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ロシアウクライナ情勢-ネオナチ発言について②元ウクライナ大使の解説を中心に-

前回の続き。プーチン大統領のウクライナがネオナチ発言をきっかけの一つとして、元ウクライナ大使馬渕氏の言説が特定の界隈を中心に広がっているが、本記事では、2014年9月〜2019年1月までウクライナ大使であった角茂樹氏の言説に注目してみたい。

<前回の記事>

Twitterのフォロワーvinoさんに教えて頂きました。
ありがとうございました。

角茂樹氏のウクライナの歴史、正教会との関係なども踏まえた現状分析


2022年3月10日講演動画

「ウクライナ侵略におけるプーチンの言っているネオナチの定義」をいわゆるヒトラーのナチズムという意味ではなく「反ロシア的な民族主義者」と捉えると視野が変わる。

バンデラ主義者

「ネオナチ」という言葉と並んで、「バンデラ」「バンデロフツィ(バンデラ主義者たち、バンデラ一派)」という用語が、プーチン大統領や政府高官の発言、国営メディアにも、ウクライナを非難する文脈で登場。

この用語自体は、「ウクライナ・ナショナリスト」を指す言葉としてソ連時代から使われてきたが、もともとはステパン・バンデラ(1909-1959年)の名前に由来する。バンデラは、戦間期から第二次世界大戦中にかけてポーランドとソ連の両方と戦った活動家であり、極右的な準軍事組織を率いた人物。

ウクライナの見解では、彼はウクライナの独立のために戦った「自由の闘士」「独立の英雄」ということになっている。しかしながら同時に、彼は1941年と1944年にナチ・ドイツと協力した「ナチ協力者」でもある。彼とその仲間が発表した声明には、反ユダヤ主義が色濃く表れており、ロシア人、ポーランド人、ユダヤ人を「敵対民族」として排斥することが謳われていた。

また、ナチズムの思想に通じる純血主義も窺われるが、こうした側面はウクライナではあえて触れられない。言及されることがあったとしても、ソ連の支配からウクライナを解放するために、「敵の敵は味方」の論理でドイツと手を結んだに過ぎない、ということになる。

例えば、ウクライナでは2004年に、大統領選の結果をめぐる民主化運動で親ロシア政権が倒れる政変(オレンジ革命)が起こった。この「革命」によって、いわゆる親欧米/反ロシア色の強いユシチェンコ政権が誕生したが、同政権は、2009年、バンデラを郵便切手のデザインに採用し、2010年にはバンデラに「ウクライナの英雄」の称号を与えた。しかしこれは、ウクライナ東部や国内外のユダヤ人からの抗議にあって撤回された。
2013年末にウクライナで始まったユーロ・マイダン革命の結果、EUよりもロシアとの関係改善に前向きなヤヌコーヴィチ政権が倒れ、ポロシェンコ政権が樹立されると、2015年、かつてバンデラが率いた「ウクライナ民族主義者組織」「ウクライナ蜂起軍」の故メンバーたちを「20世紀のウクライナ独立の闘士」とみなすという法案が議会に提出された。また、マイダンの混乱の中、ウクライナ蜂起軍の赤と黒の旗を掲げる人々がニュース映像にも映っていた。

ポロシェンコ新政権の下、議席を得た極右政党「自由」や、「右派セクター」といった議会グループは、その反ユダヤ主義的志向を隠そうとしなかったため、ロシアはこれらを容易に「ファシズム」に結び付け、プーチン大統領はマイダン革命を「ナショナリストとネオナチ」が起こしたクーデターであると非難した。そして今でも、ドネツクとルガンスクでロシア系住民に「ジェノサイド」が行われていると主張している。
ロシアが「ネオナチ」「バンデラ主義者」という言葉でウクライナを非難するのは、今回の侵攻を、ここまで見てきたような2000年代初頭から続く一連の「歴史をめぐる戦争」の延長線上に位置づけていることを意味する。

ソ連を(ロシアから見れば不当にも)ナチ・ドイツと同等の占領者とみなし、一方でナチ協力者たちの名誉回復を進めるウクライナ――これが、プーチン大統領が「反ロシアのウクライナ」と呼ぶものの一側面であり、これを「正す」ことが「非ナチ化」の一つ目の意味である。

2004年の大統領選挙における、親ロシア派と親ウクライナ派の結果から、2019年における、親ウクライナ派同士の大統領選挙の結果

以下スレをチェックしてみてください。


ウクライナ正教会独立問題

まずは経緯。

ウクライナの独立後、国内でウクライナにも自治権のある教会が必要だろうという意見が広がった。しかし、モスクワ総主教庁は当然それに猛反発し、国家が独立しても、ウクライナはモスクワ総主教庁の管轄領であると強く主張した。   
そのため、一部のウクライナ人聖職者はロシア正教会から離脱して、「ウクライナ正教会キエフ総主教庁」を創立した。   
当然、モスクワ総主教庁はそれを認めず、キエフ総主教庁を「分裂主義者集団」と認定して、正教として認めなかった。

モスクワ総主教庁からの破門に対して、キエフ総主教庁は直接、コンスタンディヌーポリ総主教庁に、ウクライナ正教会に自治権を与えるようにお願いした。 しかし、コンスタンディヌーポリ総主教庁は、モスクワ総主教庁との対立を避けるために、そのお願いを拒否した。   
その結果、ウクライナにおいて、独立してから27年にわたって、二つの正教会が存在することになった。世界のすべての正教会に認められた「ロシア正教会ウクライナ支部(別名:ウクライナ正教会モスクワ総主教庁系)」と、どこの正教会にも認められなかった「ウクライナ正教会キエフ総主教庁」である。

ウクライナにおいて、独立27年にわたって二つの正教会が存在していたが、変化の兆しが。

2018年4月19日、ウクライナ国会は大統領の正式な呼び掛けを承認し、大統領がコンスタンディヌーポリ総主教庁に、ウクライナ正教会に自治権を与えるように呼び掛けを送ったのだ。
これに対して、コンスタンディヌーポリ総主教庁は今までと違って即効拒否ではなく、検討すると返事した。
その後、コンスタンディヌーポリ総主教庁の使者は、何度もウクライナを訪れて、さまざまな準備や調査を行っていた。
一方、モスクワ総主教庁はその間、全力を挙げて、ウクライナ正教会への自治権を阻止しようとした。8月31日、モスクワ総主教のキリル1世は、自らコンスタンディヌーポリ総主教庁に赴いて、ヴァルソロメオス1世に、ウクライナ正教会に自治権を与えてはいけないと直に訴えた。
しかし、2018年10月11日、コンスタンディヌーポリ総主教庁の教会会議において、ウクライナ正教会への自治権が決定された。
同時に、キエフ府主教区をモスクワ総主教庁に委ねる、1686年の決定は取り消された。また、1990年代にキエフ総主教庁を創立した聖職者達への、モスクワ総主教庁からの破門も取り消され、彼らは再び正式な正教会の聖職者として認められるようになった。


角氏「ロシア正教会にとって,ウクライナ正教会を失うことは,正教会最大の勢力であるという立場を失う可能性」

「ロシア正教会がキリストの使徒である聖アンドレアにより設立された使徒教会であるとの点を失うことを意味」

「大ロシア復活の手段の一つは正教会であり、プーチン大統領にとっては大打撃」

今回のウクライナ侵攻における正教会関連のコメント

ロシア正教会トップのキリル総主教はプーチン大統領の長年の盟友とされる。キリル氏はモスクワでの説教で、「(ウクライナ東部の)ドンバス地域での紛争は世界の大国と名乗る関係国が差し出す価値観といわれるものに対する根本的な拒否に根差している」と主張。総主教はウクライナの戦争を人間が神の教えを守る形而上学的な意味合いを持つ闘争とも形容。「国際的な関係の領域で現在起きていることは政治的な意味合いを帯びているだけではない」とし、「政治とは違ったはるかに重要な人間の魂の救済の問題である」と説いた。

ウクライナ正教会首座主教エピファニー座下からモスクワ総主教キリル聖下に送るメッセージ

中村圭志氏の宗教学的からの見解は、今まで宗教に触れた機会が少ない私にとって非常に参考になる。

前述のキリル大司教のプーチン擁護発言はあるが、ロシア正教会の司祭らが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の即時停止と和解を求める公開書簡を発表した。

おまけ〜もう1人の元ウクライナ大使馬渕氏の言説〜

※ぶっ飛んでいるので、真に受けず内容を確認する事を推奨。


「キエフ侵攻などない。プーチンがそう言ってる。プーチンとゼレンスキーは裏で手を握っている」

"若干穿った見方だけど"という前置きはあるものの22:40〜

馬渕氏「(西側メディアが出すロシア軍がウクライナへ侵攻する映像について)あれはバーチャルリアリティなの、それに我々は騙されて、ウクライナ国民が可哀相一色でしょ...完全にのせられているわけですね...」35:00〜

<参考>

① 角茂樹氏のゼレンスキー大統領解説

②小泉悠氏のプーチンのロシア解説


③廣瀬陽子氏のウクライナ解説

④小泉悠氏、鈴木一人氏の「ロシア・ウクライナ問題を地政学で読み解く」


以上です。
お読みいただきありがとうございました。

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