ゲーム依存は“ビョーキ”か否か?――議論百出の新疾患「ゲーム障害」技術革新でさらなる“依存”が?

――世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害」を疾患として認定。先頃、そんなニュースがゲームファンの間で物議を醸した。『荒野行動』といった人気スマホゲームにより変貌を遂げたゲームのシステムは、どのような依存を生み出しているのだろうか?

WHOによる“ゲーム障害”が認められたことを報告する厚生労働省のHP。

「ゲームが好きだとゲーム障害。なら水泳に熱中してたら水泳障害って言うわけ?」

 今年6月、そんなツイートがゲーム好きの間で拡散され、議論を巻き起こした。

 きっかけは、6月18日。「ゲーム依存症」という言葉はこれまでも俗称のように広がっていたが、世界保健機関(WHO)が、ゲーム依存症を「ゲーム障害」として国際的に疾患として認め、国際疾病分類「ICD-11」の最終版に明記、公表したのだ。正式な決定は2019年5月のWHO総会で行われることになる。

 このニュースに対して、一部ゲームファンが、「水泳障害」なる言葉を作り出して、批判したわけだ。

『スマホゲーム依存症』(内外出版社)の著書もある久里浜医療センターの樋口進院長は、11年、日本で初めて「ネット依存外来」を開設した、日本におけるネット依存の研究・治療の草分け的存在である。その樋口氏は、前述のようなゲームファンの不満をどう捉えているのだろうか?

「『水泳障害』などと言い出す人は、いわば依存とは何かという意味をはき違えているのでしょうね。依存とは、あることに熱中することで多幸感や興奮する状況があり、それを求めるがために行動がエスカレートして問題が起きることです。いくら水泳やサッカーが好きでも、それが原因で生活が破綻したり、学校に行かなくなるなどという話は聞いたことがないですが、ゲームが原因で学校に行けなくなった中高生は、久里浜医療センターにたくさん訪れています」

 ここで、WHOが示したゲーム障害の定義を見てみよう。その内容は、次のようになっている。

「ゲームの優先順位が高まり、生活上の問題が生じても、その他の興味や日常の活動よりもゲームを優先して継続またはエスカレートさせる程、ゲームに対して自らのコントロールを失っており、個人、家族、社会、学業、仕事などにおける役割に重大な影響を及ぼす状態が、12カ月以上持続するか、上記症状が重症である」

 厚生労働省の研究班の調査では、ネット依存が疑われる中高生は93万人で、その人数は5年間で約40万人も増えているという。ネット依存の中には、SNS依存やYouTubeなどの動画依存も含まれるが、その多くはオンラインゲーム依存であると樋口氏は指摘する。

 言うまでもなく、スマートフォンの普及により国際的にもオンラインゲーム依存は増え続け、WHOとしても疾患と位置づける必要を認識するようになった。その決定に先立って、「ネット依存の診断ガイドラインを『ICD-11』に入れるべきだ」と、WHOの担当官に対して提言したのが樋口氏であり、決定の土台となる研究プロジェクトには久里浜医療センターが大きな役割を果たしたという。樋口氏が説明する。

「もちろん、なんでも依存症として病名をつけてしまう傾向には歯止めをかけなければいけないと我々も思っています。実際、世界でも有名な研究者が、勉強依存とか、占い依存とか、さらにはアルゼンチンタンゴ依存などという概念を作り出して論文を書いている現象があり、それはいかがなものか、という認識は私たちも持っています。しかし、ゲーム依存に関しては、ただ単にゲームを過剰にプレイしているという問題だけでなく、そのために明確な問題が引き起こされているケースが頻発しており、これを疾病化して、治療法を研究しなければならないのは、もはや明らかだと思っています」

オンライン化が依存をもたらした

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