【宮崎大祐】全然ドラマチックじゃない! 異常な暴力がただ続くインドネシア宗教戦争

宮崎大祐(映画監督)

1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、黒沢清作品の助監督に。2011年に『夜が終わる場所』を監督。米軍厚木基地の近くで生きるラッパーの少女を描いた『大和(カリフォルニア)』(18年)が国内外で評価された。最新作『TOURISM』が公開中。

『ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~』は、NHKオンデマンドで見られる。

 今回のオファーをいただいて最初に思い出したのは、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』(1987年)でした。終戦直後のニューギニアで日本軍の下士官2名が隊内で処刑された真相を、元部隊員の奥崎謙三が追うという内容です。奥崎は昭和天皇パチンコ狙撃事件などを起こしたアナキストで、証言を得るために関係者をぶん殴ったりする。初めて見た大学生のときは彼の狂気ばかりが印象に残りましたけど、平成から令和になって改めてこの作品について考えるようになったんです。

 僕は80年生まれで、亡くなった祖父は戦時中、中国の強制収容所におりました。詳しく教えてくれなかったから、実際に何があったのか、そのモヤモヤが自分の中に今も残っていますが、僕より下の世代はそういう体験すらなかったりする。つまり、どんどん戦争の記憶が薄れていく。『ゆきゆきて、神軍』はだから、戦争の記憶を掘り起こすものとしての原点だと思ったんです。尊厳もクソもない戦地の生き地獄を、奥崎は明らかにしていく。あの執拗さは彼の戦争に対する怨念の深さ。そして、その暴力の連鎖が結実する様子までも描いています。

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