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【モチーフ小説】産声をあげて


我が家のある一室、タンスの前に私は立つ。

さて、今日はどこを開けようかな。

おもむろに上から2番目の抽斗に手をかけた。

木箱がそろそろとせり出し、部屋の中があらわになっていく。

そこではベッドの上でロボットの赤ちゃんと人間の赤ちゃんがスヤスヤと寝息を立てていた。

あら、ちょっと早かったみたい。

もう少し、自分から起き出してくるまで寝かせておこう。

部屋を抽斗に戻していく。

今日のところは私もお休みね。

ふと目が覚めた。

部屋の中で物音がする。

眠気まなこで辺りを見回すと、タンスの上から2番目の抽斗がプルプルと震えている。

音が次第に大きくなっていく。

抽斗の中で何か言い争っているようだ。


「だいたいキミはね!いつまでたってもダルいだとかつまらないだとか・・・。そんな事言ってないでもう少し効率を考えてみたらどうかね?」

「効率効率って・・・、アナタこそどうかしてるわ!私はこれから観たい映画があるの!アナタと争ってる場合じゃないわ!バイバイ!」

「映画だって?一体あんなもののどこが面白いんだい?少しも仕事の足しにならないじゃないか!キミ、分かるかい?映画を観ていたって効率は上がらないんだぞ!」

「だからアナタ・・・。効率効率って呆れるわ・・・。」

まるで痴話喧嘩のよう。

放っておいても良い気がしたが、抽斗の持ち主の私には彼らを世話する義務がある。

私は震える抽斗に手をかけた。

中を覗くとロボットの少年と人間の少女が背を向けてあぐらをかいていた。

予想以上に成長するのが早い。

どちらもプンスカ顔なのが妙に愛おしい。


ほらほら、喧嘩しないの。

仲良くしなきゃダメよ。

せっかく同じ抽斗に産まれたのよ?

仲良しの方がずっと良いわよ。

それにアナタたち、考え方が違っても、どっちも良いところがあるのよ?

効率を考える事は良いこと。

それに、映画に心を動かされるのも同じくらい良いことなのよ。

度が過ぎるのはよくないことだけど、
お互いの良いところ、考えてみてね。

きっと仲良くできるはずよ。


それじゃあ、おやすみね。



小鳥のさえずりで目が覚める。

あれから抽斗が騒いだ様子はない。

そろそろ起き出す頃かしら。


抽斗を開けると彼らの姿はなく、
代わりに人間ともロボットとも言えない赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てていた。

枕元には手紙が置かれていた。

「今までお世話になりました。私たちは話し合ってお互いの良いところを認め合い、それを混ぜ合わせ、結晶として残すことに決めました。そこで寝ている子が私たちの結晶です。この子をどうぞ宜しくお願いします。」



新しいアイディアが目を覚ました。


さぁ、思いきり泣いていいのよ。


彼らの残した結晶が産声をあげるのを
私は見守った。


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