成長

 大人になったと感じるときはどんなときだろう。

 お酒が飲めるようになったとき。選挙へ行ったとき。子どもの頃には手が出せなかった、値段の高いものを買ったとき。色々あるだろうが、私は、恥ずかしくなくなったときに、大人になったなと感じる。

 十年くらい前だろうか。とある百貨店のポイントカードを作ろうと、窓口を訪れた。その際、「住所はどちらですか?」と尋ねられた。このような場合、身分証明書を出すのが普通だと思うが、私はその聞かれ方から、口頭で答えた。もちろん不思議に思ったさ。でも、「ご住所がわかるものをご用意ください」や「身分証明書をご提示ください」ではないのだもの。「東京都」の後の市区町村を言う前に訂正された。

 思春期の自分だったら、赤面してたこと間違いない。だがこのときの私は、「やっぱりそういうことか」と至って冷静だった。この余裕に、私は自分の中の大人を感じたのである。

 さて、なぜこんな話をしているかと言うと、さらなる成長を感じることがあったからだ。

 先日、とあるお店のトイレを借りた(トイレの話ばかりで恐縮だが、起きてしまったことなのだから仕方がない)。

 いつものように個室へ入り、用を足していた。すると、ドアが開いたのである。ドアが壊れていたわけでもなく、ぶち破られたわけでもなく、ただ鍵がちゃんとかかっていなかったのだった。

 裸ではないにせよ、人に見せる格好ではない。恥ずかしいと思っても良い場面だと思うが、まず申し訳なく思った。もちろん驚きはしたが、あちらさんの驚きに比べたら屁みたいなもの。なにか見せてしまったわけではないけど、不快感を抱かせてしまっても不思議ではないし。

 とりあえず「失礼しました」と詫びる。その後、そのおじさんが隣の個室に入った音が聞こえたので、もう一度、「失礼しました」と声をかけた。

 さすがに、どんな顔をすればいいかわからなかったので、おじさんが出る前にさっさと手を洗ってトイレを後にした。

 書いていて思ったが、これは図太くなったということなのかもしれない。これを「大人になったな」と言い換えられるというのが、また図太さを表している気がしなくもない。

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