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【日記/38】赤い実ちゃん

私が初めて「それ」を見たのは、記憶によると韓国・ソウルなのだけど、調べてみると台湾のものばかりが出てくる。もしかして、韓国と台湾の記憶が混ざっているのだろうか。韓国も台湾も、訪れたのは10年近く前のことだから、記憶が曖昧だ。

とりあえず、間違っている可能性込みで韓国という前提で話を進めさせてもらうと、「それ」は、私が宿泊していたホテルの裏通りで売られていた。

もったいぶっている「それ」とは何かというと、ビンロウである。ビンロウとはヤシ科の植物で、種子が噛みタバコのような嗜好品として親しまれている。種子を葉でくるみ、少量の石灰と一緒に噛むらしい。すると、口のなかに赤い液体が広がる。これに、軽い覚醒効果のようなものがあるという。しかしこの液体には毒性があり、飲み込んではいけない。なので、ひと昔前は皆この液体を道端にぷっと吐いていたらしいが、現在は景観維持のためか道で赤い液体を吐くと罰金になる。そのため、皆コップにぷっと吐いているらしい。

韓国(台湾かもしれない)ではこのビンロウを、まるで風俗店に勤めているかのような露出度の高い服を着た女の子たちが、路上で売っている。私が初めてその販売店を見たとき、当時はまだ「ビンロウ」というものを知らなかったので、てっきり本物の風俗店かと思った。ファンシーでサイケデリックな店舗、おしりまで見えているヒラヒラのミニスカートの女の子──これはあれだ、ウォン・カーウァイだ、『2046』だ! と私は感動していた(この感覚がはたして理解してもらえるかどうかはわからない)。

それっきり、ビンロウのことはすっかり忘れていたのだけど、最近読んだ本にこのビンロウが立て続けに出てきた。1つはパプアニューギニアの本で、ここではビンロウをブアイと呼ぶらしい。ビンロウは「東南アジアで親しまれている嗜好品」とのことだが、韓国(台湾)からパプアニューギニアまでとなると、めちゃくちゃ広い。もう1つ、インドを舞台に描かれている『シャンタラム』にもパーンという名前でビンロウが出てきていた。東南アジアというか、アジア全域ということか。

しかし残念ながらこのビンロウちゃん、日本では厳しい輸入制限がかけられており、基本的には手に入らないという。

嗜好品がどのように分布しているかということを知るのは、本当に楽しい。

今日の日記のトップの画像になっているのは、ギリシャで有名なウゾーという酒だ。アルコール度数はかなり高い。水で割ると白濁する。しかし、時間が経つともとの透明にもどる(ことを、私がギリシャで自ら確認した)。値段は安く、庶民の酒である。

このウゾー、エチオピアでも醸造されており、ウーゾというらしい(一緒だ)。トルコだとラク、シリアやレバノンだとアラクという名前で、このウゾーはあるらしい。ということはつまり、中東地域で広く親しまれている酒なのだろう。もちろん、このあたりのイスラム教の地域では公には飲酒はNGなので、影でこそこそ飲むのだろうけど。

「世界の嗜好品分布マップ」みたいなのがあったら面白いのになと思う。いつかまた韓国(台湾?)に行く機会があったら、おしりが見えそうな女の子から勇気を出してビンロウを買い、私もコップのなかに、赤い液体をぷっと吐き出してみたい。


(※ビンロウの実自体は赤くありません)

شكرا لك!