同点ゴール、また後半に小林悠の逆転ゴールにつながったのだ。相手がまたセレッソ大阪なら、こうは行かなかっただろう。

結果としては延長戦を経てPKで決着した。激闘の末、フロンターレは初のカップ戦タイトルを手にした。試合が終盤に近づくに連れて、サポーターは経験したことのない高揚感を味わったはずだ。私も例外ではなかった。小林悠が延長後半に同点ゴールを決めた時は思わず「かっこいいー!」と叫んでタオルをブンブン回したし、新井が最後のPKを止めた瞬間は、見知らぬ隣の女性と抱き合って喜んだ。

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それにしても、だ。この興奮、この高揚感を作り出したのはコンサの力なんだよな。数日経って試合を思い返すたびにそんなことを考える。

延長戦突入後に谷口彰悟が退場した直後、福森のフリーキックの素晴らしかったこと。後半終了間際のコーナーキックに続いて本番でも物怖じしないコンサスピリットを見せつけた。彼だけではなく、荒野やチャナティップなど、試合を通じて堂々とプレイしていたのは平均すればコンサの選手の方だったような印象がある。それに対して経験と地力で勝るはずのフロンターレの選手たちが互角の戦いを強いられた結果が3対3というスコアだったのではないか。

カップ戦である以上、勝者を決めなければ話にならない。だから最後にPK戦をやる。そこで新井がセーブを連続してフロンターレの勝ちとなったが、PKほど偶然に左右されるものはないのである。メディアは後付けで福森を石川に交替させたのがミシャ監督の判断ミスと言うが、福森は足をつっていたし、逆に石川が成功すれば、ベテランだからちゃんと決められた、と報じられただろう。

MVPはPKを止めた新井となったが、これも誰かに決めないといけないから決めたという感がある。新井のせいだけではないにせよ、なにしろフロンターレは3失点しているのだ。勝利チームから選ぶとしても、途中交替で2ゴールを決めた小林悠や、菅をサイドで圧倒し120分間走り抜いた家長でも良かったはずだ。だが決め手はなかった。フィールドプレイヤーは、引き分けにしかできなかったのだから。

サポーターとしての純粋な喜びはあるものの、ごくごく冷静に見るなら、これはリーグ王者の川崎が、年俸にすれば半分から7割程度のコンサの選手たちに120分で勝ちきれなかったということではないか。それでもメディアは新井の下積みが長かった云々を書き立て、PK戦というじゃんけんで手にしたタイトルを美談に仕立て上げる。メディアにお金を落とすのはフロンターレサポーターだから、商品としてはそれで正解だろうが、いちサッカーファンとしてはここ数日、過剰な賞賛にいささか白けてしまっていた。

今期のフロンターレは引き分け、つまり勝ちきれない試合が多い。これがもしリーグ戦なら、深井のヘッドが決まった時点でゲームオーバーなのである。手にするのは勝ち点1のみ。MVPもいない。だが試合そのものは、本当に素晴らしい、感情を掻き立てる名勝負であった。ルヴァンカップの優勝は、私の中ではコンサとフロンターレが作った、素晴らしい感動を生むドラマとして記憶されていくだろう。

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北海道を型どったコレオや、メインスタンドとゴール裏が一体となった印象深い応援。PK戦の時コンササポーターが声を揃えて歌い続けたGKクソンユンのチャントは、試合の後一週間経っても脳内で繰返し再生されていた。そう、それほどにコンサのサポーターは素晴らしかった。はるばる北海道から駆けつけた方も多かったと思う。結果はPK戦というじゃんけんで決まったけど、あなたたちも勝者だ。ありがとう。そしてリーグの最終戦と今度カップ戦で当たったら本当に勝つぞ、と言わせて欲しい。

ここで一句

「じゃんけんで勝って タイトルとれました」

お粗末様でした。(了)







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