『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない――私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』ー田中信一郎著ーを読んで

はじめに

なんで政府は景気がいいと発表しているのに庶民は実感できないの?
少子高齢化どうする?日本の財政ヤバいんでしょ?年金どうなるの?
なんか日本の社会って生きづらいよね?なんでだろう?

政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない――私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(田中信一郎著)はこのような不安や疑問にその原因と解決策を与えるものである。上記のような疑問や不安をお持ちの方は是非この本を読んで欲しい。

現代の日本は少子高齢化、財政危機、年金問題、気候変動(気候危機)、政権の不祥事等、真面目に社会を見つめれば不安が大きい社会だと思います。また政府は好景気というのになんで庶民はそれを実感できないのか、疑問に思っている人も多いと思います。本書はこれら日本の抱える諸問題の原因を戦後の自民党政権が中心として作り上げた政治と経済のシステムから説き起こします。そして解決に必要条件としての政権交代、十分条件としての個人の行動の変革を訴えるものです。この本を読むことで不安を抱えて生きてる方は不安が希望に変わるのを感じるのではないでしょうか。また現代日本で生きていてなんとなく、漠然と生きづらさを感じている人もいると思います。この本を読んで、生きづらさには原因があり、それはなんとなくでも漠然でもないのだと読書後に感じています。

もくじ

①本書の概略と必要条件としての政権交代
②十分条件としての個人の行動
③上西充子先生の紹介
③憲法の重要性
④レインボーにハッピーな暮らし
⑤生きづらさについて
⑧再度、これは理想論なのか?実現可能なのか?
⑥投票率の低下・政治離れに関するぼくの考察
⑦すでに社会の変革は始まっている!

①本書の概略と必要条件としての政権交代

本書では戦後から高度成長期、バブル崩壊後平成の間の日本の行政システムを部分最適組織と位置づけています。またそのようにして作られた政治・経済システムを垂直統合型と呼んでいます。部分最適組織は高度成長期のように非常に成功した組織のあり方でした。このようなシステムは人口増が見込まれ、原子力発電所や大規模公共事業が必要とされた時代に適したシステムだったとしています。そして部分最適組織と垂直統合型社会は戦後長い間政権にあった自民党政権によって作られ維持されてきたとしています。中間組織を選挙に動員して勝ち続けてきたことはその一例です。

ところが高度成長期には公害問題がありました。またオイルショックによる不況が起りました。それ以降もバブル崩壊ごの不況もありました。このような不況期や公害問題含めた社会問題にはこのシステムは向かないものでした。そこで筆者は人口減少社会、気候変動社会を迎えるにあたって必要な社会システムを、水平分散型としています。これまでの垂直統合型社会が自民党政権と一体不可分であるので、その変革には政権交代が必要であると訴えています。

ぼくの説明ではなんのことか分からない人も多いでしょうが、実際にはこれらのことが詳細なデータ、田中先生の政治学者としての深い見識を駆使して論理的に展開されるので丹念に読めば納得できるように説明されています。また水平分散型システムを取り入れ成功したビジネスや行政の具体例が示されているのでこれらが理想論で終わるものではないと納得がいくはずです。ぼくは個人的に富山市のSDGs未来都市計画に興味を覚えました。

富山市のSDGs未来都市計画について

②十分条件としての個人の行動

人口減少や気候変動を克服するためには、必要条件として政権交代が必要であることが示されました。ところがそれだけでは充分ではないと筆者は主張します。そこで十分条件として個人が積極的に行動することが必要であると筆者は主張します。その行動の具体例が4章末に書かれています。4章末を読んで、少し敷居が高いな?と感じる方もいるでしょう。ご安心下さい。それはあとがきを読むと個人の行動とはどういう意味なのかがわかると思います。引用します。

「そんな生きづらい社会をより良く変えられるのは、誰でしょうか。それはあなたです。誰もが社会をより良くできる力を持っているのです。
 その力とは、選挙や意見表明を通じて変える政治の力だけでなく、経済活動や職場を通じて変える経済の力、自らの権利擁護を通じて変える司法の力、そして自ら学び、考え、意見を他者に伝える知恵とネットワークの力です。学び、考え、伝えることは、社会を良くする第一歩なのです。その力を行使することに、戸惑う必要はありません。」
「加えて、一人ひとりが、自ら考え、行動を起こすことが重要になります。(中略)地域、企業、職場、団体、学校、家族、サークルと、部分最適組織は無数にあり、それらの意思決定の変革が必要なのです。」(ここは第4章からの引用)。

③上西充子先生の紹介

ここで唐突ですが上西充子先生のことに言及したいと思います。なぜならば個人の行動を通して社会の変革に取り組んでいる代表的人物であるし、また上西先生の発信する情報は社会をより良くする力を発揮するためにとても有用と思うからです。

例えばこの記事「文字起こし:「桜を見る会」質疑を支えたもの 山本豊彦(しんぶん赤旗日曜版編集長)・上西充子(国会パブリックビューイング代表) 国会パブリックビューイング 2020年1月6日

これは共産党の田村智子さんが2019年11月8日に桜を見る会を国会で追究したときの舞台裏について、主要メディアが取り上げた過程を解説したものです。これを読むと、最初は主要メディアがあまり取り上げなかったのにツイッターで騒ぎが広がり、それをもって主要メディアが取り上げるようになった過程が書いてあります。ぼく自身もその質疑はリアルタイムで見ていなかったものの、ツイッターを通じて知って大騒ぎした一人です。こういうやり方でも社会の変革につながると多いに勇気づけられました。

また上西先生の著書『呪いの言葉の解きかた』もまた個人が社会をより良く変えていく強力なツールになるとぼくは考えています。というのはこの著作でいうところの「呪いの言葉」というのは田中先生の著作の中で述べられている「垂直統合型」社会を作り上げていく上で大変強力に機能する言葉であり、あまりに当たり前のなっていることで、多くの人が気づけなかった、そして現代日本の生きづらさを生む原因にもなっているとぼくは捉えているからです。

実は上西先生と田中先生は対談を行っており本書の内容と重なる部分もあるのでご紹介します。動画を見てから本書を読むと理解が進むと思いますよ。

STORY - 上西充子×田中信一郎 クロストーク
https://www.youtube.com/watch?v=64uganVJtcs
https://www.youtube.com/watch?v=l0PowBPWvJw
https://www.youtube.com/watch?v=itbGPVzQLdE
https://www.youtube.com/watch?v=-Fz9dDkMvS8

また上西先生は最近『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』を出版されるとのこと(これを書いている最中に知りました)。この国会パブリックビューイングは上西先生が始められて、これもまた個人が行動を起こすことで社会をより良くしようとする運動の代表例ではないでしょうか。

③憲法の重要性

ぼくはこの本を読み進めていくうちに、田中先生の主張は日本国憲法が十全にその機能を果たしていれば自然と田中先生のいうような社会が実現するのでは?と感じ始めました。すると最終章に「これは、日本国憲法の考え方と重なります」「つまり、時代が求めているのは、憲法を具現化する経済政策なのです」と書いてあるのを読み、我が意を得たりと感じました。

④レインボーにハッピーな暮らし

さてぼくが本書を勧める一番の理由をつぎに説明します。
日本の財政問題、政治の問題を解説した書籍はこれまでにもあり、ぼくも読んできました。その結果、あまりの惨状に直面し、絶望してしまっていました。不安は大きく、そして世の中を見るとこの漠然とした不安はぼくだけではないのではと思います。本書でも日本の人口減少から入るので正直最初は暗くなります。ところが、その原因はなんなのか。そしてその対処法とは。と話が進んでいくので途中で難しいゲームを攻略していくような快感があります。それぞれに理由、根拠、データがあり誰もが納得するようになっています。だからこの困難は乗り越えることが可能だと確信が持てます。もちろんそのためにはこの本に書かれている課題を一つ一つクリアしていく必要があります。そしてその結果、生まれるだろう社会はぼくが理想とするものでした。ここでぼくが思わず笑顔になってしまった一文を紹介します。

「レインボーにハッピーな暮らしをした都市が成長したのです」(p85)

ここ、本当に最高!これこそがぼくが望んでいた社会です。読み終わった後も、この本が描くようなシステムで成り立つ社会こそがぼくが子供の頃から求めてやまない社会であるとはっきりとわかりました。そしてそういう社会をどのようにして具現化していくかのマニュアルがこの本といえるではないでしょうか。

⑤生きづらさについて

ぼくは現代日本で生きづらさを感じている一人です。その生きづらさはぼくが普通の人と違った家庭に生まれたから、ぼくが普通の人と感性が違うからとぼくは思っていました。この本を読んでいて、それがどうやらこの日本の社会のあり方にもあるのではと思いました。というのも本書を読めば分かる通り、高度成長期の社会体制のあり方は個人を犠牲にし、全体への奉仕を個人に要求するからです。そしてそれは自民党政権が作り上げてきた社会のシステムだったといっていいのではないでしょうか。それが機能しなくなったことは本書に書いてあります。また解決の仕方も書いてあります。そのことについては上で述べています。

⑧再度、これは理想論なのか?実現可能なのか?

ぼくは田中先生の主張する現代日本における諸問題にたいする処方箋は、ただの理想論ではないのか、実現可能なものであるのか?自問自答しながら読み進めました。上にも述べましたが、データ、高い論理性、田中先生の実際の行政での体験が根拠になっているので、ただの理想論ではなく実現可能なものであると確信しています。それは丹念に読めば誰でもその結論に至るだろうと思います。しかしながら、それでもなおただの理想論だと感じる人もいるでしょう。だからここでぼくはこう主張します。田中先生の主張する社会の未来像は理想論なんてものではなく、当たり前の社会像なのではないでしょうか?今がその当たり前の社会像からかけ離れ過ぎているのです。ですから理想に見えてしまう。いいえ違います。この本に示されている未来像こそが当たり前の社会なのです。

⑥投票率の低下・政治離れに関するぼくの考察

第3章5節の「中間団体を前提とする選挙制度」を読んで考えたことを記しておきます。
1990年代初頭から投票率が激減したことはよく知られています。政治離れもよく聞く話です。その原因もたくさんの方が分析しています。一例として三春充希(はる) ⭐みらい選挙プロジェクトさんの記事をあげておきます。

投票率の崩壊」はどこで起きていたか

「中間団体を前提とする選挙制度」を読んで感じたのはこの中間団体離れこそ投票率の崩壊であり、また政治離れの背後にあるものでは、というものでした。それは非正規雇用者の増加と連動してるのではないかと思いました。非正規雇用者はここでいう中間団体とつながることが極めて難しい状況下にあります。今でこそ非正規雇用者のための労働組合もあるようですが、1990年代はバブル崩壊後、非正規雇用者が急増した頃で、彼らのためには社会システムできてなかったのです。彼らの境遇は一時的な偶発的なものにすぎない、というがこの社会の合意であったように思います。本人達もそのように捉えていたかと思います(ぼくは当事者です)。

⑦すでに社会の変革は始まっている!

さて、本書で具体例が述べられている、また上記に上西先生の例を示した通り、個人の行動による社会の変革はすで始まっています。当初本書の感想はツイッター上で行なう予定が思いのほか長くなってしまい、Noteにまとめることになったのも本書の影響です。みなさんもいち早く本書を読みより良い社会への変革に参加しませんか?

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