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深津十一さんインタビュー

『秘仏探偵の鑑定紀行』の刊行をひかえた深津十一さんにお話をうかがいました。デビュー前のエピソードから今作への意気込みまで、お話は多岐にわたりました。どうぞお楽しみください。
(聞き手:松本寛大)

深津十一(ふかつ・じゅういち)
一九六三年京都府生まれ。第十一回このミステリーがすごい!大賞優秀賞受賞作『「童石」をめぐる奇妙な物語』(宝島社)でデビュー。他の著書に『花工房ノンノの秘密 死をささやく青い花』(宝島社文庫)、『 デス・サイン 死神のいる教室』(宝島社文庫)、『デス・ミッション』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
秘仏探偵の鑑定紀行 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2020年4月7日刊行)
 彫刻教室で助手をしながら仏師を目指している「ぼく」こと織田真人には、ある特殊能力があった。彫刻に手を触れると、その制作過程や心理状態が、作者の視点で追体験できるのだ。
 あるとき、教室にやって来たR大学准教授の八代にその能力を買われた織田は、仏像に関する仕事を手伝うことになる。合掌する像の傍らに錫杖が添えられた地蔵菩薩、奈良大峰山の山伏が所有しているという奇跡の秘仏――虚空蔵菩薩、阿寒湖畔の民芸品店で見つけられた数十体の円空仏。
 真人は准教授・八代とともに、仏像にまつわる三つの謎に挑む!

――デビュー作の『「童石」をめぐる奇妙な物語』は、ミステリーでありながらSFや伝奇の要素が強いように感じました。今回の『秘仏探偵の鑑定紀行』にも、伝奇の要素が見受けられます。もともとそうしたジャンルの作品がお好きだったのですか?

深津:私はミステリーの新人賞でデビューしたのですが、それまでの読書歴はSFや歴史小説、山岳小説など雑多なもので、ミステリーにすごく詳しいというわけではないのです。ミステリークロスマッチに参加されている方々とお話しすると、みなさんすごく専門的にミステリーを読み込んでおられるなあと、いつも感心させられています。

――雑多な読書歴とのことですが、具体的にはどのような本を読んでこられたのですか。

深津:ミステリーは、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを小学生の時に読んだのが最初です。それからホームズには行かずに、アルセーヌ・ルパンのジュブナイルシリーズへと向かいました。
 小学生時代はこれらのミステリーと並行して、眉村卓さんの『なぞの転校生』や『ねらわれた学園』。矢野徹さんの『新世界遊撃隊』なんかを読んだことを覚えています。その後もSFつながりで、同じく中学・高校時代には、小松左京さん、平井和正さんなどを中心に、当時出ていたものをほぼ全部読んだと思います。
 海外のSFでは、家の本棚に父親が買っていた『宇宙英雄ペリー・ローダン』のシリーズが何十冊かあったものを読み、続きは自分で買いました。200巻くらいまでは読んだと思います。

――それはすごい。

深津:ペリー・ローダンは、いまはかなり出ていますよね。(注:最近、600巻を越えました)

――『「童石」をめぐる奇妙な物語』のスラップスティック描写からは筒井康隆作品の影響を感じたのですが。

深津:たぶんいちばん冊数を読んでいるジャンルはSFで、筒井康隆さんもかなり読みましたね。あとはアーサー・C・クラーク、アシモフ、J・P・ホーガンその他いろいろ。
 歴史・時代小説では、山岡荘八、司馬遼太郎、池波正太郎……(延々と列挙)。今は、葉室麟さんを読んでいます。
 あと、渡辺淳一さんの医療小説、北杜夫さんのどくとるマンボウシリーズ、阿佐田哲也さんの『麻雀放浪記』シリーズも全部読んでいます。夢枕獏さんは伝奇シリーズから入りましたが、『神々の山嶺』が一番好きです。
 最近では、万城目学さんや森見登美彦さんはだいたい読んでいます。これら全部と比べても、小川洋子さんは私の中では別格です。
 本格ミステリーはそれほどの数を読んでいませんが、島田荘司さんの作品群は、文章自体にも惹かれるものがあって、ほぼ全部の作品を読んでいます。

――ほんとうに幅広くお読みですね。

深津:広く浅く、ですね。飽きっぽい性格なので、一つのジャンルを突き詰めるということができなくて、あれもこれも手を出してしまうんです。小説以外では、子供のころには偉人の伝記やファーブル昆虫記、シートン動物記などを繰り返し読んでいて、その延長で自然科学系の本は今でもよく読みます。
 福岡伸一さんという生物学の学者さんが一般向けに書かれているものは文章も美しいですし、立花隆さんの著作には知的好奇心をすごく刺激されます。

――『花工房ノンノの秘密』を拝読すると、登場人物が知的好奇心を大切にしているところが印象的でした。ことにラストでは探偵役が「人はなぜ花を愛するのだろう」という命題について語りますよね。

深津:自分の人生観や主義主張を作品に込めたいとは思ってはいないんです。むしろそうしたことは除外したいと考えています。『花工房ノンノの秘密』のあの場面で、花と人の関わりについての生物学的な話を書いたのは、文学的・感傷的な流れだけに持っていかず、科学的な根拠に基づいた説明を入れることで知的な面白さを盛り込みたかったというのがあります。

――もともと自然科学畑なんですよね? 石についての描写を見ると、フィールドワークなどもされていたのかなと思ったのですが。

深津:大学では教育学部の理学科に在籍していました。理科の教員免許を取得するためには、物理・化学・生物・地学の四分野を履修しなければなりません。地学の実習では、実際に山に行って石をひろってきて、割って、削って、磨いて、薄片標本を作ります。その標本の結晶構造から石の種類を判定する試験というのがありました。地学と同様に、生物の実習でも百種類の植物の標本を作るという課題がありました。『花工房ノンノの秘密』では、それらに加えて花屋でアルバイトをしていた経験が活きていると思います。

――『「童石」をめぐる奇妙な物語』は、約束をめぐる話だと思って読みました。登場人物は皆、過去に交わした約束を果たそうとします。明確な約束ではなくて、重荷や負い目と呼べるケースもあります。主人公の少年が祖母との約束を果たすことで結果的にべつの人物の重荷をとりのぞいてあげるという物語構造からは、深津さんの思いが読み取れるような気がしました。

深津:確かに、いろいろな約束を描いていますよね。

――『ノンノ』も過去の心残りが中心軸に置かれています。ああした構成は意図的なものでしょうか?

深津:意図的なものではなかったはずなのですが、いまのお話をきいて、自分には無意識のうちにそういう構成を組む傾向があるのかもしれないなと思いました。
 いま改めて考えてみると、私が小説に求めている面白さの中で大きなウエイトを占めているのは、ストーリー性なのかもしれません。ミステリーの場合も、トリックの部分を楽しむというのはもちろんありますが、物語としての流れの面白さがあるものを好んで読んでいたように思います。

――本格ミステリーについてはどう思われますか。

深津:本格ミステリーは、読者として楽しむ分には良いのですが、書くのは得意ではありません。トリックが思いつかないという致命的な問題と、あと、犯罪に至る動機を設定するのが難しいんです。
 一応は読者に納得してもらえそうな動機は思いつくのですが、ありきたりな怨恨やもののはずみといった面白みのないものになりがちなのです。自分としては、こういう動機があるからこそこういう物語が生まれるのだという必然性や説得力が欲しいんですが、そうしたものを取り込んで本格ミステリーを書くということがなかなかできないのです。それでつい伝奇的要素を含んだ色物っぽいものばかり書いてしまうのかもしれません。

――今回の『秘仏探偵の鑑定紀行』の主人公の設定には、『「童石」をめぐる奇妙な物語』と共通するものがあるように思います。

深津:ご指摘の通り、『「童石」をめぐる奇妙な物語』に近い肌触りの作品になっています。
 仏教の研究をしている大学の先生と見習い仏師の二人が、合理的な説明がつかない奇妙な仏像や、作者不明の仏像に関する謎の解明に挑むという話です。この謎解きに際して、大学の先生は論理的なアプローチをするのですが、見習い仏師は仏像の制作過程を見通してしまうという特殊な能力で大学の先生の論理を補強します。『「童石」をめぐる奇妙な物語』でも、主人公が過去に意識を飛ばして、奇妙な石の成因を知るという展開があり、そのあたりのさじ加減はよく似ていると思います。

――特殊能力者が探偵役の場合、能力そのものの意外性だったり、能力を使って謎を解くというギミック的な面白さがクローズアップされる場合が多いように思います。ですが深津さんの作品は違いますね。特殊能力を使って人の心に触れる、という話の作り方をしているのは、ご自身がそうした部分を大事にされているからではと思いました。

深津:謎解き自体は論理的に行われますので、ミステリーとして見た場合に特殊能力は必須ではありません。今回の作品でも、特殊能力は謎解きのためには補足的な位置づけです。ロジカルな推理によってパズルとしての謎解きは完結しますが、そこに物語性というか情緒的なものを付け加える役目として特殊能力者がいるという構造になっています。
 だから、特殊能力を作中に取り入れる理由は、実はおっしゃるとおりだと思います。そう言われてみると、なのですが。

――ああ、「そう言われてみると」というもので、意識的なものではないんですね。

深津:小説を書く時の自分のクセなのかもしれないですね。

――深津さんの作品はキャラクターの生き生きとした感じや物語性が魅力的です。

深津:先ほどお話ししましたが、『「童石」をめぐる奇妙な物語』では、主人公の意識が過去に飛んで、当時の状況を追体験するシーンがあります。今回の『秘仏探偵』でも同じように過去の出来事を再現するシーンがあります。編集者には、そうした部分の方がミステリー部分よりも評判が良かったですね。

――具体的にはどんなシーンなのでしょう。

深津:江戸時代の仏師がある依頼を受けて地蔵菩薩を彫るシーンと、現代の山伏が持っている古い仏像の制作過程を追体験するといったシーンですね。この二つに加えて、最後のエピソードでは阿寒湖温泉でこれまで知られていなかった円空仏が数十体見つかるという状況が出てきます。

――円空。江戸時代初期の僧侶ですね。日本各地を遍歴して、木を割って鉈や小刀で彫った荒々しい仏像を何千何万と作成したとか。

深津:円空は北海道へも来ているんですが、その行動範囲は胆振あたりまでといわれています。にもかかわらず、北海道一周旅行をしている学生が、阿寒湖畔のとある土産物店で数十体の円空仏を見せられて……というところから話が始まります。
 今回の「秘仏探偵の鑑定紀行」では、先の地蔵菩薩や山伏の持っていた古い仏像、そして北海道の円空仏に関する謎解きのエピソードが、最終的にはひとつの物語としてまとまるように組み立てています。

――もともと仏像にはお詳しかったのですか?

深津:特に詳しいというわけではありませんでした。ただ、父方の親戚筋が京都のお寺関係だったことから仏像には馴染みがあります。

――そうだったんですね。

深津:とはいえ、仏像に造詣が深いというわけではありません。今回も、いろいろな資料で一から勉強しながら書いています。帰省したときには、奈良の寺院に仏像を見に行きました。
 これまで小説の題材として取り上げてきた石にも、花にも、仏像にも、最初から興味を持っていたわけではありません。ただ、調べているうちに面白くなって、どんどんのめり込んでいくというのはありますね。

――人間に対する暖かい視線と、知識というものを大切にする態度とがひとつの作品に同居しているのが深津さんの作品の特徴だと思います。

深津:自分自身では、若い頃はとくに、ちょっとさめたところがあると思っていました。ですが、だんだん年を取るとまた違ってきたかもしれません。涙腺も緩んできましたし。老化ですかね。
 ただ、好奇心は旺盛な方なので、広く浅く雑学的な知識は持っていると思います。でもそのぶん、これだけは誰にも負けないといえるものがないんですよね。

――これまでの作品を拝読すると、題材はいろいろバラエティに富んでいますが、芯はブレていないような印象です。

深津:ブレていないというと良く聞こえますが、逆にいうとそういうものしか書けないんですよ、きっと。

――なかなか自分の中から出てきたもの以外の作品は書けないですよ。

深津:でも趣味ではなく仕事として取り組むのですから、よほどの大御所でない限りは、書きたいものだけを書くというわけにはいかないですよね。とはいっても、自分の本来の持ち味とまったく違うことは書けません。つまりは、求められているものを自分なりのやり方で書く、ということになるのかなと思っています。
 なにかで読んだことがあるのですが、一人の作家が書くテーマというのは大筋では決まっていて、それを手を変え品を変え、切り口を変えて書いているだけだと。自分もそうなのかなと感じることがあります。

――小説でも映画でも、その作家の処女作や学生時代の作品を確認するとのちの作品の原型が見えるということはよくありますね。

深津:自分がデビュー前に書いていた作品には、SFともミステリーともつかない話がたくさんあります。当時の作品は、商品化するという前提がありませんから、純粋に自分が楽しめるものとか、自分の好きなこととかを求めて書いていたように思います。そういう意味では、作品に込められている熱量は当時の方が大きいかもしれません。

――もともと作家志望だったのでしょうか。

深津:本を読むのは好きでしたが、書く側になるという考えは持っていませんでした。作家を目指すようになったのは社会人になってからです。その当時、ちょっとした小遣い稼ぎのために、公募ガイドという情報誌に載っていたキャッチコピーやネーミングの公募に応募していました。ある月の公募ガイドに、某児童書の出版社がミステリーの掌編を募集しているという情報が載っていまして、これに応募したところ、採用されてオムニバス形式の本に掲載されました。これは小説でもいけるんじゃないかということになって、北日本新聞が主催する「北日本文学賞」や「北日本児童文学賞」にも応募したところ(今の筆名とは別名で応募)、一つは入賞、もう一つは最終選考までという結果になりました。
 小説の公募で入賞すると、賞金を得るだけではなく、活字になって多くの人に読んでもらえます。このことにやりがいを感じるようになり、本格的に小説の公募に挑戦しはじめたのです。

――北海道ミステリークロスマッチのnoteに、『トミオ石』という短編を掲載させていただきました。そのころに書かれた作品ですよね。

深津:カドカワが主催する「野生時代フロンティア文学賞」に2回、「日本ホラー小説大賞」の短編部門に1回応募したところ、それぞれ最終候補までは残ったのですが受賞はできませんでした。
(今回掲載していただいた『トミオ石』は、「日本ホラー小説大賞」で最終候補作に残ったものです)
 カドカワの賞では最終候補までは残るのですが、どうしてもそこから先には進めませんでした。そこでいったん別の出版社の賞にチャレンジしてみようと思い、宝島社の『このミステリーがすごい!大賞』に応募することにしました。『トミオ石』では結局使わなかった「変わった石」の設定がいろいろありましたので、それらを取り入れたミステリータッチの長編を書いて応募したところ、優秀賞をいただくことができました。それがデビュー作の『「童石」をめぐる奇妙な物語』です。

――投稿を重ねるというのはとても気力のいることだと思います。

深津:小説が活字になる喜びに加えて、ちょうどそのころから、ネットを介して作家志望の方と知り合うようになり、そういう人たちとの交流があったことも、投稿を続けられた要因だと思います。

――では最後に、あらためて今回の作品について。

深津:そうですね……今回の作品の舞台となる京都の伏見、奈良の大峰山、北海道の阿寒湖温泉街は、すべて実在の場所です。主人公が特殊能力で追体験する過去の出来事も、ほぼ創作ですが一部は史実に沿った内容となっています。とはいえ小説はあくまでもフィクションです。どこまでがほんとうでどこまでが作り話なのかを探りながら、虚実織り交ぜて展開する物語を楽しんでもらえればと思います。

――ユニークな作風だと思います。

深津:本格ミステリーからはずいぶん遠い所にある作品ですが、デビュー作もいわゆるミステリーとしてはちょっと変わった感じだったので、出版社的にはこの作風でも許してもらえているところはあります。

――今回の作品のシリーズ化は考えておられるのですか。

深津:いやあ、具体的には考えていません。だって売れなきゃシリーズ化もないですしね。ただ、仏像に関してはいろいろ勉強したので、まだいくつか書けるだけの材料はあります。

――今作の自信は?

深津:自分では面白いと思っているのですが、どうかなあ。先ほどデビュー作にはその作者の持っているものが全部詰まっているという話をしましたが、今回の新作は、まあ、そのデビュー作と比較してもそこそこ面白く書けているんじゃないかなとは思っています。そもそも商品とする価値がなかったら出版社も本にしてくれないわけですから、まずまずの出来なのではないかと。

――謙虚ですね(笑)。

深津:デビュー直後は、この作品はベストセラーになるんじゃないかとか、いろいろ考えるわけですが、だんだん現実を知るにつれて謙虚にならざるを得ないです(笑)。ベストセラーにはならなくても、お金を払って本を買ってくれた方が、ああ面白かったと満足していただけるような作品になっていればいいなと思っています。

(2020年3月21日)


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