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第78号 神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜強迫性障害のバイオマーカー、新年度からの所属に変化はありましたか?

// 2023年4月29日 第78号
// 1. 今週の注目ニュース:神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜強迫性障害のバイオマーカー
// 2. 質問コーナー:新年度からの所属に変化はありましたか?

こんにちは、東京大学の池谷裕二研究室と松尾豊研究室で脳や人工知能の研究をしている紺野大地です。

共著論文がNature Communicationsにpublishされました!
1st authorの久我さんとLast authorの佐々木先生に大感謝です。


では、今回も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:神経精神疾患のオーダーメイド治療という新たな時代〜過食症のバイオマーカー

今回取り上げるのは、
「強迫性障害患者の脳内に電極を留置することで、症状の重さと相関するバイオマーカーを同定した」という論文です(2021年12月)。

「神経精神疾患のオーダーメイド治療」についてこれまでも何度か扱ってきましたが、この論文もその流れを担う重要な研究です。
以下で、この研究の内容を深掘りしながら見ていきましょう。

背景

強迫性障害(Obsessive Compulsion Disorder、OCD)は、不安障害の一種で、強迫観念と強迫行為によって日常生活に支障をきたす病気です。

強迫観念:自分の意思に反して繰り返し浮かぶ特定の考え
強迫行為:強迫観念によって引き起こされる不安や恐怖などを打ち消すために、同じ行動を繰り返し自分に強いること

強迫性障害の代表的な症状として、
「手が不潔に思えて過剰に手を洗ってしまうこと」や、
「戸締りなどを何度も確認せずにはいられない」といったものが挙げられます。

強迫性障害の原因は、遺伝的要素、脳内の神経伝達物質の不均衡、ストレスや心的外傷などが関与していると考えられています。
症状が悪化する要因には、ストレスや環境の変化、睡眠不足、喫煙や飲酒が挙げられ、症状の軽減には、ストレスの適切なコントロールや、健康的な生活習慣の維持が重要です。

強迫性障害の診断は、主に医師による診察を通じて行われますが、ここで問題となるのがその主観性です。
多くの精神疾患には、高血圧における血圧値や糖尿病における血糖値のような客観的なバイオマーカーが存在しないため、どうしても診断の主観性が大きくなってしまいます。
強迫性障害もその例に漏れず、この点が大きな課題となっています。

治療方法としては、薬物療法と認知行動療法が主に用いられますが、これらでは改善しない治療抵抗性の患者に対しては脳深部刺激療法(DBS, Deep Brain Stimulation)が用いられることがあります。
強迫性障害に対するDBS治療は2009年にアメリカで承認され、現在では数百名以上がデバイスを慢性的に留置されたまま生活しています。

この研究の目的

上述の通り、強迫性障害を含む多くの精神疾患では、バイオマーカーが存在しないことが、客観的な診断・治療の大きな障壁となっています。
そこでこの研究では、強迫性障害の重症度と相関する客観的なバイオマーカーを同定することを目指しました。

以下で、具体的な内容を見ていきましょう。

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