見出し画像

【短編小説】加護の鳥


 羽があったからってね、自由に飛べる訳じゃないのよ。


 人間は遺伝子操作を合法化した。
病気は減り、生涯健康寿命が増え、唯一残ったのは遺伝子のガンだけだ。
人は多様化を受け入れ、受け入れられるがままに他種族の特徴を取り入れていった。
最初は人に近いものから。
そして、人から遠い魚類まで。

 人から離れれば離れるほど、それらは高位の存在になっていった。
最たるものが、魚類と、鳥類だった。


 鳥籠と水族館は、高位な存在を保護する場として機能している。
そこにいれば悪意にさらされず、誰からも害されない。
高位な存在はやはり遺伝子的に無理があったようで、その時代多くの遺伝子操作が行われたが、殆どが生命維持に至らなかった。
今残されているのはその時代に突然変異的に生まれた存在のみで、今では無理な遺伝子操作をしてまで人の能力を広げようとする動きはない。
人類は現状に満足し、平和に過ごしている。

 人々の平和には、尊ぶ存在かすげさむ存在が必要だった。
人々は羨み、妬み、争いを繰り返した。
遺伝子操作による多様化はそれを触発し、一時交戦の世を作った。
その時勝利に最も貢献したのが、鳥類と魚類だったといわれている。
AIが進化し、ロボットが常用された世の中でさえ、人自身の能力はそれを上回ったのだ。
今となってはどうかわからないが。

 功労者である鳥類と魚類は、丁重に奉られた後、その存在を保護するという名目のもと、政府に管理されるようになった。
今となっては新たに作られることのない彼らの遺伝子は、世代を重ねるにつれて飼われることに疑問を抱かなくなっていった。



 幼い頃、母の膝に頭を乗せ、空を眺める母の顎を伝う水を見た。
あのとき母は、僕に何を伝えようとしていたのだろう。
今となってはわからないが、僕は今日もあの日の母のように、鳥籠の中から空を見上げるのだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?