全て滅んでしまっても、彼女だけは生きている気がしたんです。

神画でした。本当に神様の画でした。
まっさらな空間を森や海や空気にしてくれたのは彼女でした。
私はもうそこから出たくなくて
何度も何度も帰ろうと思いながら
何周も何周も歩きました。

多分彼女は娼婦であり少女でもあり、
そして母でもあり赤子でも、雲でも、海でもあり、
この世の全ての「生命」(もの)でした。

なんて美しく自然に溶け込むんだろうと。
そしてその美しいものの中で
こんなにも圧倒的に光を纏っているのは
彼女が神様だから。
彼女の、私の、神様で、彼女は私でもありました。

私は自然自体が神だと思っていて、
だから自然という言葉は苦手で、
命の集まりのような、私たち人間が触れてはいけない
立ち入ってはいけないようなそんな場所だと知っていました。
その中で彼女は全てと共に生きていました。
ただのするりとした皮膚を被って
まるで光を押さえ込むかのように
だけどその肌さえ黄金になっていきました。

瞳と頬の間を伝う涙は
私の目には見えないくらいに透明で
心でははっきりと感じるくらい、確かなものでした。
愛の人だから。
また生まれたんです。
私たちの悲しみを共に抱え込んで亡くなった体が
また生まれたのは愛の人だから。

炎の前で揺れる彼女は
実は全てを見据えたようにじっと立っているかもしれないし、悲しみや苦しみや喜びを感じ踊っているかもしれない。私には分からなかった。
わたしが、わたしが発する言葉で
また悲しみを生んでしてしまうんじゃないかと。
だからすごく怖くて、写真集をもらった時に書いた文章はそっと今でもしまっている。
でも、それでも私の感じたことを書かなければ
本当にそれこそ申し訳ないと思った。
こんなにも魅せてくれたのだから、
私も私の魂で返すしかなかった。

苦しくて胃が痛くなったりした。
だってあれは私だから。
みんなだから。
私も魂が宿ったただの皮膚。
もう少し、もう少し生きたらまた生まれる気がして
でももう既に神様だったりするんです。
だって多分私、もう一生生きているしかないから。
死んでもきっと一生生き続けるから。

顔についた白い砂はとてもキラキラしていて
光の粒だったから、
私はそっと彼女の頬に手を当てました。
濡れた手のひらが心と共に溶けていく
そんな気がして少し息がしやすくなったのです。

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