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アニメ『日本沈没2020』感想

 2020年7月9日にNETFLIXにて全世界独占配信された『日本沈没2020』をつい先日一気に見終えた(映画感覚で見たかった)ので、ざっと感想を書き留めておこうかなと思い、この記事を書き始めております。

 先に色々と言っておくと、小松左京氏の『日本沈没』は未読。それと、監督の湯浅政明さんの作品は全て視聴しておりません。『映像研に手を出すな!』や『夜は短し歩けよ乙女』とかは個人的には微妙な感じだったり、でも『ピンポン THE ANIMATION』は大好きだったり。そんな感じなので、彼のファンという訳でもないし、特に思い入れはないです。なので、この作品に対して期待とかはほとんどなくって。じゃあなんで視聴したかというと、劇伴担当が牛尾憲輔さんだったから。彼の音楽大好きで。音楽を聴きたいが為に見てみたかったといっても過言ではないです(普段のアニメ視聴でもこういう理由で視聴することは結構ある)。


 では早速感想を書いていきたいのですが、結論からいうと、

全体的な評価は微妙でお世辞でも満足したとは言えない。ただ退屈はしなかったし、見て良かったなと思えた部分は少なからずある。

こんなところです。どっちつかずというか、消化不良があって何だかなぁというか。

 まず、1話と2話。まぁまぁよかった。これだけの大地震が来たらこうなるんじゃ。っていうのを感じさせる。こういう時、人はこういう行動をとる。みたいなのを感じ取るには十分だったと思う。言葉を失うとかの感情は全くなかったけど。「んーまぁリアルっぽくやったらこうなりそう」くらいのお気持ち。というのも、僕があまりリアリティ(現実性の意)の追求に関してはあまり気にしてなくて、どちらかというと、作品内でのリアリティ(物語の整合性の意)さえ担保されていれば後は派手というか大袈裟な方が好きっていうのもあると思う。
 あとは、今現在のスマホが当たり前で情報化社会になってるのを描いてくれたのは興味深いというか、改めて新鮮でした。緊急地震速報のアラームとかも(あの音大嫌い)。ただインターネットが使える程度の被害(通信設備生きてる感じ?)の認識だったし、電気が通っている時や場所があったのに、これを活かしてくれたのほとんどなかったんだよなぁ。情報の取捨選択(何を信じて何に価値を見出すのか)とか、災害時におけるICTの利活用とか、日本よりも情報化社会が発展してる海外の国々の対応とかを個人的にはこの序盤の段階で「何か描いてくれるのかな?」と少し期待してしまったとこがあって。でもほとんどが表面的なものばかり(マスメディア、スマホアプリ、SNS、マイナンバー、クラウドとか)でそこは少し残念でした。この領域は専門的な人がいないと描くの難しいところではあるとは思うのだけれど、今後より身近に、より重要になってくる話だとも思うので、少し注目したかったところではある。でもこの作品がフォーカスを当てているのが "世界全体" ではなく、"1つの家族" である以上、国の対応とかは見れなくて当然か…。勝手な期待してごめんなさい。


 そんで、3話から。雲行きが怪しくなったきました…。いや、2話の父ちゃんの死からかな。死の扱い方が残念だった。父ちゃんも七海さんもそんな馬鹿な…嘘だろ…っていう驚き。んー、災害時は死と常に隣り合わせだと描きたかったのかなぁ。でもこのタイミングで死なないでもう少し生きてちゃダメだったのか。全部見終わってから思うけど、別に生きてても同じかそれ以上の物語描けなかったかしら、と思ってしまった。その場その場で悲しんでる場合じゃない、進まなければならないっていうのもわかるし、"人の死を乗り越える" みたいなテーマは嫌いじゃないんだけども、それらは全部まず死が意味を持って初めてテーマとかが意味を持つと思うので、こんな死の扱い方をされて正直困ってしまった。この死の扱い方に関しては、終盤まで蔓延ってる気がしてて…登場から退場までが早い奴が多すぎる。まじで。どんどん死の痛み、重み、悲劇性が薄れてしまっていたと思う。あとから思い返されて感情的になろうと思っても、そもそもがこれだと感情は機能してくれなかったです。カイトの登場に関しては、ちょいファンタジーっぽくて個人的にはよかった。なさそうでありそうというか。1人ぐらい強力な助っ人がいてくれた方が作品として盛り上がると思うのでね。彼(彼女)の人間性もそこまで嫌いじゃなかったです。


 4話から6話まで。この中盤がこの作品の中で一番理解に苦しんだ

シャンシティの存在全てがわけわからんくて怖い、ヤバい。
爺ちゃんヤク中でくっそ弓矢使いなの一周回って笑える。
イギリス人の男、ダニエルのテンションがあり得なくて嫌い。

 とりあえずこの3つがずっと引っかかってて。シャンシティに関してはもうヤバい。作品の終幕が前向きなのに、コイツらはどちらかというと後ろ向きなのも。作品の足引っ張ってるとしか僕には思えなくて。色んな人種がいてもおかしくないことへの理解とか、多くを失って心の拠り所を求めている人がこれだけ増えるかもしれないとか、その辺りを描きたかったぐらいしか考えられないのだけれど。ただそうだとしても、申し訳ないが受け付けられないシーンが多すぎた。いやだって、日本沈没中なんですよね?!それが念頭にあるのにこの展開を受け入れるのには無理があるというか…。電気やネットが普通に使えているあの状況下であの家族に他の選択肢はなかったのだろうかという疑問まで浮かんできてしまって。
 ヤク中の爺ちゃんもどうしたよ。なんか弓使うの上手過ぎて、最後もカッコいい感じに仕上げてきたの一周回って笑いながら見てました。もう救いようがないから、ああいう扱いにしたんかなぁ。
 ダニエルはごめん、素直に嫌いです。性格どうにかならんかったか。そんなおちゃらけてる場合じゃないんだが。心の休憩が必要なのはわかるけど、もっと穏やかな癒し系の人がよかったです。七海さん生きてくれてればなぁ。


 7話から10話まで。いよいよクライマックスって感じの展開。先に言うと、8話の救命いかだで歩と剛が光る海を見ながらお喋りしてるシーンから、歩が「生きてたいんだ」って言ってSOSを出すシーンまで。この数分間がこの作品の中で一番好きでした。大きな絶望の中の小さな希望を一番リアルに、強く感じたので。今が何時かも、どこにいるのかもわからない、ちゃんと助かるのかもわからない、絶望の淵に立たされた状況下。そんな状況下で小さな子供二人が想い出の話とか、元の世界に戻ったら~したい、とかを話している雰囲気が凄いよくって。不安を紛らわす疲労感、脱力感が丁度良く混ざり合った感じ。そんで剛が「死んだら~」っていうもしもの話を切り出してから、歩が「私は…生きてたいんだ」っていうとこも。今迄で一番お姉ちゃんしてたし、何より響きが強かった。上田麗奈さんの演技とてもよかったです(全体的にも)。その時々の心の距離感を感情的に表現するの上手。雲の隙間から太陽の光を映像内に徐々に入れ始めてたのもこの辺りからだった気がします。作品が光に向かってるのを感じさせるかのように増えていってた。

 7話はあんまし言うことなくて(繋ぎ回としか思えない)、9話や10話はカイトが一生懸命なシーンがどれもよかったです。間違いなく強く生き残る人、多くを救ってくれる人はこういう人間だろうなって。絶対に成し遂げられるという気持ちしかない。元々YouTuberという影響力がある人間として登場した彼だけども、それだけの経験と自信からくる逞しさは勿論、計算高いはずなのに最後の最後で気持ちで賭けに行ったところに真の強さを感じて熱かった。
 あとは、10話の母が残していた写真を振り返るシーン。今迄いくつもあった声だけだった回想に映像がここで全部つくのかと。その点に関しては感動的だったんだけど、先述した通り、死の重みがどうしても薄れていたので…。まじで惜しかったなぁ…。めっちゃ泣けるとこな気がするのに。基本的に涙もろいし、回想にとことん弱い僕ですが、全然泣けなかった。この10話時点でのテンションも関係してると思う。中盤とかずっと引っかかってるので、思考が本能の邪魔をする。ただ写真の伏線を一気に回収したかったと思うので、併せて回想はこの魅せ方しかなかったんだろう。どっちもどっちな結果。

 締め方は良いか悪いかで言ったら、良かったです。やっぱり変に悲しくお涙頂戴で終わるくらいなら清々しくハッピーエンド寄りで終わってくれた方が僕は好きなので。ただ8年後という明るい未来を描いて、歩の語りが入り、一気にメッセージ性を強めてきた訳だけれど、やっぱり説得力と納得感が足りない。しつこいようだけど、その為にずっと描いてきた背景が薄いから。心の底からよかったぁとか、日本っていいよなぁとか、希望ある未来の為に頑張ろうとかが感情的についてこなかった。こういうパターンになってしまう作品は決して少なくはなくって経験あるので、あのパターンや。ってなってしまった。
 物語の完成度よりもテーマやメッセージ性だけが先行してしまうパターンです。伝えたい!っていう気持ちはわかるし、汲み取ってあげたいとも思うんだけども、それがちゃんとフルで機能するのは作品の物語が完成した時。作品の物語性が破綻してしまったと受け取る側が認識した時点で、そこからどんどんモチベーションやリアクションは薄れていってしまう。作品を通して伝える訳であり、アニメーション作品である以上、大前提として物語があって。その物語を声優さんだったり、音楽だったり、映像演出だったりで彩っていって、限られてた尺の中で完成度の高いものを仕上げていく。すると自然と魅力が引き出されて、受け取れるものがあるはず(制作側が意図したものも、そうでないものも)。そういう繋がり、関係性を意識して色んな作品を見てきているので、今作はそれが崩れてしまった作品として僕の中ではまた1つ増えてしまったなぁと。部分的に見たらよかったんだけどもね。ただ全体の完成度は高くはないと思います。


 それで折角なので、部分的な話をもう少ししたいんですけども、良かったシーンについては今迄に書いた通りです。姉弟の会話とか、カイトとか。それとは別で、劇伴について。一番初めに書いた、僕がこの作品を視聴しようと思ったキッカケです。牛尾憲輔さんの音楽は今作でもめっちゃよかった。ここに関してはいつも通りでもう満足。ありがとう!って感じ。そのお蔭で最後まで退屈せずに見ることができたっていうのは間違いなくある。淡々としてる中に、繊細かつ丁寧に配置された音の数々がもう好きすぎて。逆に一気に音を集中させて厚みをかけてくるのもあって。どっちも好き。特によかったのは、4話、6話、9話エンドロールで流れた曲。エンドロールで流れたのは同話の劇伴で使われた同曲の尺長い版って感じでした。
 4話は物語を加速させるような、転調を匂わせる曲風が凄いよかった。歪ませた音が最高にカッコいい。
 6話は壮大で終わりを告げるような曲。徐々にテンポ上げて、音圧も上げて、破壊力は凄まじかった。バッドエンドのEDっぽい。
 9話はピアノと電子音といい感じにミックスされてて凄い明るくも、どこかノスタルジックな雰囲気を感じた曲。9話はラスト、春生が駆けるシーンでの劇伴もめっちゃよかったから、その流れもあって最高に良かった。悲しくも前に進まなきゃって思わせるにはこの絶妙なラインの曲調しかない。

 そして、グランドエンディングテーマ曲よ…花譜さんの「景色」もめちゃくちゃよかったです。この作品で初めて彼女の楽曲に触れたんですけど、聴けば聴くほど好きになる曲でした。消えそうだけど力強い、線香花火のような声だなという印象で、表現力が素晴らしい。特徴的な声だと思います。他の楽曲もディグってみよう。まじでファンになった(笑)



ーーーそこそこ長くなりましたが、これにて感想は終わりです。色々と想うところはあった作品ですが、今リアルでもこんなご時世なので、このタイミングで希望ある作品を観れたっていう意味ではまぁ良かったのかなと。この記事を書く前にネットに上がってる感想や評価もそれとなく目を通したんですが、本当に賛否両論だった。こんなご時世でメンタルがやられている人が追い打ちをかけられて作品に当たってるような感想、逆に希望を見出し救われた気持ちになって明るい前向きな感想、色々ありました。作品を限りなくフラットな目で見ることってやっぱり難しくって、少なからず環境、境遇、心境、色んなものが混ざって感情や思考が働いているはずだと思うんですけど。そういうことを踏まえると、本来この作品は東京オリンピックを想定して制作されていたんだろうし、今のこの世界的危機に陥ってる世の中に向けて配信をした裏側には、"日常の再生" , "小さな希望" , "失って初めて気づくもの" みたいな、適当だけどそういう想いが込められているなとは思うので、それを有難く受け取っておくことにします。一日でも早くあの頃の生活に戻りたい気持ちはみんな同じはずなので。

 そんな感じで、”アニメ『日本沈没2020』感想”でした。ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

ではまたどこかで。

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