見出し画像

D2Cとは?成功に導くための観点と事例紹介

1.     D2Cはなぜ流行っているのか?
【D2Cとは】
D2C(Direct to Consumer)は消費者直接取引という販売方法のことです。商品の企画・製造から販売までをAmazon等のプラットフォームや卸や小売りなどの中間流通業者を介さずに一貫して自社で行うことや、マーケティングや販売・アフターフォローなどの一連の流れをWeb上で完結するのが特徴です。
B2C(Business to Consumer)との違いが分からないという方も多いかもしれません。しかしB2Cは企業と消費者間の取引であることは同じですが、メーカーや卸売業者から商品を仕入れているため、D2Cとは製品の提供方法が違います。
 
【メリット】
D2Cのメリットは以下の通りです。
<メリット>
・収益性が高いこと
企画・製造から販売までを一貫して自社で行うことにより、仲介手数料がかからないため収益性が高くなります。また、それにより質の高い商品を低価格で提供するため、コストパフォーマンスに優れた商品を販売することができ、消費者にとっても安くて良いものが買えるというメリットがあります。
 
・顧客データの収集・蓄積ができること
販売業者を介さないため、データの収集や蓄積がすぐにできるうえに、顧客のサイト上での動向など潜在的なニーズに基づくデータも得ることができます。それにより消費者のニーズにあった要素を取り込み、改良していくことができます。
 
・トレンドの変化にスピーディーに対応できること
顧客の生の声を聞くことやSNSを使ってブランディングすることが多いため、トレンドの変化を察知しやすいことがメリットです。また、仲介業者がないからこそトレンドに乗った商品をスピーディーに販売することができます。
 
 
 
【なぜ流行しているのか】
・デジタルネイティブ世代の増加
スマートフォンの普及により、日常的にSNSで情報収集しネットショッピングで買い物をすることに抵抗がない人が増えています。それにより、独自の販路や顧客を形成することができ、店舗販売とは違った形で顧客の興味を引くことができます。
さらに、近年の新しい生活様式の普及により、ネットショッピングの機会が増えたことも要因であるといえます。
 
・サプライチェーンの進化
中国・インド・アジア諸国の製造業者のサプライチェーンが進化したことにより、少ないロットから発注できます。それにより、細分化したニーズに応えることや、新規開拓の試作販売等が可能になります。
 
・消費者の考えの変化
近年、モノを所有することに価値を求める「モノ消費」から、消費によって得られる体験に価値を求める「コト消費」を重視する人が増えています。それにより、商品そのものだけでなく、きめ細やかなサービスやブランド独自の世界観やコンセプト等の付加価値に惹かれる傾向にあります。
 
 
2.     D2C市場規模

引用:https://netkeizai.com/articles/detail/1756

日本のD2C市場は2019年時点で2兆300億円であり、2025年までに3兆円に達すると予測されています。グラフからもD2Cの市場規模は2015年から常に右肩上がりであることが読み取れます。アメリカでは大企業による大規模な事業によってD2C市場規模が日本の約6倍と言われていますが、丁寧で真摯な姿勢でモノづくりを行う風土や、品質の高いものを大切に使いたいという文化がある日本でもまだまだ市場が拡大する見込みであると言われています。
 
1.      D2Cビジネスを確立するためには
D2Cビジネスを確立するためには、以下の①~③の重要ポイントを押さえ、サービスプレイスを設計することが必要です。
①ブランドイメージの設計
②付加価値の提供
③マネタイズポイントの設計
④①~③を実現するためのサービスプレイス設計

それでは、ポイントごとに重要な理由と手法を述べていきます。
①ブランドイメージの設計
ブランドコンセプトや独自の世界観を持つことは他社との差別化となります。
そのため、ブランドのファンになってもらうことがキーポイントであるD2Cビジネスでは、ブランドコンセプトや世界観を明確にすることが重要となります。
では、ブランドにファンがつくことはビジネス的にはどんなことをもたらすのでしょうか。
1つ目は、リピーターによる安定した収益の獲得です。一商品に対してではなく、ブランドのそのものを好きになってもらうことにより、継続的に商品を購入していただくことができます。また、顧客にとっては「ファンになって応援する」という体験価値も生まれます。
2つ目は、新規顧客の獲得です。近年のSNSの普及により、自分の好きなものを載せるという行動が日常化しているため、既存顧客による自然発生的なPRをしてもらうことができ、新規顧客の獲得に繋がる可能性が高くなります。また、知人の口コミは企業からの広告よりも信憑性が高く、興味を持つ確率が高まります。
では、具体的にブランドイメージをどのように設計するのでしょう。
1.競合調査
競合他社やユニークなコンセプトを持つ企業の調査をし、目的や5W1Hの軸で企業分析します。他社の成功要因を知ることにより、ユーザに刺さるブランドイメージ設計の参考にすることができます。
2.ペルソナの策定
自社分析をして強みを明確化したのちに、ターゲットとするユーザ層を明確にします。SWOT分析や4E分析(※)等のフレームワークやSNSの分析機能を活用し、ペルソナの策定をしましょう。
※4E分析とは、4P分析をもとにしたD2Cに適した新しいフレームワークのことです。
4Eの要素は以下です。
・Experience(製品→体験) :ロイヤルカスタマ化のためにどのような体験を提供できるか
・Exchange(価格→交換):プロダクトが提供する価値に対価が見合っているか
・Evangelism(販促→伝播):ユーザ自らに体験したことを発信してもらえるか
・Everyplace(流通→あらゆる場所):どこで顧客体験を提供するか
4Pの従来のマーケティング戦略からWEB時代のマーケティング戦略に変化しており、顧客体験を重視したD2Cに効果的な戦略です。
3.ブランドコンセプトの明確化
ユーザに提供したい価値や、ユーザに抱いてほしいイメージを言語化し、核となるブランドコンセプトを明確にします。つまり、どんな人にどんな商品やサービスを提供し、どうなってもらうことが最高の価値となるのかを明確にするということです。自社の強みを生かし、競合他社がまだできていない分野を発掘することが重要です。
以上のステップを実施して、自社「らしさ」を大切にした唯一無二のブランドイメージを確立させましょう。また、消費者に明確なコンセプトを伝えるためには、第三者の視点も大切です。第三者の意見を聞き、より伝わりやすい方法でブランドイメージを広めましょう。
 
②付加価値の提供
モノ消費からコト消費が重視されている今、サービスや体験を買う人が増えています。特にD2Cビジネスではこの付加価値に対価を支払う顧客が多く、どんな体験をできるかが購買意欲を高める要因であるため重要なポイントといえます。
ここでいう付加価値とは、購買前や購買後も含むすべての時間で提供される体験やサービスを指し、購入サイトでブランドの世界観を楽しむことや購買後のアフターフォローを受けること、付加サービスを受けることなど様々な例が挙げられます。
さらに、顧客との直接的なコミュニケーションも付加価値の一つです。D2Cでは中間業者を挟まない直接的なコミュニケーションが主流であるからこそ、様々な交流が可能です。例えば、SNSでのダイレクトメッセージやインスタライブを通じた商品紹介などが挙げられます。ダイレクトメッセージでは、各人の訴求を満たした最適なコミュニケーションを図ったり、購買における不安や障壁を解消したりすることができ、顧客との信頼を高めることができます。また、インスタライブでの商品紹介では、文章では伝わりにくいブランドの世界観や製作者の想いが直接届くことでファンがつくきっかけとなり、定期的に実施することで顧客にとって楽しみなイベントの一つとなります。さらには、顧客の意見や要望をその場で聞くことができるため、ブランドの更なる成長につなげることや顧客の意見に耳を傾けるという好印象を与えることができます。こういった施策を積み重ねることによって顧客ロイヤリティが高まり、ロイヤルカスタマの増加につながっていくのです。
それでは、どんな付加価値を提供することで顧客に喜んでもらえるでしょうか。
まず、顧客の生活スタイルや行動からユーザシナリオを描き、「ペルソナの訴求ポイント」や「ペルソナが持つ興味」を分析します。この時既存のプロダクトがある場合は、反響や口コミに基づいて分析することも可能です。次にそこから抽出したニーズとブランドのコンセプトを掛け合わせ、「当ブランドだからこそ提供できる体験は何か」を考えていきます。ここで重要なのは、ブランド「らしさ」を忘れずに、かつ根底のニーズを満たせていることです。このペルソナに刺さる付加価値を提供できることこそが、D2Cビジネスにおける成功要因となります。
 
③マネタイズポイントの設計
D2Cビジネスにおけるマネタイズポイントは顧客に商品を購入していただいた時です。そのため、ロイヤルカスタマ化しても商品を購入していただかなければ収益はありません。つまり、ブランドイメージや付加価値を損なわない商品を販売できなければ意味がないのです。
では、商品・販売方法の考え方は何かというと、ターゲットの興味設計⇒上記②の付加価値(体験)設計⇒商品の選定の順です。製品の売り方については、どんな製品を売るか、どのように売るかというのを検討します。この時の重要なポイントは、ブランドイメージと付加価値を損なわないような商品であることです。例えば、AKB48がCD販売する際に、握手券がついてきます。そして大半のファンは握手券を複数ゲットしたいことから、聞くためなら1枚でよいCDを複数枚購入します。これは、「握手券付き」という付加価値に興味を惹かれている人が多いためです。また、AKB48が歌手としてCDを売ることは一般的なので、握手券のためだとしてもCDを購入することを疑問に思う人は少ないと思います。 そこでAKBがフライパンと握手券をセットで売ったらどうでしょうか。握手券への興味は変わらないかもしれませんが、その商品を買うことのへ価値はあまりないのではないか、と思います。
このように、どんなにブランドイメージや付加価値が興味を惹くものでも、顧客にとって商品が良くなければ売れないため、上記①②と商品力をバランスよく持つ必要があるのです。
 
さらには、サイト上での顧客の動向から潜在的なニーズを分析しUI/UX改善をしたり、購入サイトへの流入方法からPR方法の改善をしたり、と様々な活用方法があります。
他にもデータを組み立て、原因究明やマーケティングへの活用が可能であるため、データをうまく活用できることは非常に重要なポイントとなります。
データがあっても活用できなければ意味がないため、顧客データを分析する以前に顧客データを蓄積する仕組みを作ることも大事なポイントになってきます。D2Cのメリットをうまく活用して、ブランドを成長させていけるようにしましょう。
 
④①~③を実現するためのサービスプレイスの設計
最後に、重要ポイントを実現するサービスプレイスの設計についてです。上記で説明した重要ポイントをしっかり考えられても体現できなくては意味がありません。そのため、ブランドへのファン形成を目的に、一連の購入前後の体験価値がしっかりとデザインされていることが大事になります。
では、ポイントに分けて説明します。まず、付加価値の提供ができるかが重要ポイントになります。購入前に流入してくる顧客の目的は、もちろん商品購入の場合もありますが、サイトにアクセスすることでメリットが得られる場合も考えられます。例えば、革製品を販売するブランドが革のお手入れ方法について紹介していたらどうでしょうか。革のお手入れ方法を検索した新規顧客が流入したとき、そのブランドの付加価値を得ることで好印象を持つでしょう。そして、好印象なブランドの商品を購入したいと思い、その場で商品一覧も閲覧してくれたり、後日思い出してくれたりするかもしれません。このようにサービスプレイス上での商品販売以外の付加価値によって、新規顧客の獲得や既存顧客のロイヤリティを高め、ロイヤルカスタマを増やしていくことができます。
次に、サイトの見た目や利便性です。
サイトの見た目というのは、ブランドイメージそのものを体現しています。そのため、ブランドイメージに興味を持ってもらうためには、サイトのUI がいかにブランドの世界観を表現できているか、が非常に重要になります。たとえ優れた商品を売っていても、サービスプレイスの見た目一つでイメージが変わってしまい購買意欲が下がってしまうという可能性もあります。だからこそ、ブランドイメージ通りのデザインや、「何を背景に」「誰が」「何のために」つくった商品・サービスなのかという想いが伝わるUI/UX設計が求められます。
また、サイトの利便性については顧客体験といえます。先ほど述べた通り、購入前から購入後までのすべてが顧客にとっての体験価値であるため、どんなにブランドとして良くても購入フローにストレスがあってはなりません。例えば、商品を購入する際に、異常な量の登録項目があったり、画面遷移が遅かったり等のストレスがあると、購入することが面倒になってしまうケースがあります。そのため、ブランドの世界観を気に入り、その商品が欲しいと思った顧客への障壁となってしまい、印象の悪い顧客体験をさせてしまうことになります。これを回避するために、UI/UX設計は慎重に行うことが大切なのです。顧客の立場になって利便性がよく満足度の高いサービスプレイスはどんなものだろう、というのを考えることで、素敵な顧客体験を提供するサービスプレイスになっていくのです。
以上が、重要ポイントです。これらを網羅してこそD2Cビジネスを成功に導くことができますが、日々の改善を怠ってはいけません。それでは成功したD2C企業はどのようにブランドを大きくすることができたのでしょうか。
 
1.     事例
それでは実際にD2Cブランドで成功している事例を紹介いたします。
 
■Allbirds(ファッション)
メリノウールやユーカリの繊維、サトウキビといった自然素材を使った環境に配慮したサスティナブルで快適なシューズを開発、販売している企業です。Allbirdsはほぼ広告宣伝を実施しておらず、ブランドのコンセプトで顧客を魅了しています。それは、オンラインのみでの販売とし、季節ごとのモデル入れ替えはしないことを徹底していることや、広告にお金をかけずにエコで高級な素材やサスティナブルな製造プロセス・機能性にこだわることをポリシーとしていることが要因です。また、顧客に寄り添う姿勢も人気の理由で、SNSを通じたダイレクトなコミュニケーションを大事にしています。さらに、オンラインで靴を購入することの障壁になり得るサイズや履き心地の不安を取り除くために、どれだけ履いても30日間返品可能というサービスも実施しています。こうしたブランドの強いこだわりや顧客へのサービスによってファンが増えています。

■BASEFOOD(食品)
近年トレンドである「完全食」を販売して、商品の認知度を高めた食品ブランドです。
BASEFOODは、「かんたん・おいしい・からだにいい」というコンセプトに共感してくれる顧客によってリピーター獲得を成功しました。さらに、コロナ渦により健康意識が高まる一方、栄養バランスを考えた自炊に負担を感じ、がんばらない(エフォートレス)自炊を求めるユーザが増えているため需要が高まっています。これにより、直近の年間販売食数は前年から3.7倍に急増しました。
また、顧客とのダイレクトなコミュニケーションに力を入れており、SNSでのやり取りやレビューへのこまめな返信対応、定期購入者へのインタビュー等、顧客の声を積極的に聞く姿勢がファンを作っているといえます。

■COHINA(ファッション)
155cm以下の小柄な女性をターゲットにしたアパレルブランドで、自分に合ったサイズの服が見つからないという悩みを解決しています。また、毎日Instagramのライブ配信をして、視聴者の意見を積極的に取り入れることでコアなファンを獲得することができています。さらにニッチだからこそTokyo Girls CollectionやテレビCMにあえて出演し、世間に認められているブランドであることをアピールしています。それにより話題性があり、3年で月商1億円を突破するほどの結果を残しています。

■MEDULLA(化粧品)
日本初のパーソナライズシャンプーを売るブランドです。オンラインで10個の質問に回答するだけで、3万通りの組み合わせから個人にカスタマイズされたシャンプーやトリートメントが自宅に届きます。顧客にとっての体験は個人の悩みや要望に応えた商品が届くだけではありません。届いた商品に対して美容師からコメントをもらうことができるのです。そのため、まるで美容室を訪れたときのようなサービス体験ができることで、2021年には会員数が30万人を超え人気を集めいています。

■BULK HOMME(化粧品)
メンズスキンケアを展開するコスメブランドです。
中堅以上の価格帯ではあるものの、品質にこだわるイメージを定着させることで購入を促しています。
売れた秘訣としては、リアリティを重視したInstagram広告です。クリエイティブにブランドのカッコよさを打ち出すのではなく、UGC(口コミ等のユーザ生成コンテンツ)を活用したリアルを届けることで信用を得たのです。これによりInstagram広告経由の顧客獲得数を10倍に成長させ、顧客獲得単価を1/3に削り利益を上げました。

■Casper(寝具)
Casperはニューヨーク発の折りたたみ梱包ができるマットレスブランドで、低コストで良質な睡眠体験を提供しています。2014年創業で企業価値が10億ドル以上にもなるユニコーン企業の一つであり、投資家からの支持も厚い企業です。業界の中でも注目の理由は一般的な購買プロセスとは違い、ショールームでじっくり見てオンラインで購入できることです。これにより、店員の押し売りもなく接客を受けることができ、自身で運ばずに自宅に届くという大きなメリットがあります。また、100日間無料トライアルや使用後のマットレスが返品可能など、顧客にとって嬉しいサービスもついています。

■snaq.me(食品)
国内発の自然素材を使ったおやつが定期的に届くサービスです。特徴としては、人口添加物や白砂糖、ショートニングなどが不使用で、100種類以上もの種類があることです。また、登録者はおやつ診断を行い、その診断結果から顧客にあったおやつが8種類入ったボックスが届き、おやつ体験ができます。注目されている理由としては、おやつという体験ができ、箱を開けることの楽しみをもたらしてくれるためです。また、PR面では顧客が自然発生的に投稿したいと思うような工夫をしており、顧客のSNSを通した楽しみももたらしています。具体的には、毎月箱のデザインを変えたり、お菓子の撮影用シートを同梱したりすることで、うまくUGCを活用し信憑性のあるPRがかなえられています。
このような楽しみにあふれるおやつサブスクリプションが体験を重視するユーザに響いているといえます。

1.     まとめ

D2Cビジネスでは、各ブランドの創業者の想いが強く伝わり、今の時代ならではの流行の仕方で消費者のもとに届いています。商品だけでなく、体験に対して価値を見出すことで、今後も新たなビジネスが誕生していくことでしょう。また、日本人は品質が優れたものを大切に使う文化があるため、日本のD2Cブランドの市場はまだまだ伸びる見込みです。今後もD2Cビジネスを始める企業が続々と増え、消費者のニーズに沿ったより良い商品が創出されていくのが楽しみです。