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雨の日の贈り物⑥

6話「曇り空」

その日は、今にも雨が降りそうな曇り空だった。

やや早歩きであの人の家に向かう。両腕にぶら下げたスーパーの袋が重たくて仕方ない。特売日だからとついつい買いすぎてしまった。
だが、おかげでいい牛肉が手に入った。脳内で完璧なる料理のイメージを浮かべて少し頬が緩む。
今日こそは優弥に私の料理をおいしいと言わせてやる。

「桜井さん、こんにちは」

その、低く響き渡る声を、私は嫌というほど知っていた。
私を待ち伏せていたその男は、あっさり私のパーソナルスペースに侵入する。私は動けない。逃げたいのに、足が震えてまったくいうことを聞かない。

「あれ、お返事は?」
「せ、先生……」

しなやかで、大きな手が、私の頭を撫でる。

たったの数週間だったけど、相沢優弥との生活を、私は気に入っていた。
優弥との関係はちっとも縮まなかったけど、それでも、あいつの撮影のモデルをするのが、好きだった。

けれど、その生活は、もう終わりだ。

両腕にぶらさげていたスーパーの袋が、スローモーションのように、地面に落ちた。

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