圧倒的な画力、緻密な描き込み量…ストーリーの良さをも凌駕する『鬼滅の刀』 の作画について考察した 【 前編 】
【前編】は、着物や背景の描き込みについて考察。
【後編】は、キャラ(人物)の描き込みと作者の吾峠呼世晴先生の人柄について考察しています。
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2019年の年末。美大仲間との忘年会にて、フュギュア原型師の友人から「鬼滅の刃の仕事が入った」と聞いた時に、「キ…?キメ??何て?」と鬼滅さえ聞き取れないくらい、この漫画に全く興味がなかった。
母親になった友達は「ええ!すごいじゃん!めっちゃ好き!!今子供に大人気なんだけど、大人はみんな知らないか〜」というテンション。
中学卒業と共に、兄と別部屋になったことで毎週のジャンプから私も卒業してしまったが故に、ジャンプでの連載漫画にだいぶ疎くなってしまい、ジャンプ=子供が読む漫画、と思い込んで高を括ってしまっていたのだ。
それが今年に入り、Facebookでも投稿を見かけるようになり、毎日カレーばかり食べ続けている夫が、とうとうNetflixでアニメ版を見始めて大絶賛している。
ジャンプの人気連載は長丁場がお約束だから、完結したら読もうと思っていたけど、我慢できなくなってきた。
ウズウズがピークに達した時、たまたまご近所の松田さんから1~15巻をまるっと貸して頂けたので、かなり世の中から大幅に遅れを取って読み始めてみたら、、
描き込みがとても丁寧で手仕事の技量が素晴らしいじゃないか!!!!!
作画を細かく見ていくと、作者の繊細さがピシパシ伝わってくる漫画だった…。
ここからは、私の大興奮ポイントと作者の作業現場を妄想した内容をお伝えします。
一般的な物語の書評は一切ありません。
【着物】 柄(伝統文様)がいちいち手描き!
記念すべき1巻の冒頭から、うわーーーー麻の葉手描きじゃん!!!!もう大興奮。
麻の葉に比べたら簡単に見える炭治郎の市松文様も、1マスずつ塗るの心折れそう。なんでこんな文様にしたのか…と思うことはなかったのか。
慣れたら早く描けるようになるだろうけど、描く速度よりめんどくささが先立ってしまう私は一生漫画家にはなれない。
柄物は動作をした時に、動作に沿って柄のラインを変える必要があるので動きを大きく見せられる効果があるけど、その分作画する方は大変なはず。
そして注目すべきはここ↓
着物の襟は、身頃(体の部分)と別のパーツなので、襟と身頃の柄が合わないところもちゃんと描き分けてるーーーー!!!!!
細かすぎて、誰も気にしないだろうけど、こうゆう細かいワザを見つけると、本当に嬉しい。
柄を合わせる(絵羽模様)仕立て方法もあるけど、ハレノヒに着るような着物の場合に作られるので戦闘モードの人には着せないよね。
と思いきや、いきなり絵羽。
この後はだいたい絵羽でした。わたしが作者ならそうするよね、描くとこありすぎだもん。
9巻の吉原が舞台の話も帯が、またもや気合の手描き。
この帯が、俊敏に果てしなく伸び縮みするもんだから、もう大変!
帯・街並み・瓦・さっき壊れた屋根・攻撃・効果線・トーン。
一体、何層になっているの…!!
このミルフィーユのようなレイヤーを分解して、描く順番や描いている時の作家さん(もしくはアシスタントさん)の気持ちを想像するのが悦楽なのである。
このシーンもよかった。
爆発・2種類の剣筋・疾走感・壊れる街並み。その中にも戦う2人がちゃんと存在するのよ。
…エライこっちゃ!!!!!!
これだけの情報量をちゃんと区別できる描き方、いいよねぇ。
(爆発部分のベタもっと多くしちゃおうかな、って思ったかな、うふふ)
えーーーー!
うそーーーーーーー!!
と声がでた人も少なくないはず。
立涌文様を描いてる…すごい。
菊立涌文様かと思ったけど、八つ藤っぽい。
なんにせよ、めちゃくちゃ時間かかりそう。そして、文様を調べる時間も楽しい。新たな発見をしてさらに遅読になる。
俯瞰構図でも違和感のない描き方をされていて、お見事!!!!
そして、錫杖(赤丸)もキレイに描かれておりますねぇ。ウットリ。
【建物】 練習兼ねてるのかな?と思うくらいの描き込み
屋根の瓦、軒下の暖簾、引き戸、古びた木材、畳、襖。
大正時代の設定なので、現代の建物に比べて描き込む物が多い。
古木は細かい線を無数に描き入れないとつるっとした現代的な建物に見えてしまうし、瓦の形は波状になっているので定規をあてて一気にシャッと引くだけでは表現できないので、気の遠くなる作業だと思う。
畳の網目の向きはもちろん、畳縁(たたみべり)もちゃんと描いてある!
砂壁も細かい点描でしっかりと表現。桐箪笥とか天井の古木とか善逸の後ろの廊下の網窓とか、あぁ…古木がたくさん!
ちゃんと古木に見えるのが最高。
立派な庭園のある館もたくさん出てくるし、地味にこの砂利が難しい。
丸を同じように描いてもダメだし、丸っとしているけど奥行き出さないといけないし、影を描きすぎると石に見えなくなるし、時間もかかる。
いい塩梅が難しいのよね。
広い砂利の庭は 白米 に見えちゃう可能性大だし。
この小さい、さらっと流す1コマにこんなに和傘が!
部屋も古木っぽい感じを出す為に線を入れまくらないといけないのに、円錐形でバランスを取るのが難しい和傘をなぜこんなに描いたのか…伏線でもないし…
作画の修行なのかな。
うわーーーー、
マジかーーーーーーー。
もはや、びっくりするよりも「うわぁ…描くの大変そう」というネガな気持ちの方が先立つエッシャーのような時空間がひん曲がった部屋。
この部屋の中で戦ったり、瞬間移動したり。もう、もう、もう…!!!
絶対ドMじゃないとできないよ、この仕事。
週1で連載しているのが不思議なくらい、本当にちまちまとした部分もちゃんと描かれていて、漫画家の尊さを再認識。
【 自然 】 当たり前の物を描くのが一番難しい。
鬼が行動するのは夜だけなので、戦闘シーンは全部夜。
そして、だいたい野外。
大量の葉っぱが生えている木が密集しているのが森であり、山。これを描くのがめちゃめちゃめんどくさいのだ。
ハッチング(細かい網目)を延々と描き、その濃淡で遠近を表現する。これをどれだけ描くのか…自然に遠くを見てしまいそうになるよね。
夜の表現にはトーン(デジタルだったらトーンじゃないのかな)を使っているけど、ほとんどトーンを使っていないのも尊いところ。
20数年前、大学受験の際に画塾(美大専門の予備校)の先生に「水木しげる先生の漫画を読め!トーンを使わず全部描き込んでるんだぞ!見習え!!もっともっと描き込め!!!!」ってめちゃくちゃ怒られた記憶がいまだに鮮明に蘇る。
夜+森+霧。
色も動きもない漫画でこの条件を表現するの、めちゃ難しいはず!!
写真で見ても「?」となりがちな霧を私ならどうやって描くかなぁ…と別解を想像するのもまた楽しい。
「技を水で表現」するなんて厄介な設定を誰が思いついたのか。
水しぶきや潮の流れは形がないので、日頃から慣れ親しんでいる水を描くのが一番大変だと思う。
透明だし、細胞があるわけでもなく、水飛沫は葛飾北斎が富嶽三十六景で開発した表現方法があるけど、水の呼吸には何個も技があるから、それ以外のこれだ!という描き方も編み出す必要があったでしょうね。
「こう描いたら水っぽくない?」「いや、そう描いたら雲っぽいでしょ」みたいな相談(攻防戦)がありそう。
【 刀 】 丁寧なお仕事に脱帽
刀ファンじゃないけど、う…美しい…!!!!
炭治郎の鍔(つば)は曲線だらけなので、硬度を出すのが難しいけどちゃんと出てるよね。
無一郎の直線の鍔は直線だけど、四角(直線)が重なってるので奥行きをちゃんと描かないとこの柄にならないので、地味なわりに大変な作業だと思われる。
恋柱の鍔と柄巻(持つところ)は、どちらもハート型…細かすぎない?
繊細なこだわりがすごい。
柄巻の網目の表現力よ…!!!チェーンもエグい。
人物との線の細さが違うからアシスタントさんが描いてるのかしら。
描いてるうちに気持ちよくなってくるタイプの人な気がする。
天元のヘッドアクセの宝石は難しいよね、かつて大学時代に1社だけ真面目に受けたアクセサリー会社にデザインを提出するのに宝石を描いたけど、めちゃくちゃ難しかった記憶がある。5次試験の論文であざとさが見抜かれたのか最後の最後に落とされたっけ。
【後半】は、主に人物と作者吾峠呼世晴先生の人柄について考察します。
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