【藤本高之】内戦にさらされた子どもたちがスマホで……中東紛争の現実に肉薄する、現代史の悲劇を学ぶ作品

藤本高之(イスラーム映画祭主宰)

1972年生まれ。アップリンク映画配給サポート・ワークショップ受講を経て、10年、北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル」に参加。15年、「イスラーム映画祭」を個人で立ち上げる。共著に『映画で旅するイスラーム』(論創社)がある。

 まずは『戦場でワルツを』(08年)。これは、戦争の当事者に取材した内容を、アニメーションで再現した、つまりドキュメンタリーをアニメで表現した珍しい作品です。扱っているのは、1982年にレバノンの首都ベイルートのパレスチナ難民キャンプで起こった「サブラ・シャティーラの虐殺」という事件です。

 レバノンはキリスト教徒とイスラム教徒がほぼ半数ずつ暮らしている中東では珍しい国。宗派もさまざまに分かれ“宗教のモザイク国家”と呼ばれています。そういう宗派のバランスが政治にも複雑に影響しているのですが、48年のイスラエル建国と第一次中東戦争によりパレスチナ難民がレバノンに流入したことや、そののちにPLO(パレスチナ解放機構)がレバノンに拠点を置いたことなどで情勢がさらに複雑化。そういった背景の中、82年にイスラエルがレバノンに侵攻し、イスラエル軍がベイルートを包囲する中で、親イスラエルのキリスト教右派民兵組織がパレスチナ難民を虐殺した事件が、「サブラ・シャティーラの虐殺」です。

 この映画は、ベイルートを包囲していた(つまり虐殺に加担したと言える)元兵士たちに、当時の記憶をたずねたインタビューの様子をアニメで再現。その回想の内容もアニメ化しています。

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