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【運用部コメント】2019年の振り返りで見えてくる2020年の新興国経済

米中の貿易摩擦をはじめ国際政治および経済上のニュースが賑わせた2019年。2020年に入ってまだ半月足らずですが、世界的に大きな動きがあることに変わりなく、これは新興国経済にとっても多大な影響を受けざるを得ません。

そこで今回は金融政策、長期金利、株式、為替という4つの角度から2019年の新興国経済を振り返りつつ、まとめとして新興国市場の現況および見通しについて言及していきます。今年、2020年の新興国経済および市場の動向を見極める一つの材料としてご参考いただければ幸いです。

1. 金融政策動向

まず金融政策動向ですが、多くの国では2018年は金融引締め局面でしたが、2019年に入ってからは一転、多くの国では金融緩和サイクルに入りました。中国は政策金利を据え置いていますが、預金準備率の引下げや1年物のプライム金利の引下げを継続的に実施しており緩和スタンスを明確にしています。ブラジルは12月に政策金利を史上最低に引下げました。その背景には消費者物価上昇率が安定してきたことと、景気減速傾向が徐々に明らかになってきたことがあります。

一方、その中で引続き引締めサイクルにある国はジョージアとパキスタンです。ジョージアは海外からの投資資金の引き揚げが続いているため通貨安が続いており、通貨防衛のため金利引下げはできない状況です。パキスタンは11月の消費者物価上昇率(前年同月比)が12%超と物価高騰が止まらないことから、インフレ抑制のため金融引締めスタンスを維持しています。

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2. 長期金利動向

多くの新興国の金融政策が緩和サイクルに入ったことを受け、長期金利(現地通貨建て10年国債利回り)は軒並み低下しました。また先進国の金利水準が極めて低いことから利回りを追求する投資資金が新興国の債券市場に流入したことも債券相場を押し上げました。またトルコでは昨年勃発した通貨危機がほぼ収束したことが好感され5%以上低下しました。新興国市場の債券(国債、地方債、社債等)の動きを示すEmerging Market USD Aggregate Total Return Indexは年初来プラス13.1%のリターンとなり、世界の投資適格債の動きを示すGlobal Aggregate Total Return Indexの年初来リターンのプラス6.8%を大幅に上回る結果となりました。

グラフ1

3. 株式市場動向

2019年は株式市場にとっても良い年でした。特に先進国の大型成長株が好調だったわけですが、新興国のなかでは通貨危機の最悪期を脱したトルコが大きく回復しています。また金融緩和の効果が表れ、景気底入れが近いと期待されるブラジル、ロシアも良好なリターンとなっております。中国は米中貿易戦争の悪影響を受けているはずですが、金融当局の預金準備率の引下げや、株式市場への資本注入が奏功して新興国のなかでは最もリターンが良かった国の一つになっています。

一方で、インフレ率の高止まりから高い金利水準が続いているナイジェリアやモンゴル、そしてロシアが併合したクリミア等に対する輸入規制や資本取引規制などの経済制裁を受け国内景気が非常に悪化しているウクライナの株式市場はファンダメンタルを素直に反映する結果となっております。

グラフ2

なお、各国の株価指数は次の通りです。
中国:CSI300、ブラジル:IBOVESPA、アメリカ:S&P500、ロシア:MOEX Russia、ユーロ圏:EURO STOXX 50、コロンビア:COLCAP、トルコ:BIST National 100、アルゼンチン:Argentina Merval、リトアニア:OMX Vilnius、日本:TOPIX、インド:S&P・BSE SENSEX、南アフリカ:FTSE/JSE Top 40、フィリピン:Philippines Composite、インドネシア:Jakarta Composite、タイ:Thai SET、タンザニア:Tanzania All Shares、マレーシア:FTSE Malaysia KLCI、ウクライナ:PFTS、モンゴル:Top 20、ナイジェリア:Nigeria All Shares

4. 為替相場動向

先進国の主要通貨および新興国通貨は一部の通貨を除き、比較的狭いレンジの中で推移しました。年央までは米中貿易摩擦の激化や景気減速への懸念が高まる中リスク回避の動きが強まり、新興国からの資金流出が加速する局面もありましたが、高い利回りを求める投資資金が新興国の株式および債券市場に戻ったことから、年を通して見ると結果的に比較的狭いレンジの中で推移しました。

金融緩和が奏功して景気の底打ち感が出てきたロシア・ルーブルはファンダメンタルが好感され堅調に推移しました。タイ・バーツも東南アジアの新興国の中では最も健全な財政状態が好感されています。

一方で、明らかに景気が減速するなか高インフレが収まらないため、金利引上げサイクルが続いているパキスタンではルピーの下落はなかなか底を打ちません。8月にデフォルト懸念が再燃したアルゼンチンではペソが急落しました。

グラフ3

5. 新興国市場の現況および見通し

国際決済銀行(BIS)は過去の金融危機の分析に基づき、GDP成長率よりも速いペースで民間債務(除く金融機関)が増大する国は、近い将来、金融危機に陥る可能性が高いとしています。具体的にはGDPに対する金融機関を除く民間債務残高の比率の長期トレンドからの乖離率(Credit-to-GDP Gaps)が9%以上の場合、3年以内に3分の1の確率で金融危機や大幅な景気後退が起こるとされています。

過去のCredit-to-GDP Gapsの動きを見てみると、同数値が急上昇した国はその後深刻な金融/経済危機に陥ったことがわかります(グラフ4参照)。

グラフ4

では昨年から今年にかけての主要新興国のCredit-to-GDP Gapsを見てみましょう(グラフ5参照)。

グラフ5

昨年の9月時点でCredit-to-GDP Gapsが9%を超えていた新興国はトルコとアルゼンチンだけでした。昨年トルコ・リラが急落したことは記憶に新しいと思われますが、その後数値は低下しており、両国とも最悪期は脱したものと考えられます。他の新興国も数値が低下傾向にあるかマイナス圏にあり、近い将来の新興国を震源とする金融危機の発生確率は低いのではないでしょうか。

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