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STATによるヘルスケアに投資するVCトップ10分析(後編:5~10位・総括)

こんにちは。D3 LLC永田です。

前回に引き続き、STATによるヘルスケアに投資するVCのパフォーマンスランキングを見ていきましょう。今回は5位以下についてです。(具体的な分析や数値はSTATレポートを購入下さい:アフィリエイトではないですよ!)

5. The Column Group

The Column Group は、2007年に起ち上げられ、リーマンショックを直撃した、ヘルスケア特化アーリーステージVCです:

The Column Group (TCG) is a science-driven venture capital firm that makes significant financial and operational commitments to build early stage drug discovery companies based on their unique scientific platforms and potential to deliver multiple breakthrough therapeutics.

上位VC同様、サイエンスxビジネスの専門性を有したパートナー陣が少数の投資先にハンズオン支援するスタイルで、company formationから行うこともあります。

Our firm brings together a rich combination of scientific, financial, and operational expertise to build and support a valuable portfolio of companies poised to have a profound impact on human health.

リーマンショックの直撃を受け苦労した1号ファンドですが、同社のじっくりと投資先に向き合う姿勢もあり、リターンは良好でした。2007年から間があき7年後の2014年に2号、2016年に3号ファンドを立ち上げています。2018-2020年だけでも投資先のうち6社がIPOし、2019年には約800億円の4号ファンドの起ち上げに成功しています。標榜通り、骨太にじっくりハンズオン支援をする実力派VCですね。

TCG’s investment strategy takes the long view in company building, recognizing that significant time is often required to generate significant value

6. Alta Partners

1996年創業のヘルスケア特化老舗ファンドです。同社の投資先は累計70製品ものFDA承認薬を世に出しているそうです。2006年の8号ファンド(Altra VIII)から12年の間があき、2018年に約150億円のAltra Partners NextGen Fund I ,翌2019年に 約160億円の同 Fund II を立ち上げています。 

2006年組成の8号ファンドの投資先のKite(CAR-T創薬)は、2017年にGlieadに1,300億円超で買収されました。この一件で、他のVCをアウトパフォームする結果となり、2018年の"Next Gen"の組成に至っています。

投資スタイルは、これまで見てきたトップVC同様、少数の投資先に丁寧にハンズオンをしていくスタイルです:

Focus applies to our discipline and our investment strategy – building small, focused portfolios allows us to keep a high bar, and dedicate more time to each of our investments. Finally, the desire to make a positive impact is why we have spent our careers investing and working in healthcare.

7. DCVC Bio

DCVC(Data Collective Venture Capital)は、テック系の一流VCです。テック系の中でも特に技術評価を重視することで知られています:

For over twenty years, DCVC and its principals have backed brilliant entrepreneurs applying Deep Tech, from the earliest stage and beyond, to transform global scale industries. Together, we have created tens of billions of dollars of value while also making the world a markedly better place.

このDCVCがバイオヘルスケア特化ファンドを起ち上げました。

2018年に、農薬会社Monsantoのバイオ特化CVCであるMonsanto Venturesから二人のManaging Directorを引き抜きバイオ特化のDCVC Bioファンド(約280億円)を用意しました。

DCVC Bio起ち上げ以前より、DCVCは合成生物学系の雄Ginko BioworksZymergenFreenomeなどの有望なスタートアップに投資をしていました。きくに、テックVCの越境投資としてバイオ投資を行ったものの、投資先支援・モニタリングにはやはり専門性が必要という理解に至ったようです。

まさに、ヘルスケアスタートアップ投資のセオリー通り、テックとは別のファンドにすることと、専門性のあるGeneral Partnerを据えています

二人のMonsanto Ventures出身のMDは引き続き、Monsantoとは関わりがあるようで、ヘルスケアというよりはバイオテックアングルであり、医療用のみならずアグリ領域も重視する方針とのことです。

8. Aisling Capital

2000年創業の老舗ヘルスケア特化VCです。基本的には臨床ステージスタートアップへの投資が主ですが、前臨床アーリーステージスタートアップや上場株にも投資します。ヘルスケア特化チームで:

investment professionals with a combined 150+ years of experience in the healthcare industry

とのこと。パートナーが6人なので、平均20年以上のヘルスケア業界経験者でしょうか(雑)。ヘルスケアの専門性を柱に、マルチステージ・上場株投資をする姿勢は、ランキング1位のOribmedに通ずるものを感じます。

9. Longitude Venture Partners 

2006年創業のヘルスケア特化VCです。Aisling Capital同様に、未上場スタートアップに加えて上場株投資も行います。アーリー・レイターバランスよく投資をする戦略を標榜しております。ヘルスケア特化チームで:

Our team has over 150 years of combined investing experience in the life sciences industry

パートナーが9人なので、平均16年以上のヘルスケア投資経験でしょうか(にしても、合計で何年分の経験です!というの流行っているのでしょうかね)

10. Versant Ventures

1999年創業のヘルスケア特化VCの老舗です。この堂々たる自信です。これまで3,500億円超を投資し、36のIPO、42のM&Aを実現:

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上位ヘルスケアVC同様サイエンスxビジネスの専門性のあるパートナー陣によるcompany creationを含むハンズオン投資を行います。特に同社に特徴的なシステムはこちら:

Versant’s Discovery Engines comprise in-house teams of scientists working in state of the art laboratory facilities to independently validate novel academic discoveries as the potential foundation for a new company.

なんと、VCファンドが実験を行う研究者チームを擁しており、アカデミアの研究の事業化可能性を、ファンドの労力・コストで実験・検証していきます。いわゆるサイエンスリスク(アカデミアの研究成果が本当にメディカルプロダクトに耐えうるかのリスク)を、をファンドが負います。日本だと起業家やアカデミアにとることになることが通例です。このVersant Discovery Engine Programは2011年に立ち上がって既に数社、目覚ましいスタートアップを輩出しています。同プログラムから2016年に創業した次世代細胞医療のBlue Rock Therapeuticsは、わずか創業3年後の2019年に独大手製薬Bayerに1,000億円以上で買収されました。Versant以外の投資家は一切入っておらず、Versantは少なく見積もっても3年で500億円以上のキャピタルゲインを獲得していると思われます。

5-10位まとめ

5-10位もヘルスケア特化型VCが続き、結局、ファンドパフォーマンストップ10位は、ヘルスケア特化VCで固められました。

ちなみに、11位にNew Enterprise Associates(NEA)が総合VCとしてランクしています。NEAは米国最古豪VCの一つで1977年創業の超超一流VCです。NEAも、セオリー通り高い専門性を有するヘルスケア特化チームを設けています(ちなみに、テックチームが34人、ヘルスケアチームが29人のようです)。実績・能力トップクラスのファンドですが、数字上のパフォーマンスが存在感ほど振るわないのは、ファンドサイズが大きすぎるということがあるようです。(2017年の3,600億円超の16号ファンドのあと、昨年クローズした17号ファンドはなんと約4,000億円です

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最古関連では、12位にはUK最古級(1973年創業)のヘルスケア特化VCのAbingworth Partnersがランクしています。

脱線ついでに、レポートでの詳述があった17位までをみていると、NEAと13位のCanaan Partners以外はすべてヘルスケア特化VCでした。

まとめに戻ります。

すべてヘルスケア特化型に占められています。その中でも今回見た5-10位内での共通点は:

■  no.5/no.6: 少数の投資先に長い目線で丁寧にハンズオンで丁寧にハンズオン支援。その結果、メガエグジットが発生し、トップランカー入り

■ no.8/no.9: 業界経験豊富なヘルスケア特化チームで、上場株含むマルチステージ・クロスオーバー投資

あたりでしょうか。

【総括】ヘルスケアに投資するVCパフォーマンスランキングからのTake Away

セオリー通りということがよく現れていました。

つまり、ヘルスケア領域へのスタートアップ投資で高いパフォーマンスを出しているVCは:

・バイオヘルスケア特化型が基本

・特に王道は、サイエンスxビジネス双方のエッジをもったパートナー陣がハンズオン支援(会社創業からも行う)

・少数の投資先にじっくり丁寧に向き合う(長い目線でも)

・総合ファンドの場合もヘルスケア専用ファンドに分ける(DCVC bioのケース)

・ファンドを分けずともせめてチームをわける(NEAのケース)

もちろん、これらはすべて「過去」の話であり、今後もこのセオリー通り、とは思えませんが、一つ、事程左様に数字に結果が現れているものですから、セオリーの合理性・蓋然性はあるんだろうなと思います。

過去から学び、日本の環境に応じた、バイオヘルスケア投資の新しいあり方を起業家や投資家の皆様と模索してまいりたいと思います。

また、米国でも正攻法が確立していない、デジタルヘルス投資などは、テックVCと密な連携をして新しい投資・支援スタイルを構築したいと考えています。

投資のご相談その他バイオヘルスケアでのご相談はお気軽にどうぞ:

info@d3growth.com




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