世界の女の子が憧れる美女像の系譜――「王子様のキス」はもはや不要に? ディズニー・プリンセスの歴史的自立

――現在、『メリー・ポピンズ リターンズ』が公開され、さらには、『アラジン』の実写化、『アナと雪の女王2』といった大作も控えているディズニー映画。かつてディズニーといえば、世界中の女の子の羨望を集めるプリンセスが登場していた。だが、その人物像は、長い年月を経て変貌しつつあるという――。

ディズニー最新作は『メリー・ポピンズ』の続編だが……。

 眠りについた彼女の目を覚ますのは、王子様の「真実の愛のキス(True Love's Kiss)」。

「結婚した2人は、いつまでも幸せに暮らしました……(They lived happily ever after)」。

 これは幾度も繰り返されてきた、ディズニー・プリンセスの物語のいわば基本パターンだ。その物語のヒロインであるディズニー・プリンセスは、いつの時代も女の子の憧れであることに疑いはない。福島大学教授の照沼かほる氏は、長女を連れてアメリカに滞在していた時、ディズニー・プリンセス神話のパワーに気づかされた。

「ハロウィーンになると子どもたちは皆仮装するのですが、女の子に圧倒的に多いのは、華やかなディズニー・プリンセスのドレス。ここまで支持される一連のシンデレラ・ストーリーとはなんなのかと、ディズニー・プリンセスに関心を抱くようになりました」

 素敵な王子様とめぐり会い、幸せな結婚をするプリンセスの物語は、いかにも女性の願望を体現した世界に見える。しかしかつてのディズニー・プリンセスの世界は、実は男性の願望だと言い切るのは、東京経済大学教授で『ディズニー・プリンセスのゆくえ―白雪姫からマレフィセントまで』(ナカニシヤ出版)の著書のある、本橋哲也氏だ。

「ディズニー・プリンセスの神話に見られるのは、女性はこうあるべきだという、ある意味非常に男性主義的な社会の欲望であると私は考えています。ディズニー映画の元となった童話原作には、実は残酷だったり非常に性的な話も出てくるのですが、ディズニーではそういった要素はカットして、受容しやすいものをつくっている。と同時に、いわばジェンダー的な差別、つまり、男性と女性との社会的な役割分担が徹底しています。女性は子を育てるとか男性の性的欲望に従うという役割を果たさなければならないと同時に、家の名誉や財産は全部父親から長男に受け継がれるべきであるという家父長制度の考えが、非常に色濃く反映されていると私は考えます」

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