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『ダブドリ Vol.14』インタビュー05 ショーン・デニス(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)

2022年5月27日刊行の『ダブドリ Vol.14』(株式会社ダブドリ)より、ショーン・デニスHCのインタビューの冒頭部分を無料公開します。インタビュアーはマササ・イトウ氏。なお、所属・肩書等はインタビュー当時のものです。

ショーン・デニスHCは名古屋ダイヤモンドドルフィンズに新たな変化をもたらし、就任1年目から大きな成果を挙げようとしている。滋賀レイクスターズでも注目された、独自のチーム構築プロセスや、戦術観を語ってもらった。(取材日:3月21日)

アップテンポなオフェンスと相手に考えさせるディフェンス。見たかったチームになると思う。

 色々と新しいことを始めていると思いますが、シーズン当初からどういうイメージでチームを作ってこられたんですか?
ショーン・デニス(以下SD) まずプレーを楽しめるチームを作る、そんなチームの一員でいたいという思いがあるんだ。例えば、試合中にディフェンスを変えたり、アップテンポなスタイルを取ったり、ファンの皆さんにとって素晴らしいブランドがあるチーム。相手チームは、これまでとは違う方法で我々に対応しなくてはならないし、大きく混乱することになる。リーグの他のチームと比べても、我々のスタイルはかなりユニークだと思うし、このスタイルを作り上げていくことが、B.LEAGUEのコーチとして私が常に持っているビジョンなんだ。それがほぼ実現できたのが滋賀の三年目で、(齋藤)拓実と(狩野)祐介もいて、新しいシステムを導入して勝ち始めていた。外国籍選手なしで戦うことになったアルバルク東京との2試合までは21勝18敗だった(直近13試合を11勝)。
 この名古屋で指揮を執れるチャンスをもらえて、まず、国内選手にアスレチック能力があることに特に注目した。そこに須田(侑太郎)と(伊藤)達哉が加わって、物凄く選手層に厚みが出た。ここに我々のスタイルに合った機動力のある外国籍選手を見つけて、これならやれるぞと思っていたよ。シェーン(ウィティングトン)に故障が続いているのは残念だけどね。彼のスタイルは我々にぴったりだったし、故障するまではプレシーズンでも凄く良い感触だった。大きな背中の怪我でプレーできなくなってしまったけど、オヴィ(ソコ)がシステムの穴を完璧に埋めてくれた。オヴィがコンディションを戻して、システムを理解してくれれば、リーグでも良い位置につけることができると思う。千葉に次ぐアップテンポなオフェンスと、相手に考えさせるディフェンス、私が当初見たかったチームになると思うよ。我々は色々やり方も変えているし、これまでと違ったことを進めている。それをチームとして作り続けていくことが本当に楽しみなんだ。選手たちがそのことに熱中しているのを見るのは楽しいし、それが一番嬉しいことだね。Light-bulb momentと言ってるんだけど、選手たちが「これ俺たちがやったんだ」「こういう結果が起こせるんだ」とひらめく瞬間があるんだ。これまでの名古屋のプレーが少しずつ変わってきていると思うよ。日曜の信州戦はその良い証拠になったと思う。オフェンスが不調で、ハードなプレーが必要な、プレーオフにとても近い形だった。審判の判定もそういったフィジカルなプレーを強いるものだった。その中で選手たちが成長してそれを乗り越えて、ビジョンを更にはっきりと持ってくれたんだ。
 コーチも選手のセレクションに入っていたのですね。
SD カジ(梶山信吾前HC、現アシスタントGM)、アンディ(ボーランド。通訳兼GM補佐)、山下さん(雄樹。代表取締役)と話し合って決めていったよ。自分のシステムを実行するための選手の獲得だから、そこに参加することは極めて重要なんだ。すごく良い選手だったとしてもシステムに合うかどうかはわからない。ただ、結果として良い選手を獲得できた。リクルーティングでは、選手の性格が一番大きい。システムのためにハードワークが必要だし、そのためにコンディションも整える必要がある。自己中心的ではダメだし、色々とあきらめてもらうことも出てくる。でもプレーすると楽しくなる。このシステムでは、選手全員が参加しなければならないからね。
 賢い選手である必要もありますね。
SD そう。ただ、それは私にかかっている。私が教えないといけないことだからね。コートで起こることについて、選手たちができる限り自分で決めてコントロールできるようにしたい。サイドラインに立って一つ一つのプレーを叫ぶようなコーチになりたくはなくて、選手たちにどうすべきかを学んでほしいんだ。これは、私自身がオーストラリアのリーグで10年プレーした中で感じていたことで、選手の方がコーチよりもコートで実際に起こっていることへの感覚を持っていることがあるんだ。選手たちにはそれを学べるようにして、自分たちを信じられるようにしたい。選手たちへの信頼を見せれば、彼らはすべての行動にオーナーシップを持とうとし始める。これが私には一番大切なことで、オーナーシップを実際に持つと、選手たちは実際にそれが上手くいって結果が出ることを感じ始めるんだ。これがいつもの私のゴールで、タレントで劣っていても、強くて選手たちが共に成長できるチーム。これが私にとって何よりも大切なことなんだ。

カジがしっかりした基盤を作ってくれていたことはとてもラッキーだった。

 そういった文化や信頼関係を築いていくことは短期間では難しいと思います。例えば滋賀でも2年、3年が必要だった。一方で名古屋は1年目で早くも成果が出てきている。大きな違いはあったのでしょうか。
SD とてもラッキーだったのは、カジがしっかりした良い基盤を既に作ってくれていたこと。そうなると私がやることはその上に作っていくこと。大きな変更は、ディフェンスをよりアグレッシブにしたことと、リバウンドの二つ。選手たちにそれらを学んでもらって、オーナーシップを持ってもらう。私が上から「あれをやれ」「これをやれ」と指示して私のためにやるのではなく、全員が文化を作ってそれに責任を持つんだ。我々はジョブ・ディスクリプション(業務内容。以下JD)を意見を出し合って作っていて、選手もグループ毎にJDがあるし、コーチにもJDがある。全員がそれぞれの仕事に責任を持っていて、コーチも選手に対する責任を負っている。誰かが仕事をできていなければ、改善のために全員が発言する権利があるし、そうすることで「自分たちは誰なのか」というアイデンティティが形成される。その一つがレジリエンス(困難に立ち向かう力)だった。信州戦では何度か14点、15点差をつけられながら追いついて、素晴らしいレジリエンスを見せてくれた。我々の文化の意味についても考えていったよ。コートの中だけではなくてコートの外についても。我々はクラブを代表しているだけではなくて、名古屋を代表している。体育館の隣にある三菱電機の工場で働くすべての人を代表している。だから我々はそのことに責任を持っているということ。それは単にボールをリングに通して相手を止めることだけではないということだ。私の息子が4歳のとき「このゲーム簡単だね」という名言を残したんだけど(笑)、シンプルにそれは正しい。でも我々が代表しているものはそれ以上のものなんだ。それを選手に実際に感じてもらうこと、それに誇りをもってもらうことは、とても重要なことだと思っているんだ。
 まず、JDや文化というゴールを設定してそれを浸透させたんですね。
SD そこから毎週必ず各選手とコミュニケーションを持って、全体ではミーティングを毎月設定しているよ。そこでは、バスケットボールの話だけをいつもするのではなくて、選手たちが話しやすい環境を作っていく。練習でも選手たち同士でコミュニケーションを取るようにしている。そこで率直で建設的なコミュニケーションができ始めると、チームの変化を感じることができる。とにかく選手が問題を解決していかないといけないんだ。試合ではシナリオが変わり続けるからね。チョコレートケーキを作るならレシピをなぞればいいけど、試合だとチョコレートケーキが次の瞬間にはバニラスライス(オーストラリアのお菓子)になったりするんだ。そうなると選手たちがその場で対応しないといけない。それはコーチにはできないことで、練習で教えるしかないんだ。もちろん時間がかかることだけど良くなってきているよ。
 大きな挑戦ですね。
SD 世の中のどのビジネスでもリーダーが抱える大きな挑戦だよ。組織の一人一人が自分たちのやることを信じて、オーナーシップを持って、それをやりたいと思えるようにすることは。でも選手たちはそれをやろうとしているんだ。練習中のコミュニケーションもシーズン当初と比べると大きく変わったよ。開幕で渋谷に二連敗したときは、難しい状況でそのまま負けてしまったんだけど、今は似た状況でも勝てるようになってきている。
 コーチ陣にも戦術についてはよく話しているし、どのコーチも戦術については詳しいけど、選手に同じ認識を持たせて、納得してそれをやろうと思わせるにはどうすればよいか、それが重要なんだ。

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