クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #80 銀河連邦からの使者

 それからというもの、アルタシアは他のスタッフの目を盗んでは、中央部に勤務する者のあらゆるデータを片っ端から調査した。
 経歴から家族構成、好みや癖に至るまで、調べられるだけ調べた。
 しかし、調べるだけ無駄だった。もしスパイがいるのなら、その情報は細部に至るまで抜かりなく手を加えられているようだ。
 次第に、自分の思い過ごしだったのではないかと思うようになった。

 そんなある日、仕事を終えて帰宅すると、玄関の前にすらりと背の高い女性がひとり立っていた。銀色の髪をしたその女性は、どこまでも深い湖のような青い瞳でアルタシアをじっと見つめた。
 身なりからして、ひと目で地底世界の人間ではないとわかった。かといって、地表人でもない。というより、地球人ではなさそうだ。

 女性はアラミスと名乗り、銀河連邦からやってきたのだといった。
 証拠にといって、アルタシアの脳裏にアラミスは自分のデータを表示させた。
 そこには、銀河連邦の職員であることを証するアラミスの身分が映し出されていた。たしかに、銀河連邦の人間で間違いなさそうだ。

 銀河連邦の人間が何の用かと尋ねると、中央部には内緒で相談したいことがあるとアラミスは答えた。
 不審に思いながらも、アルタシアはアラミスを家に上げた。
 家に上がるなり、アラミスから指輪をひとつ手渡された。大きなダイヤのついた指輪だった。それをはめれば、銀河連邦のマザーシップとコンタクトが取れるという。

 指示されるままアルタシアはオーラムルスを外して、その指輪を右手の人差し指にはめた。すると、目の前にアラミスと同じ服装をした男性が表示された。アラミスと同じく、銀色の髪に青い瞳をしている。
 男性は、ハスールと名乗った。簡単に自己紹介があった後、ハスールはアルタシアへの相談内容を話し始めた。その内容とは、次のようなものだった。

 現在、地球は次元上昇する段階に差し掛かっている。それに伴い、クリスタルエレメントが発見されるようになるだろう。
 クリスタルエレメントは、5つ揃うと次元上昇を引き起こす引き金となるが、同時に地球を消滅させることもできるほどのエネルギーをも生じさせる。
 そして、闇の勢力は地球の資源が枯渇次第、クリスタルエレメントを用いて地球を消滅させることが予想される。次元上昇されてしまっては、宇宙に光の惑星が増えてしまうからだ。

 そのため、銀河連邦は何としてでもそれを阻止して、闇の勢力を地球から追放する計画でいる。
 幸いなことに、闇の勢力の人間にクリスタルエレメントを入手できる選ばれし者は存在しない。
 しかし、地表世界だけでなく、地底都市や海底都市など5大都市の各地に闇の勢力のスパイが潜り込んでいる可能性が、ここにきて浮上してきている。
 そのため、たとえ選ばれし者がクリスタルエレメントを入手したとしても、スパイによって奪われてしまう危険性がある。

 だが、銀河連邦はさらにその裏をかいて、逆にそれを利用しようと考えている。つまり、クリスタルエレメントを餌に、真のスパイを釣り上げるのだ。
 しかし、それを行うためには、闇の勢力の内部に協力者が必要となる。要は、闇の勢力に潜入してスパイ活動をする人間だ。
 そして、アルタシアにその役をお願いできないかというのが、ハスールの相談だった。

 なぜ自分が選ばれたのかと尋ねると、まず、アルタシアは闇に取り込まれる可能性が極めて低い魂であることが判明していること。
 そして、闇の勢力を追放するという高い志を持っていること。それに加えて能力も高く、何よりも稀にみる強大な生命エネルギーを備えているからだということだった。

 闇の勢力に潜入するにあたって、闇のドラゴンと契約を交わしておくことが望ましい。そうすれば、スパイであることが疑われにくくなるし、早い段階で幹部に昇り詰めることができる。
 闇の勢力の中でも、闇のドラゴンと契約を交わせる人間は希少で優遇されるからだ。

 しかし、闇のドラゴンと契約した場合、生命エネルギーの弱い人間であれば身も心も闇に侵されてしまうため、スパイ活動を行うどころではなくなってしまう。それに、いずれ闇のドラゴンに生命エネルギーをすべて食い潰されてしまう。
 そのため、アルタシアのような強大な生命エネルギーを持った人間がどうしても必要なのだと、ハスールは説明した。
 さらに、アルタシアは闇のドラゴンと戦って従わせられるほどの強さも持ち合わせている。これほどの適任者はいない、とハスールは太鼓判を押した。

 そしてもし引き受けるとなったら、今の守護ドラゴンとは契約を解除する必要があるが、その代わりにエジプト神のひとり、ホルスに守護させるよう手配するとハスールは付け加えた。


お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!