禍話リライト「廃車タクシー」

 タクシー!って話なんだけど。

 ある人が仕事の都合で、「田舎」と呼ばれるような土地に行った時の話。
 夜になってタクシーを拾わなければならなくなったので、その町にあるタクシー会社の事業所に直接出向くことにした。

 事業所には、留守番を担当しているであろう職員がひとりだけいた。
「すいません、今ちょっと出払ってるんですよ」
 まあそんなこともあるか、と思いかけたが、すぐに、いやいやいや、と思い直す。
 駐車場には車両が一台停まっているのだ。
 目の前に車が停まっているのがはっきりと見える状態なのにそんな風に堂々と断られたので、一瞬(新しい乗車拒否の手法か何かだろうか…?)と思ったという。

「え?あそこに一台あるじゃないですか」
「あ、あれ違うんですよ。廃車にするんですよ」
「ああ、そうなんですね」
「すいませんね、ちょっと今呼びますから」
 そんな遣り取りののちに、職員は無線で連絡をしはじめる。
「あと十五分ぐらい待ったら来るみたいなんで。お待たせしてすいませんね」
「いえ、全然大丈夫です」
「いやー、すいません。こちらにお座りになってお待ちください」

 職員に差し出されたお茶を頂きつつ、連絡を受けたタクシーが事業所に帰ってくるのを待つ。

 …しかしどうしても停まっている車両が気になって仕方がない。
 というのも、どう見てもその車両は廃車にするほど状態が悪いようには見えないのだ。むしろ新品…とまではいかないが、かなり新しい車に見えた。
 見れば見るほど、なんでこの状態の車を廃車に?という疑問が浮かんでくる。

「でも、あの車、まだ走れそうに見えますけど…?」
「…あれはね、廃車にするしかないんですよ」

 職員はこんな話を語り始めた。

 この車両を整備するために、色々な部品が必要になった。しかしその際に社長がケチって、安い部品を調達した。

 しかしその部品のうちのどれかが、どう考えても”どこかで人を撥ねた”車の部品なのだ、と。

「え、何でわかるんですか?」
「いやね、この時間ならまだいいんだけど…」
 職員は時計を見ながら、神妙な顔で話を続ける。

 田舎のタクシー会社なので、深夜の二時や三時ぐらいに全く要請が来なくなり、事業所を閉めるときがある。その際に車両の確認をする。
 すると、例の車両に、人が乗っているのが見えるのだという。

「なんだったら、その車両を使っているときにも、”乗ってらっしゃる”んですよ」
「ええ…」
「それで整備のために呼んだ人にも話を聞いてみたんだけど、結局どこの部品がその原因なのか分からなくてね…」

 そこでみんなで、この車はもう廃車にするしかない、と意見がまとまった。しかし廃車にするにしても、上層部に言える理由がない。
 そこで廃車にするために、しばらく野晒しにしてみよう…となり、この場所にずっと停車させているのだという。

 …件の車のすぐ横で待たされた状態でそんな話を聞かされたものだから、その人はすっかり怖くなってしまった。

「いやいやすぐ廃車にしましょうよ!ぶつけるとかして!」
「いや、ぶつけちゃダメでしょう」
「もう…なんか…車の中にジャガイモ詰めるとかして…」
「それは違いますね」

 そこは真面目なのかよ、と思わず心の中でツッコんだという。


◇この文章は猟奇ユニット・FEAR飯のツイキャス放送「禍話」にて語られた怪談に、筆者独自の編集や聞き取りからの解釈に基づいた補完表現、及び構成を加えて文章化したものです。
語り手:かぁなっき
聴き手:佐藤実
出典:"禍ちゃんねる 小ネタ祭"(https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/519225734)より
禍話 公式twitter https://twitter.com/magabanasi

☆高橋知秋の執筆した禍話リライトの二次使用についてはこちらの記事をご参照ください。