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「幸福とは、人の痛みがわかる事である」

5人に1人くらいの人は何かしらの痛みを抱えて生活していると言われ、高齢化に伴い益々増加傾向と言われている。

ただ、痛みを抱えていても大半の人が「痛みは我慢するべきだ」、「通院するほどではない」、「通院しても治らない気がする」と考え、痛みでどこかに通院していてもマッサージや整体が半分、病院などの医療機関が半分という調査結果が報告されている。

「人の痛みがわかる、優しい人になりなさい」と言われて育てられた僕は、一般的には、まだまだ認知度が低いペインクリニックの専門医として痛み診療をおこなっている。

痛みは、体温や血圧などと違って定量化できない主観的な感覚であり、心理社会的、スピリチュアルな要素にも修飾される複雑で難しいものだが、患者さんの痛みをできる限り理解し治療するペインクリニックの診療を少しでも知って頂けたら幸いで、それをライフワークにすると心に決めた。

➢ 痛みとは?

痛みとは医学的に「不快な感覚および情動体験」と国際疼痛学会では定義している。つまり、痛みは主観的な感覚だけではなく、心理社会的要素も介在するという事を公でも定義してる。

一般的に痛みは、身体の異常を感知する警告(サイン)としての感覚で、血圧、脈拍、体温、呼吸に次ぐ第5のバイタルサインとして、医療現場の観察項目としても重要視されている。しかし、どこも明らかな異常が無かったり、警告としての痛みの意味もないのにずっと続く痛みもありそれを慢性痛、前者を急性痛と呼んでいる。

➢ 日本の痛み診療事情

日本で何かしらの痛みを抱えている人は5人に1人くらいと報告されている。腰痛、肩こり、関節の痛み、頭痛、首痛が多いが、痛みがあっても病院に行くほどでは無いと考えて我慢している人が半分以上で痛みでどこかに通院していても、整体・マッサージ・接骨院が過半数であり、病院(整形外科、内科が6割)が半分弱、僕の専門のペインクリニックには全体の0.8%しか通院してないらしい。。。

痛みを我慢するのが美徳とする我慢強い日本人の民族性も関係するかもしれないが、日本における痛み専門医の少なさ、ペインクリニック治療の認知度の低さも関係しているのだろう。

➢ ペインクリニックとは?

主に麻酔科医が整形外科的、精神科的診察と手術麻酔を行う注射のテクニックを応用した神経ブロックなどをおこなう痛み専門の診療部門である。

米国で John Bonica先生(Bonica先生はプロレスラーとして力道山とも戦った事がある!)が、大戦末期に傷ついた兵士の痛みの治療を始めペインセンターを設立して発展させた。

日本では1962年に若杉文吉先生が東京大学の麻酔学教室にペインクリニック外来を設立し、その後、五反田の関東逓信病院(現NTT東日本 関東病院)に移って痛み診療を広め現在に至る。

かなりマニアックな話だけど、ペインクリニック専門医である僕らにとって全国的にNTTがペインクリニックの総本山と言われる所以である。

➢ 幸福とは、人の痛みがわかる事である。

「人の痛みがわかる、優しい人になりなさい」と親に言われて育てられ、自分の子供にもそう言っている。

そんな僕が痛みの診療をおこなっているのだけど、痛みの評価って本当に難しい。色々な痛みの質問票や最近ではMRI(磁気共鳴画像診断装置)で撮影して画像評価する研究があるけどまだ臨床現場では応用されていない。

患者さんの痛みをできる限り理解し、痛みで苦しんでいる方々のため、日本の痛み診療やペインクリニックの発展のために益々頑張らないと!と改めて思う今日この頃だが、この前、本屋さんで「幸福とは、人の痛みがわかることである」と経済学の父であるアダム・スミスが著書「国富論」で述べていることを恥ずかしながら初めて知った。痛み診療とは直接関係ないかもだけど読んでみようかなと思う。



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