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『バイオレンス・アクション』が伝えたかったこと、それは命の軽さと佐藤二朗の凄み

観てきました!
橋本環奈嬢がスゴ腕の殺し屋ムスメを熱演する漫画原作映画!
『バイオレンス・アクション』

僕はありがたい(?)ことに、アイドルファンでもなければ俳優、タレントという人に対して"推し"という概念がないので、その性質を活かし作品を忖度なしに語れるというアメコミヒーローも真っ青の特殊能力があるんですが、今回はこの『バイオレンス・アクション』なる非常に珍妙な映画を語り上げようと思います。

こんな前口上をするってことは正直今作にはあまり良い評価をしていないわけですが、批判ばかりではないナイスな面もあるのでその両方を【良いトコロ】【悪いトコロ】と分けて語っていこうと思います。

なので、この映画が好きな人は【良いトコロ】のレビューを見て傷つかないようにすれば良いし、好きだという肯定とは別の視点を取り入れたいという高尚な魂をお持ちの方は【悪いトコロ】まで見ればいいのです!

ですが忘れないでください、全ては僕の独断と偏見の産物でありますので。

【悪いトコロ】

■アクションシーンがMVだ!

もうタイトルの通り、アクションシーンがMV(ミュージック・ビデオ)です。

この映画は世界に数多あるアクション映画のセオリー同様、序盤から橋本環奈のアクションシーンでおっぱじまります。

既に日本には現代のアクション映画でも世界TOP級の快作『ファブル2』(個人の意見)がありますが、それと同等といえずとも『ファブル2』以後の作品であり、明らかな昨今の殺し屋映画ブームの中の今作である以上、そこは期待せざるを得ない。

格闘にしろ銃撃にしろアクションシーンは、主人公とそれを取り囲む敵との距離感の中で構成されなければならない。

敵の数、用いる武器の種類、ロケーション、様々な情報が観客に提示されていなければ良いアクションシーンは成り立たない。

しかしこの映画にあるのは限りなくアクションシーン的なMVである。

今作の主人公の環奈嬢は接敵し、たちまち格闘やアクロバットな銃撃が展開されるが、それが徐々に抽象化し途端にMV化する。

敵がどこから何人現れたのか分からない状況になり、環奈嬢の撃ち出す弾丸はザコのチンピラに問答無用で命中する。

それは次第にエスカレートし、拳銃を持った手を後ろ手に回して背中から銃弾を発射し(イチローの背面キャッチみたく)、終いにはバレエダンサーのように胸を前に張り出し空中を舞いながら、顔は天を仰ぎ、銃の照準にはいっさい目もくれずに弾丸を放ち、周囲に死体の山が築かれる。

この殺されゆくチンピラ達は、もはや環奈嬢の発射する銃弾に自身から当たりにいっているファンなのではないかと勘繰るほどである。

そこにはアクションシーンとしての見せ場という構成は崩壊し、飛んだり跳ねたりしながら銃を撃つ小娘と、周囲にはガラの悪い大人が断末魔を上げながらぶっ倒れるという地獄絵図があるだけだ。

これは上映開始3分ほどの出来事だったように思うが、この時点で正直もう帰りたいと思った。開始3分でこんな感情になるアクションシーンは初めてである。

さてここで皆さんに観て頂きたいのはこの動画。
ほとんどの人が面白くないと感じる映画を作る、大好きな押井守監督の『東京無国籍少女』のクライマックスのアクションである。

僕は邦画においてこれほどまでに完璧なガンアクションが出来たことに感動と失禁を禁じ得ない。本当に最高の邦画ガンアクションシーンである。

この映画は本当につまらないですけど(私は好きですが)。

■主人公の強さ設定がドラゴンボール並みだが職務怠慢ではないか?

あらゆる作品にどんなにキツい死線をくぐっても絶対に死なない人物はいる。『ダイ・ハード』のジョン・マクレーンとか、『M:I』シリーズのイーサン・ハントとか、つい最近やっと死んだけど英国紳士のあの人とか…。

しかし、それはそのキャラクターの肉体的な能力が我々と同じ、ないしは鍛え上げた肉体であるが、それがアメコミヒーローのような強さではない、という前提条件があり、だからこそ数々の危機に直面したときの主人公の痛みやスリルが観客に沸き立つのである。

そこで今作の環奈嬢だが、彼女はなんと瞬間移動ぐらい早く動けるのだ。
しかも冒頭のアクションシーンで。

チンピラの撃つ弾丸をドラゴンボールで悟空たちがやるように、シュンシュンと回避する。この例が若い方々に分からなければ『マトリックス』のスミスやネオがやるように弾丸をよけるのだ。

これには驚愕した。館内で買ったコーヒーに何か危険な薬でも入っているのかと思う程度には目を疑った。

こんな能力を見せられては、このあとに登場する敵はもはや彼女以上に素早く動ける相手でないとならない(そして環奈嬢の弾丸に自ら当たりに行くほどのファンでないことも重要だ)。

たぶんこの後の戦闘は、環奈嬢とボスキャラの動きが素早すぎて見えなくて困るという、ドラゴンボールでいうところの「速過ぎて見えない」状態になるんじゃないかと不安になったが、不思議なことにこの環奈嬢あっさり攻撃を食らったり、捕まったりするのだ。

なぜなのか?
銃弾をかわすほど素早く動ける能力を持っていながら、銃弾よりもはるかに遅い釘打ち銃に当たったりする。

いや、環奈嬢はあえて当たりにいったのかもしれない。
そうでもしないと生き死にや、生の充実を感じられないからワザと手を抜いたのかもしれない。

環奈嬢はことあるごとに「仕事ですから」と辛いときこそ笑顔を作り、涙を隠しながらそう言うのだが、普通に職務怠慢である。

ほんと「イカれてんねぇ~!」(今作のあるキャラのセリフ)

■命の大切さを感じつつ、やっぱりザコは虫けら以下の命だよね☆

殺人を生業にする殺し屋を描く作品には常に大小様々ではあるが、命に対する価値観の問題が描かれる。

この映画も例外ではないが、この映画ほど命を軽薄に描く殺し屋映画も珍しい。

とあるヤクザの組事務所に環奈嬢が乗り込んだ場面で、組員を全員ブッ殺し残すは組長のみという状況になった場面。

ここに登場する組長はなんと矢野・兵頭の兵頭組長である。

兵頭組長は、この環奈嬢に一切臆さず「お前は人の命をどう考えてるんや!? ワシの部下の命は虫ケラ以下かッ!?」と怒鳴りあげる。

このシーンは本当に良くて、この兵頭組長の怒りを真に受け環奈嬢が、命を奪うという自らの仕事の在り方に疑問を抱き、葛藤のキッカケになるという場面である。

実は僕はここからこの映画は一気に内容がシリアスに変化し、殺し屋である環奈嬢が自身の良心やアイデンティティを問うてゆき、人が殺せなくなったり、葛藤が生まれていくのかと思った。

なのでここまでのコメディ的な作劇はすべて振りで、その奥から物凄く本質的な命の扱い方についての話になるのかと思った。

そんな予想は無粋でした。

ちょっとだけ「虫ケラ」っていうワードに敏感になって「悪い言葉だから使うのやめよ!」となるだけで、相変わらず環奈嬢は仕事とあらば虫ケラの如く人を殺しまくっていました。

怖い!
もうね本当にこの橋本環奈という人が分からなくなります、この映画。

なんか人生とか夢とか希望とか、色々と突然語りだしてはクソみたいな自己啓発本のような善さげな雰囲気を醸しだすわりに、人命に対しての脳のリソースというか、心の有り様が皆無で、呼吸するみたいに人を殺していきますね。

ほんと「イカれてんねぇ~!」

【良いトコロ】

■山守義雄を凌ぐ腹黒組長爆誕!

昨今評判な殺し屋邦画の『ファブル』も『ベイビー・わるきゅーれ』も『ある用務員』もすべて作劇にはヤクザの存在があります。

よってそこにはヤクザ社会の流儀が描かれ、構造的な駆け引きが展開されますが、その模様をどう描けるか?というのがこういった作品の一つの見せ所、魅力だと感じますが、今作はこの点、この一点において最高です!

もうどちらかというと環奈嬢の殺し屋劇場より、ヤクザ屋さん劇場のほうが見ていたいぐらいです。
先ほども書きましたが、兵頭組長の存在感しかり、それを凌駕する大ベテランの高橋克典のゴリゴリ武闘派組長の凄み。

そーしーてー!なによりもこの物語の最も黒い暗部に鎮座する影のフィクサーである佐藤二朗の三代目組長である。

コメディ俳優のように扱われがちな(ご本人の望む望まざるに拘わらず)佐藤二朗氏。今年初めに公開された『さがす』(傑作だからみんな観て!)での快演も記憶に新しいのですが、ここに来てこの三代目組長佐藤二朗は本当に怖い!

一見バカそうにおやじギャクなんかを交えながら会話をするが、関東最大の暴力団の組長という貫録に、周囲が笑っていいか戸惑って顔が引きつるという最高の場面が多々あるが、このヒリついた空気感も佐藤二朗という俳優が持つコメディなパブリックイメージとの相反が生み出す緊張と緩和のアンバランスの成せる業だと思う。

暴力が支配する世界の中で本当に頂点まで上り詰めた人間の計り知れない狡猾さと、恐ろしさを体現する素晴らしい演技でした。

このキャラクターは確かに記号的なヤクザの組長という枠組みの中に納まってしまっているが、その存在感は任侠映画の傑作『仁義なき戦い』のフィクサー山守義雄(金子信雄)を凌駕する現代の最も上司にしたくないヤクザ組長キャラであること間違いなし!

「そがな昔の事、誰が知るかい!」

僕はこの映画で一番輝いていたのはこの組長だと感じるし、このヤクザ側のキャラの方が心に残る不思議な映画でした。

これもしかして殺し屋側とヤクザ側とで脚本や監督、プロダクトが別なんじゃねーか?と思っちゃうぐらいの出来の差で戸惑いましたが……。

【あとがき】

というわけで、今回は『バイオレンス・アクション』を忖度なしに語りました!

まぁ先週末公開されたばかりなので内容のネタバレは避けましたが、この作品の魅力(?)は充分に伝えられたと思います。

僕自身、漫画原作を読んでいないのでそこと比較はできませんが『ファブル2』以後の作品としては、少し残念だったというのが個人的な感情です。

橋本環奈さんを含めて、俳優さんはみんな頑張っていたと思います(実は終盤で環奈嬢が涙するシーンでは、ワタクシ少し涙ぐみましたが……)。

というか全員演技力のある方ばかりだと思いますが、それをどう演出し、どう見せ、何を伝えたいのかはブレブレだと思いましたね。

橋本環奈の可愛さを伝えたいのであればそれは結構ですが、それ以上の作品が訴える主張や提示したい世界観の構築にはいま一つな印象でした。

最後にお願いなのですが、このレビューを読んで怒りが湧いた方は是非ともコメント欄に「怒ったかんな!許さないかんな!」と言った文言を必ずいれてコメントして下さい。

僕の励みになるかんな!

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