見出し画像

「該当者多数!相続トラブルの具体的事例」

【はじめに】

最高裁判所は、裁判所で争われている各相続紛争事案における遺産総額がどの程度であるかを公表しています。そしてその内訳は、遺産総額1,000万円以下の事例が約3割、同じく1,000万円を超えて5,000万円以下の事例が約4割であることから、これを受けて「遺産が少ないほど揉めやすい」と言われたりします。

しかし、遺産の大小もポイントではあるものの、大切なのは「争っている相続人間で、なぜそのような意見の衝突が起きてしまっているのか」という点です。

今回の第一事務所通信によってこれを紐解いたとき、もしかすると皆様のご家庭にも相続トラブルの「種」が存在していることに気が付いてしまい、もはや相続が開始されてから「こんなことになるとは思わなかった」などとは言えないかもしれません。目を背けずにしっかりとご覧頂き、ぜひ必要な準備をご検討頂けたらと思います。

【相続手続は何が原因で滞るのか】

遺言書の作成や生前贈与など、いわゆる「相続対策(※ここでは「遺産分割対策」の意味合い)と呼べる手続きを行っていなかった場合、相続開始後に故人様名義の預貯金を解約したり、故人様名義の不動産の名義変更を行ったりする場合には、通常、各関係機関から次に記載の書類が求められます。

①相続人全員の署名捺印(※実印使用)がされた「遺産分割協議書」や
 「金融機関所定の相続手続書類」
②相続人全員の印鑑登録証明書

遺産分けに関する相続人間の意見が衝突してしまう場合などには、一部の相続人からこれらの書類準備についての協力が得られず、結果、相続手続きが進まない状況となってしまうわけです。

※特に預貯金の解約においては、金融機関独自の基準により預金残高が少額であると判断された場合、代表相続人1名の押印や印鑑登録証明書で解約が可能であることがあります。ただしこのような場合でも、代表相続人が単独で取得できるわけではありませんので、相続人が複数あるときには必ず、解約預貯金を誰が取得するのかについて遺産分割協議を行う必要があります。

【相続開始前からわかる「相続人間の対立の図式」】

遺産分けに関する相続人間の意見が衝突する多くのケースでは、相続開始前から、将来の相続人間の対立関係・意見の不一致が起こりやすい、次のような家族状況が見受けられます。

①一部の相続人が親の介護を行っている
・「遠くの親戚より近くの他人」とはことわざの話ですが、「近くの嫁より遠くの娘」といったように、一部の相続人に介護の役割が偏っている家族状況は多く見受けられます。
・介護を行っていた側からすると、必ずしも介護それ自体に不満を持って行ってきたわけではないものの、他の相続人に対して「何も協力してくれなかった」「何の労いの言葉もかけてくれなかった」という感情を抱くことは少なくなく、これが「介護に積極的に関与した側」と「そうではない側(※これはあくまでも「介護に積極関与した側の主観」です)」という対立を生み出し、遺産分割の場面で主に「現金による調整」という形で顕在化してしまいがちです。

画像1

②一部の相続人が親名義の不動産で同居している
・子どもが未婚であったり、上記①のような介護を目的とするなどして、親名義の不動産で親世代と子ども世代が同居しているご家庭があります。親が亡くなったとき、その不動産は誰が引き継ぐのでしょうか。
・子ども世代からみたとき、特に介護を目的として、元々の住まいを引き払って親と同居し始めた場合には、介護が長期間に渡るほど、その親名義の家は同居の子どもにとっても重要な「自宅」となり、「将来は当然自分が引き継ぐもの。他の家族もそう考えてくれているはずだ」という感覚が生まれやすい傾向にあります。
・「同居していた相続人」と「非同居の相続人」という対立の図式が生まれ、不動産を要求する側と現金による調整を求める側とで衝突してしまうのがこのケースです。このようなケースでは、親世代も子どもの将来のために「家はちゃんと残してあげたい」と考えていながら、それにも関わらず何の準備もしていない、その同居の子どもにだけ口頭で「家はあなたがもらってね」と伝えている、などという様子がまま見受けられます。ぜひ事前の法的対策に着手して頂きたいものです。

画像2

③親名義の土地の上に子どもが自身の名義で家を建てている
・親名義の土地の上に子どもが配偶者名義(※ご主人など)で家を建てている事例も同様です。
・このようなケースでは、親子間で地代の授受が行われていることはほとんどありません。金銭の授受があっても周辺相場と比較して非常に低い金額であったり、あるいは固定資産税すら親が負担している事例もあったりします。
・家を建てたときには土地所有者である親との話し合いだけで進めることができたかもしれませんが、親が死亡して相続が開始されると「自分が単独で土地を相続するために、他の相続人の了承を取り付けることができるか」という問題が発生してしまいます。
・土地は高額になりがちです。さらに他の相続人が、固定資産評価額に比べて一般に高額となってしまう「時価評価額」での分割を希望することも考えられます。親名義の土地の相続を希望したとき、他の相続人から調整のための現金支払い(=「代償金の支払い」といいます)を求められた場合でも、それを支払うことはできますでしょうか。あるいは一方の相続人は土地を、他方の相続人は現預金を、という分け方で公平な分配になる程度に親の遺産に含まれる「現預金」は潤沢でしょうか。将来の相続トラブルの発生可能性・解決余地について、今から十分想像できるはずです。

画像3

④一部の相続人に対してだけの不動産贈与や金銭援助がある
・一部の相続人が家を建てるときに親から土地の贈与や金銭援助を受けていた場合や、一部の相続人が定職に就いていない・精神疾患等を理由にアルバイト程度の収入しかない、といった経済的事情から金銭の援助を受けていたような場合が該当します。
・このようなケースでは、援助を受けていなかった相続人から「自分は何ももらっていない。その分、遺産から受け取れる金額は多くて当然だ」という主張が出てしまうことが考えられます。
・また他方、上記記載の経済的事情によって、親からの継続的援助がなければもはや生活が成り立たない相続人がいる場合には、頑として法定相続分の遺産承継を譲らない旨の主張がされてしまうこともあり、このような対立の図式によって遺産分割が難航しやすいといえます。

画像4

【終わりに】

いかがだったでしょうか。
もちろん上記のようなご家庭の全てで相続争いが起きているわけではありません。しかし、ちょっとした言葉のやりとりや行動の誤解と、そして財産が絡んでしまうことによって人の気持ちは大きく変化します。また「親の健在中は抱いている不満をあえて口にしていなかった」と仰るご相談者様も多くいらっしゃいます。将来の相続時点でどのような関係になっているのかは、誰も正しく想像はできないのです。

どうなるかわからないからこそ、親世代が健康で元気な今のうちに、しっかりと将来のことを相談して話し合い、遺言書の作成や生前の贈与など、勇気を持って必要な対策を促してあげてください。そして、皆様のご家庭に相続対策が本当に必要であるのか、どのような対策を行うのが最も適切であるのか、これらを皆様方でご判断頂くことが難しい場合には、ぜひ我々を頼って頂けたらと思います。

【ご案内】

司法書士法人第一事務所・行政書士第一事務所では、遺言書の作成や生前贈与、家族信託など、認知症対策・相続対策を通じて、皆様が幸せな生活を送るためのお手伝いをしています。
ご自身のことやご家族のこと、関与先様のことでご相談などございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

司法書士法人第一事務所
司法書士 工藤 皓也

当事務所へのお問い合わせはこちらから👇
http://tazawa-office.jp/contact/

この記事が参加している募集

企業のnote

with note pro

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?