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よしばな書くもん2 「豆粒を見逃すな」

不倫をする人の気持ちはわからないけれど、私は思う。
きっと不倫って、学生のときのあの気持ちを思い出すから、ときめくんだ。

たとえば高校生のふたり、まだこの世のだれともセックスなんてしていないふたり。
つい最近のことだった。
道で進藤くんとばったり会って、お互いが私服なのがとても新鮮で、うっすら知っているそれぞれの家に向かう分かれ道まで、初めてじっくりとおしゃべりしながら歩いた。今やっているゲームのこと、進路のこと。
へびいちごの這う石垣が続く道を。ぽつぽつと生る赤い実が石垣をきれいに飾りつけているみたいだった。
たまに彼の腕が私の腕にあたる。その感触は決して嫌われているようには思えない、親密なものだった。
いつまでもこの道が続けばいいと思った。
きっとお互いにそう思っていた。
今日は寒いねと私が言ったら、彼は自分の黒い手袋を貸してくれた。
嬉しくて涙がにじみそうになった。
でも学校で会うとお互いにそっけない。
「これ、ありがとう。」
と手袋とお菓子が入った袋を渡したら、彼は私の目を見ないで「ああ」と言って受け取った。周りの男子が冷やかして、私は真っ赤になって顔を伏せて走り去った。
あんなに親密だったのに、あれだけふたりのあいだに小さな光が灯っていたのに、学校では全てきっぱりと「なし」になってしまう。でもそこが苦しくてなんだかたまらなく気持ちいい。
その感じと不倫ってきっと似ているんじゃないかな、とおぼろげに思った。

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