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「死に触れる」中島英樹さんの新雑誌に寄せた文章。追悼のまえがきを添えて。

まえがき

「吹上奇譚」「ハチ公の最後の恋人」「チエちゃんと私」「どくだみちゃんとふしばな」「BANANA DIARY」、その他にもたくさんの私の本の装丁を手がけてくださったデザイナーの中島英樹さんが脳梗塞で急に亡くなったのは、中島さんが編集長をやる新雑誌を作っている最中のことだった。
そこに私の文章を載せたいと依頼されて書いたのが、下記の「死に触れる」という原稿だった。
〆切はもっと後だったけれど、私はすぐに読んでほしくて書き上げてしまった。
中島さんは(今思うともう、そうとう脳梗塞に近い状態だったのかもしれない)、「最近、飲んでいる薬の副作用だと思うんだけれど、たくさんの字が読めないから、朗読しにきて〜」とメールに書いてきた。いいですよ、いつでも行きますよ!と私は書いた。「それって最高に贅沢なことじゃないですか!」と中島さんは返信をくれた。結局朗読には行けなかった。

その後、たまたま話題にのぼった殿村任香さんの写真といっしょにレイアウトするのはどうか、死についての内容だから合うのでは、と私が提案し、中島さんは使用したい写真まで決めてくれた。
そして殿村さんから私へと託された写真集を送ってくださった。その中に入っていた直筆の手紙と、殿村さんのすばらしさについてメールで語り合ったのが、最後のやりとりになった。

中島さんとは、三十年くらいのつきあいだった。
小学生の同級生のような、同じ星から来た(きっと発達障害と言われる人たちしかいない)仲間のようなわかりあいがずっとあった。
私が描きたかったことをすぐに理解し、あっという間に夢のようにデザインに変えてくれた。
業界とかずるさとかもうけ話ととことん合わないところも、気が合った。
中島さんがいるだけで、その輝かしい、ミリの狂いも許さないデザインがあるだけで、生きにくいこの世の中で、自分も同じように特性を活かして生きていける場所があると思った。
今はただおろおろし、嘆くばかりの私である。

中島さんの死により、この原稿が載るはずだった新雑誌もなくなった。
無念でしかたないが、それもしょうがない。最後の最後までデザインや色を妥協なく調整するであろう中島さんが、中島さんの手によらないデザインで本を出すなんてきっとむりだろうなというか、化けて出るんじゃないかと思うから。出てきてくれたら嬉しいけれど!

なので、追悼の意をこめて、中島さんの新雑誌に載るはずだった原稿を公開します。校正前だったので誤字脱字は私の責任です。お許しください。
新雑誌の創刊でおめでたい場面だというのに、なぜ私は直感的に死についての内容を描いたのか。まるで警告のようなこの文章が届いたからといって何もできるわけではなかった。きっと朗読できたとしても命を救うことはできなかっただろう。
でも私の無意識が、精一杯中島さんに警告しようとしたとしか思えない。
そこには確かに愛しかなかった。

中島さん、さようなら、ありがとう。

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