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新潟県の民謡~佐渡おけさ

「おけさといえば佐渡、佐渡といえばおけさ」というフレーズをよく聞きますが、それほどよく知られた「佐渡おけさ」は新潟県というより日本を代表する民謡の一つと言えると思います。「おけさ笠」ともいわれる編み笠を被り、優雅な振りで踊られます。新潟県内にいくつかある「おけさ」で、佐渡島内では小木(現佐渡市小木)に《小木おけさ》がありますが、いわゆる《佐渡おけさ》は相川が本場で、かつては《相川おけさ》と呼ばれたそうです。そうでなければ、相川のものだけが《佐渡おけさ》と呼ばれれば、小木からすれば「おや?」ということになってしまいます。もっとも有名になったのは相川町(現佐渡市相川)の、いわゆる《相川おけさ》でした。


■曲の背景

佐渡おけさのもとは選鉱場節
相川といえば、佐渡金山として知られる「相川金銀山」の町です。16世紀末から20世紀末まで日本最大の産出量を誇り、明治期までは国が管理、国の財政を支えてきたのだそうです。
相川では、この「おけさ」を酒席で歌ったり、「鉱山祭り」で歌い踊ったりされてきました。
「鉱山祭り」とは相川金銀山の総鎮守・大山祇神社の祭礼がもとであったそうですが、明治20年(1887年)に、途絶えていたまつりを復活、諸行事や芸能を位置づけ、佐渡を代表する華やかな祭りに仕立てられました。
この祭りでは相川の鉱夫たちが花蘭笠を被って踊りましたが、これが「選鉱場節」とか「選鉱踊り」と呼ばれたものでした。
大正13年(1924年)、相川では「立浪会」が結成され、《相川音頭》の保存、普及するなかで、《選鉱踊り》の普及も行いました。特に、踊りについては小木の花街で踊られていた「十六足踊り」を習ったといいます。また、小木では越後の「おけさ」の流行にあやかり《小木おけさ》と呼ぶようになり、相川でも取り込まれ、選鉱場では《選鉱場おけさ》とか《相川おけさ》とされたようです。

一方、相川の立浪会は大正15年(1926年)にNHK(当時は東京放送局)からラジオ放送にのせ、また同年にはレコード吹込みを行いました。この時に「相川」の地名よりも「佐渡」にすればという提案があり、《相川音頭》はそのまま、「おけさ」については《佐渡おけさ》としたのだそうです。
レコーディングには、美声で知られた村田文三(本名・文蔵)が知られています(明治5年(1872年)~昭和31年(1956年))。立浪会の看板歌手として、こうした唄の普及に貢献、数多くの録音を残しました。

おけさの源流はハイヤ節
越後に数多い「おけさ」という唄は、

 〽︎おけさ正直なら そばにも寝しょうが
  おけさ猫の性で じゃれかかる

といった歌詞で知られるように、「おけさ」という遊女を歌ったという説や、猫が化けて「おけい」と名乗って主人を助けた等の伝説があり、この遊女が歌う「おけいさん節」が「おけさ」になったといいます。もとのメロディは越後の甚句であったようで、越後各地で歌われていたようです。
やがて、九州の「ハイヤ節」(熊本県天草市牛深が源流といわれている)が、日本海沿岸の港町を中心に伝播しますが、この「ハイヤ節」に、越後の古くの「おけさ」の歌詞を当てはめて歌われるようになって、これが「おけさ節」になったといわれています。
佐渡には《山田のハンヤ》(佐渡市赤泊)のように、九州の「ハイヤ節」や「ハンヤ節」は歌われています。しかし、現行の「佐渡おけさ」や「小木おけさ」には「ハンヤ節」や「おけさ」の特徴である第3句目の後の「ヤーレ」とか「サーマ」「ソーレ」といったリフレインがなく、竹内によれば、現在の節回しは甚句で、越後側で流行しはじめた「おけさ」にあやかって《小木おけさ》《相川おけさ》にしたものとされています[竹内2018:399-402]。

テンポを速めてクライマックスをつくる
《佐渡おけさ》はさまざまな歌い手によって歌われてきました。都節音階による哀調のある旋律が、歴史ロマンただよう歴史ある佐渡、そして離島であるイメージとも相まって、しっとりと歌われることが多いようです。
一方で、現行の《佐渡おけさ》の原型ともいうべき「鉱山祭り」での街流しに見られるように、もとの「選鉱場節」のイメージはテンポも速く、跳ねるようにして流して行く雰囲気がありました。また、「おけさ」といっても人により、地区により、時代によって差異が出てくるものですが、現行では、次のような歌い方で演唱されることが多いです。

(1) おけさ
(2) ぞめき
(3) 選鉱場おけさ

おけさはいわゆる「佐渡おけさ」単独で歌われているもので、村田文三らの努力により整えられたものです。三味線パートの前奏にのって、途中から篠笛が対旋律的に入ってきます。また、太鼓も歌が出てから入る場合や、笛が三味線の前奏を演奏しているところから入る場合等があります。
ぞめきとは「騒き」(ぞめき)のことで、浮かれ騒ぐことをいいます。有名な徳島県の《阿波踊り》では、その賑やかな踊りのことを「ぞめき」と呼んでいます。《佐渡おけさ》の場合、現行では、上の句第一句目の3文字を歌って伸ばすスタイルを指しています。

 〽︎泣いてー
  泣いてくれるな 都が恋しヨ
  泣くな八幡の ほととぎす

最初の「おけさ」の冒頭の「ハァー」にあたる部分をこの3文字で当てはめているようです。
ただし、村田文三の古い演唱を聴くと、「ハァー」で歌い出す「ぞめき」の録音もありますので、歌い方というより賑やかに踊るような雰囲気ということでしょうか。
選鉱場おけさについては、もともと鉱山祭りや盆踊りなどで歌われていたもので、《相川おけさ》とか《選鉱場おけさ》と呼ばれていました。音階も民謡音階による明るい雰囲気の節回しになっています。詞の句切れ目に「ナァー」「ナァーヨ」といったリフレインが入ります。第3句目後にはやはり「サーマ」「ヤーレ」等は入りません。

■音楽的な要素

曲の分類
踊り唄/酒盛り唄

演奏スタイル

唄バヤシ
太鼓
小太鼓/大太鼓

拍子
2拍子

音組織/音域
おけさ・ぞめき
都節音階/1オクターブ

おけさ・ぞめきの音域:1オクターブ

   ※部分的に半音上げ、律音階のように歌われることもある。
選鉱場おけさ
律音階/1オクターブ

選鉱場おけさの音域:1オクターブ

曲の構造/特徴
おけさ
①「ハァー」で歌い出し、第1句目の3文字まで歌ってハヤシ詞が入り、その後は第2句目まで歌い上の句とします。ハヤシ詞を挟んで、下の句第3句、4句を歌い切り、ハヤシ詞で歌い切ります。前述のとおり、ハイヤ節・ハンヤ節の特徴である第3句目後の「サーマ」「ヤーレ」等のリフレインはありません。
②個人差、地域差等による旋律のバリアンテがありますが、特に前半を都節音階で歌い、後半を半音の部分を上げて、律音階のように昔ながらの雰囲気で歌う場合があります。
ぞめき
おけさよりも速度を速めて歌われます。
②出だしは「ハァー」ではなく、第1句目の3文字を歌って伸ばし、続けて第1句目を改めて歌い出します。それ以外は、《おけさ》の構造と同じです。音組織もほぼ同一です。
選鉱場おけさ
おけさぞめきよりもさらに速度を速めます。
②それまで都節音階のしっとりとした雰囲気でしたが、がらっと変わって律音階による明るい雰囲気になります。
③笛パートは別の旋律になります。

全体をとおして見ると、おけさから選鉱場おけさまでの三味線パートは、前奏以外は連続したオスティナートによる手となっています。
笛パートはおけさとぞめきは同じで、選鉱場おけさから変化します。音組織については、本来は都節音階で歌われるおけさとぞめきに対し、半音のない律音階によって奏される傾向にあります。楽器の構造によるものかと思われますが、歌の音組織と笛の音組織とが複雑に聞こえ、《佐渡おけさ》特有の哀調ある中に、古式をたたえた雰囲気の味わいが感じさせるものと思います。

■評価例

[知識・技能]
①2拍子、付点音符も3連符に近いゆるやかな弾み方のリズムを聴き取り、踊りの歌の雰囲気につながっていることに気付いている。
[思考・判断・表現]
①歌と笛、太鼓による伴奏パートに分かれて歌われている構成を聴き取り、賑やかな味わいを感じ取りながら、曲全体を味わって聴いている。
② おけさ、ぞめき、選鉱場おけさと3部分に分かれ、旋律、速度の変化を聴き取り、踊りが盛り上がっていくような雰囲気を味わって聴いている。
[主体的に学習に取り組む態度]
①3つの部分に変化する地元の歌い方の形式に興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に学習に取り組もうとしている。


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