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地方に移住したい。でも、仕事はどうする?

かつて、寺山修司は「書を捨てよ、町へ出よう」と言った。しかし、いま、「書を持って、地方へ出よう」という動きが盛んになっている。

令和の新しい働き方「テレワーク」が進む中で、地方への移住を始めた人も多く、現に東京の人口は減少傾向にある。

そんな文脈において、農業への関心を抱くビジネスパーソンも増えてきた。

「世界を農でオモシロくする」をテーマに、インターネット農学校The CAMPusの校長として、食と農に関するあらゆる活動を展開する井本喜久氏。初著書『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』刊行にあたり、「地域×農」にまつわるオンライントークライブが2020年9月5日に行われた。本記事では、「株式会社マイファーム」を立ち上げ農ビジネスを展開する西辻一真氏との対談模様を、編集・再構成してお届けする。

自産自消のビジネスモデルで活動する西辻氏

井本:かずまっち(※井本・西辻間の呼び名)は京大を卒業して、そのあと社会人をちょろっと経験して、すぐにマイファームを立ち上げたわけだけど。農体験する貸農園とか農業学校とか、流通の野菜販売、農家レストラン、農産物の生産と、農を中心にあらゆるビジネスを複合させてやっているじゃない。それで、ビジネスモデルが「自産自消」。これは、一体どういう意味なの?

西辻:「自分たちで作り、自分たちで食べてみる」っていう意味だけど、簡単に言うと、農業をもっと民主化したいって気持ちなんだよね。世間の人々と自然との距離が縮まるような行為そのものが「自産自消」ができる社会づくりになっていくから、身近に農業を感じてもらえるようになっていけば、社会全体が変わっていくんじゃないかと考えていて。

井本:なるほどなるほど。一番最初は貸農園から始まって、その理念を貫いて次々といろんなビジネスを複合させているのは、どういう流れで?

西辻:24の頃、自分の身近なところから事業化していこうと思って。世間一般で暮らしている人たちって農業体験とかベランダ菜園が一番近いところにあるはずだから、そこから入ろうと。次に、農業にさらに夢中になってもらうために学校に入ってもらおうと。そして、夢中になった人が地方に飛んで農業を始める手助けをしようと。最終的に、出来上がったものを生産物として生活者に食べてもらおうと。この循環ループを作りたかったんですよ。

「農業に興味→地方移住」から「地方移住→農業」へ

井本:今、結構空前の農業ブームというか注目が集まっている気風があるけど、それはかずまっちも実感としてある?

西辻:ありますよ! 今までは農業がしたくて、農業の勉強して、そのあとにやっとの思いで地方に行く人が多かったんですよ。でも、コロナがあってからは、地方に行きたいと考える人が増えてきた。そこで、そういう人たちは、地方にある仕事を考える。そしたら、農が紐づいてくる。つまり、順番が逆になってきてるんですよね。

井本:手段と目的が。

西辻:そう。だから、僕がもともとやっていたのも、たまたま今の流れと一緒で、要は「農を楽しむ」っていうのがビジネスになっているっていう。今の時代とマッチしてるのかなと思いますよ。

井本:たしかに。「勉強してから地方に行く」から「地方に行ってから農業をする」になってきてるかもね。どちらかというと、移住したいという文脈のなかに「農」という感覚がマッチするんだろうな。

西辻:そうそう。農業も選択肢の1つくらいで100%そこに力を入れなきゃいけないわけじゃないんですよ。だから、この『新・兼業農家論』なんじゃないんですか?

井本:おおっ、ありがとうございます!

癒しを求めて畑にやってくるエリートたち

井本:かずまっちがやってる貸農園に訪れる方は、農業をガチンコでやりたい人が来るっていうよりも、どちらかというとちょっと農を取り入れたいというか、「農的な暮らし」を始めたいという人が多いわけでしょ?

西辻:そうです、まさしく。

井本:農業ガシガシ大量生産大量消費!みたいな話ではなく、作物を育てて、それを愛でて、実ったらみんなで美味しく味わって、みたいなね。そういう「農的な暮らし」の中にあるものがとっても大事だってわかる人が増えてきたってことだと思うんだよね。そういう暮らしにフィーチャーする感覚。

西辻:奇しくもね、うちの農園って月額で7000円とかするんですけれども、一般的に考えるとちょっと高めなんですよ。だから、利用する人は30代40代の人がめっちゃ多い。ということは、ある程度所得があって安定している人がわざわざめんどくさい畑作業をしにきているという言い方もできるわけなんですよ。医者とか弁護士とかITエンジニアとか。生活の中に癒される時間が少ない方なんじゃないか?って人が求めてる。今後、テレワークが進んでいけば、その人たちが東京とか大阪に住んでないといけない理由もなくなるはずだから、そしたら「目の前にある土地を耕そう」っていう感情は当たり前に出てくるのではないかと。

井本:やっぱり、コロナによって、多くの人の思考や求めるものが変わってきたんだね。

徴兵制ならぬ徴農制!?

井本:一方で、かずまっちは戦後最年少で農林水産省の政策審議委員になったわけじゃないですか。大量生産大量消費が是とされていた時代がもう古いのはそうだけど、農業における国の今の動きとかはどう見てるの?

西辻:「食料農業農村基本計画」っていうのが、数年ごとに作成されるんです。市民の農的な参加がかなり増えてきたりだとか、農業学校っていうところの文脈も結構見て取れます。おもしろいと思うのが、食生活に対する意識。「農的な空間」に親しんでいる人が増えたら、いざというときの食生活に対して意識が高い人たちも増えるはずっていう。緊急時にアホほど買い占めたりとか、むちゃむちゃなことをしない人たちが多くなる、みたいな。そういった文脈、食育の発展型の「農育」みたいなところが、いざというときの食料の増減に耐えられる社会をつくるんじゃないかと。

井本:なるほど。僕は、徴兵制ならぬ徴農制みたいなのがあってもいいんじゃないかと思ってて。

西辻:おっしゃる方いますね。

井本:教育プログラムというか子供たちが育つところで、自分の力で作物を育てていく力が備わっていればもっと生きやすいんじゃないかなと思っていて。10代の自殺率が高いのは日本の社会問題だけど、「自分で作物を育てる」という意識や力が根底にあれば、生きる力に結びつくんじゃないかなと思っていて。

若者の自殺率と農的な暮らし

西辻農業に触れるっていうのは、自然の尺度に自分を合わせるってことなんですよ。ほとんどのビジネスは、人間の速度にその仕事を合わせるので、時間の早さっていうのは人間が勝手に決めている。けれど、農業は自然の速度に人間側が合わせるから、競争がないはずなんですよ。「競走」じゃなくて「いかに工夫できるか」を考えながら高めていくっていうのが、農のいいところだと思うんですよね。

井本:なるほど。今日のテーマ、「複業の可能性」っていうところでいくと、本業は違えど農業をやっていく現場は一緒にみんなで、というか。他の仕事もやっているんだけど、集まるのは畑、みたいな。そこで、仲間と農的な暮らしとか農的なビジネスも動かしながら、それぞれ別の仕事をやっていくみたいな動きがもっともっと巻き起こるかもしれないよね。

西辻:そう思います! さっき、日本の自殺率が高いって言ってたじゃないですか。それって、世界的に見て、日本人のアイデアのレベルが圧倒的に低いのが理由だと思っていて。

井本:圧倒的に?

西辻:うん。想像性が乏しいというか。たぶん、これは一定の時間のなかで工夫することだとか、畑みたいな開放感のある場所で新たなイメージを持つとか、そういうことを日頃からなかなかできないからだと思ってて。だから、「畑の時間を持つ」っていうのはビジネスにしろ、趣味にしろ絶対大事だと思うんですよね。いもっちゃんは、東京と広島を往復して暮らしてるじゃない。きっと、東京だけで暮らしていて農業をせずにThe CAMPusをしていたら全然面白くないと思います(笑)

井本:間違いない!

西辻:広島の生活があるからこそ、いもっちゃんのアイデアは面白いんだと思う。

井本:それね、本当に間違いないと思う。

土に触れる瞬間にリセットされる感覚

井本:土に触れる瞬間にちょっと自分がリセットされる感覚というか。そこでまた新たなアイデアが生まれてくる感じがするんだよね。農ライフって不思議だなって思うんだけど、そのすごい不便なような暮らしをやっていると時間がゆっくり流れる感覚があって、「あっそうだ!」って面白いことをひらめいたりする。そしてやっぱり、一人で孤独にやるんじゃなくて、仲間とやった方がいいと思うんだよね。

西辻:間違いないね。自然と触れ合うと恩恵だけじゃなくて、脅威を受けることもあると思うんですけど。「今年は暑いけど大丈夫かな~」とか「台風やばいな~」ってときに「やばいね」って言い合える人がいるかどうかっていうのは結構大事だと思う。

井本 喜久 (いもと よしひさ)
⼀般社団法⼈The CAMPus 代表理事
株式会社The CAMPus BASE 代表取締役
ブランディングプロデューサー
広島の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業するも広告業界へ。26歳で起業。コミュニケーションデザイン会社COZ(株)を創業。2012年 表参道でBrooklyn Ribbon Friesを創業し食ブランド事業もスタート。数年後、家族がガンになった事をキッカケに健康的な食と農に対する探究心が芽生える。2016年 新宿駅屋上で都市と地域を繋ぐマルシェを開催し延べ10万人を動員。2017年「世界を農でオモシロくする」をテーマにインターネット 農学校 The CAMPusを開校。全国約60名の凄腕農家さんを教授に迎え、農的暮らしのオモシロさをワンコインの有料ウェブマガジンとして配信中。2018年(株)The CAMPus BASEを設立。全国の様々な地域で農を軸に地域活性を図るプロジェクトをプロデュース中。
西辻 一真 (にしつじ かずま)
株式会社マイファーム 代表取締役
1982年福井県生まれ、2006年京都大学農学部資源生物科学科卒業。 大学を卒業後、1年間の社会人経験を経て、幼少期に福井で見た休耕地をなんとかしたい!という思いから、「自産自消」の理念を掲げて株式会社マイファームを設立。 その後、体験農園、農業学校、流通販売、農家レストラン、農産物生産など、独自の観点から農業の多面性を活かした種々の事業を立ち上げる。2010年、戦後最年少で農林水産省政策審議委員に就任。2016年、総務省「ふるさとづくり大賞」優秀賞受賞。2020年東京農業大学大学院在学中。将来の夢は世界中の人が農業(土に触っていること)をしている社会を創ること。
『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』  著・井本喜久
★AERA10/19号「アエラ読書部 森永卓郎の読まずにはいられない」で紹介!
★読売新聞「本よみうり堂」にて書評が掲載されました!(10/18)
都会と地方のよさを合わせた働き方をつくる!
・多拠点生活、地方移住、Uターン・Iターンに興味がある。
・田舎で自然に囲まれて、家族や仲間を大切にしながら暮らしたい。
・「食」や「環境」、SDGsにかかわる活動がしたい。
そんな方に提案したいのが「新・兼業農家」。
従来の農業は「大変で儲からない」というイメージが強いものでした。
しかし今の農業は、工夫次第で「楽しくて、カッコよくて、健康的で、儲かる」!
地方と都会を自由に行き来し、これまでの仕事や興味のあった活動と組み合わせ、相乗効果で成果を上げる働き方を可能にしてくれます。
それを後押ししてくれるのが、柔軟な発想・計画・マーケティング・営業・PRなどのビジネススキル。
ビジネスパーソンこそ、「新・兼業農家」に向いているのです。
本書で提唱する「コンパクト農家」は、ビジネス⾯での基準値を「0.5ha(1500坪)で年商1000万」に設定。
数多の成功農家に学びながら自身も二拠点生活を営む「インターネット農学校」校長と共に、新時代の農業の始め方について学びます。

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