見出し画像

電通クリエイターはCXで何ができる?経験と、枠を超えるカルチャーが生み出す、3つの価値。

「CX Creative Studio」はCX領域における電通グループのクリエイター集団です。
CX Creative Studio note編集部では、世の中の関心が高まっているCX(カスタマー・エクスペリエンス/顧客体験)に関する最新の知見と事例を、第一線で活躍するクリエイター一人ひとりの生の声でお届けしていきます。

第1回のnoteでは、CX Creative Studio設立の背景や思い、これからの展望をCX Creative Studioのリーダーを務める並河と田中がお伝えしました。今回のnoteでは、マス広告を手がけてきた電通のクリエイターだからこそCXで発揮できることについて、並河の話を中心にお届けします。

クリエイティブ・ディレクションの経験はCXで活きる

田中:今回は並河さんに私が話を伺っていきます。マス広告を中心に長年企業のブランド戦略に携わってきた電通のクリエイターだからこそ、CXで発揮できることは何でしょうか。

並河:3つあります。1つ目は、ブランドストーリーを生み出す「クリエイティブ・ディレクション」です。
CXはマス広告で培ってきた従来のクリエイティブ・ディレクションの拡張とも捉えられるんですね。

電通のクリエイターが、TVCMなどのマス広告に強いというのは、みなさんご想像がつくと思いますが、CXでその強みを活かすことができるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。

しかし実際のところ、すでに、電通のクリエイティブ・ディレクターが、ECやSNS、オウンドメディアや店頭、製品・サービスなど多岐にわたるタッチポイント(顧客との接点)でのクリエイティブ・ディレクションを任されているケースも多いのです。

CX戦略に不可欠なのは、すべてのタッチポイントで顧客が首尾一貫したメッセージやブランドストーリーを体験できるようにすることです。マス広告などを通じて企業ブランドのあるべき姿を考えて作り上げる経験が豊富な電通のクリエイターは、そのようなCXの全体像をイメージして設計することに長けています。

エンゲージメント・クリエイティブで企業と顧客との間に絆を作る

田中:並河さんはエンゲージメントについてもよくお話しされていますけど、その点について深掘りしていきたいです。

並河:そうですね、電通のクリエイターがCXで発揮できること、その2つ目が「エンゲージメント」です。

エンゲージメントは、企業と顧客との間の絆(つながり)を指します。

電通のクリエイターは、マス広告だけを手がけてきたわけではありません。イベントの企画・運営や革新的なデジタル体験の創出、コンテンツの制作など、さまざまなクリエイティブ領域を経験してきました。

このような経験によって、電通のクリエイターはファンを生み出したり、人を惹きつけたりするために必要なクリエイティブを生み出す力を身につけてきました。

これを、僕は「エンゲージメント・クリエイティブ」と呼んでいますが、この力をさらに磨いていくことで、CXに大きな価値を提供することができると考えています。

いま、広告における新規顧客の獲得よりも、ファンとの継続的なつながりによってLTV(Life Time Value/顧客生涯価値)を向上させていくことを重視する企業も増えてきています。
その企業が提供する体験そのものが、顧客から愛されて、企業と顧客を結びつける大きな力になる。

電通のクリエイターのエンゲージメント・クリエイティブは、企業が顧客との間に絆を作りロイヤルティを高める点において、CX Creative Studioの大きな力のひとつです。

田中:第1回のnoteでのお話にもありましたが、マス広告の強みはあり続けるものの、それ以外の分野で、電通のクリエイターが活躍するフィールドがCX Creative Studioにあるというわけですね。

並河:もちろんです。マス広告を中心に見てしまうと、その他のことを+α、おまけのように捉えがちです。上述したような、イベントやデジタル体験、コンテンツなどですね。
ところがCXの視点で全体を俯瞰すると、その+αのタッチポイントだからこそ、強いファンを生み出せるケースはよくあります。

一方、伝統的なマーケティングに沿ったマス広告を入り口にする考え方も、依然として有効です。ただしそれがすべてではなく、マス広告ではないタッチポイントを起点にして、顧客とのエンゲージメントを高める視点もCXでは大切です。

「デュアルファネル(パーチェスファネルとリバースファネルを融合したファネル)」全体を捉えて、顧客との新しい関係性やマーケティングの新たな突破口を見つけ出すことは、多様なバックグラウンドを持つCX Creative Studioの電通クリエイターにこそできることだと考えています。

田中:イベントをきっかけに新しいヒーローやストーリーが生まれる。ソーシャルメディアのみで展開する予定だったキャラクターがTVCMの主役になる。Twitterでの会話をきっかけに製品・サービスが開発される。これはデジタル以前の世界では起こらなかったことです。

並河:そのような現象は偶発的に生じることもありますが、計画的に作り出すこともできます。電通クリエイターの知見を活かして、これを実現していくのもCX Creative Studioが担うべき役割だと思います。

枠にとらわれない思考でテクノロジーをハックする

田中:テクノロジー抜きではCXは語れません。

並河:はい。電通のクリエイターがCXで発揮できること、その3つ目が「クリエイティブ×テクノロジー」です。優れたCXの実現には、この視点が不可欠です。

2015年設立のDentsu Lab Tokyoが、この分野の企画・研究・開発に取り組んでいる先駆者です。CX Creative Studioにもそのメンバーが参加しています。社外のアーティストやテクノロジストとのコラボレーションも頻繁に行っており、AR・VR・AIなどの先端テクノロジーの活用に知見があります。

第1回のnoteで“Human CX(人間らしさに満ちたCX)”のコンセプトを紹介しました。テクノロジーはすごい速さで進化していて、それを次々と体験することは刺激的なので、技術だけを追いかけてしまいがちです。しかしHuman CXを実現するのは、人間らしさとテクノロジーの融合です。

テクノロジーはただのツールであり、手段にすぎません。人間がテクノロジーをハックする(使いこなす)ことではじめて、その価値を引き出せます。

ところが、あるテクノロジーの使用を前提にことを進めると、テクノロジーによって人間の行動が既定されてしまうことがよく起こります。

私はこれを「塗り絵」と呼んでいます。テクノロジーが人間の振る舞いを、決められた線の中に色を塗るだけの行為に制限するからです。こうなると、人間らしさがテクノロジーによってないがしろにされてしまいます。

田中:「塗り絵」はわかりやすい例えです。本来必要なのは、そんな「塗り絵」の線が見えなくなるほど多彩な発想で色を重ね、触れる人を圧倒するようなクリエイティビティではないでしょうか。

並河:はい。TVCMは15秒や30秒という時間の制約がある点で、塗り絵のような厳しい縛りがありますよね。それにも関わらず、電通クリエイターは、メディアの枠にとどまらない、普遍的な価値を持つクリエイティブ表現を生み出してきました。

そのような経験の積み重ねによって生まれた、枠にとらわれないクリエイティブのカルチャーが、テクノロジーという「塗り絵」に縛られることなく、それらをハックする力になっていると感じています。


*  *  *

今回のnoteでは、電通のクリエイターだからこそCXで発揮できる価値について、3つの観点からお伝えしました。

次回のnoteはCXを語る上で重要となる「モチベーション」と「フリクションレス」について、引き続きCX Creative Studioリーダー並河と田中がお話しします。

プロフィール

電通:並河 進(なみかわ・すすむ)

CXクリエーティブ・センター
電通エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター。
人と社会と企業をつなぐソーシャルデザインやデジタルクリエイティブを数多く手がける。
2021年、カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター発足とともに、センター長に。
著書に、『Social Design』(木楽舎)、『Communication Shift』(羽鳥書店)他多数。
東京ビエンナーレ エクスペリエンス・クリエーティブ ・ディレクター。TCC会員。

※所属・役職は取材当時のものです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!